5話 家族みたいな夜
買い物を終えて3人が事務所に戻る頃には日が沈みかけていた。
時計を見ると5時過ぎていた。
それだけ買い物に時間をかけていたのだろう。
「もうこんな時間か、我妻さんはもう上がっていいよ」
と言いながら、江崎は給湯室に向かった。
それを見た綾が
「もしかして…江崎さんが夕ご飯を作る気ですか…?」
「ああ、そうだが」
「作れるんですか?料理」
「一応、君が来るまではここで1人で作って食べていたから」
彼女の心配はそういう事ではなく、人に食べさせても大丈夫な料理なのかという事だった。
「何かあったらいけないので、私も食べて帰ります!」
「そこまで疑うか…」
と言いながら、冷蔵庫から人参や玉ねぎを出して準備を始めた。
戸棚を開けると調味料などが置いてあった。
手前にあったカレーの箱を手に取り、賞味期限を確認して作り始めた。
絵梨は彼女と遊んでいたが、人参や玉ねぎをリズムよく切る音を聞いて給湯室に向かった。
「何を作ってるの?」
と覗き込むと彼が包丁を持って調理しているのが目に入った。
その瞬間、彼女が悲鳴を上げた。
それに気づいた2人は驚き、彼女に声をかけた。
「どうした?何があった?」
慌てる彼を見て泣きながら
「お父さん、やめて」
と小さな声で言って、そのまま気を失った。
2人とも何が起こったか全く分からないまま、彼女をソファーに寝かせた。
その後、料理は江崎から我妻がやることになった。
もし彼が包丁を持っているので、悲鳴を上げたのであれば何が起こるか分からない。
絵梨が気を失って30分ほどするとけろっとした顔で目を覚ました。
事務所内はカレーの匂いが漂っていた。
「カレーだ!」
とうれしそうな顔をして、給湯室に向かった。
その時は何もなく、彼女に抱きつき
「私の大好物知ってたの?」
「う~ん、子どもなら誰でも好きかなって思ってね」
と言いながら、ご飯とカレーをついで彼女に渡した。
「じゃあ、向こうの机に持って行って食べよう」
我妻は江崎の分と自分の分2つを持ってソファーに向かった。
カレーを受け取り、彼女は絵梨に小学校のことなどを聞いた。
「ねぇ、学校は楽しい?」
「うん、楽しいよ!友達と鬼ごっこしたり、勉強するのは嫌だけで一緒に勉強するから嫌じゃない。
でも、学校に今は行けないんだよね…」
と言いながら下を向き暗い表情になった。
「近いうち学校にも行けるから、それまではお姉ちゃんと遊んだりしようか」
「ほんと?」
「本当だよ」
と他愛無い話をしながら食事を終えると我妻と一緒に食器洗いをした。
2人が席を外している間に彼はメールを打っていた。
『ちょっと明日、そっち行くわ。
なんか、分かったかもしれないから』
それだけを打って送信した。
つづく