新元号発表
「ゲンタイです」
平成31年4月1日月曜日正午、テレビから流れる新元号を読み上げる官房長官の声が耳に入ってきた。「ふーん、ゲンタイなんだ」
漫画の本を布団の中で読んでいたから軽く聞き流したが、何だか聞いたことのあるような名前だと思った瞬間、心臓の鼓動回数が急加速した。
「ゲンタイって、俺の名前の音読みじゃないか」
頭の中で、もし新元号と私の文字が一緒だったら有名人になれるかという期待、プレッシャーからくる不安、似たような漢字はたくさんあるから違っているはずだという否定など、いろいろな思いが駆け巡った。今までの人生で一番、脳が働いた瞬間だったような気がした。
「まっ、まっ、まっ、まあ、文字を見なきゃね」
自分に言い聞かせるため、そして心を落ち着かせるため、独り言が思わず出てしまった。ただ、声の振えから察するにあまり効果はなかったようだったが。
慌ただしい新元号記者発表会場の様子がテレビ画面で流れている。いきなり画面を見て、文字を確かめる勇気は無い。布団で横になっているので、まずは眼球を動かして画面を確認しようとしたができなかった。仕方がないので、今度は頭そのものを画面に向けたところ、画面の中に毛筆で書かれた漢字2文字が、ぼんやりと見えた。
「良く見えないなあ」
よっぽど慌てていたのだろう、眼鏡をかけるのを忘れてしまったようだ。そして震える手で眼鏡をかけて改めて画面を凝視した。すると画面には、しっかり毛筆で書かれた俺の名前があった。
「はあっ、うーん」
布団から飛び起きて、画面に走り寄り、初めてまっすぐに凝視。先ほどからの心臓の鼓動回数の上昇はさらにアップし、高血圧の俺はそのまま倒れてしまった。