プリティー・サマーレース、閉幕--!!
"殭屍"に続いて”ウェンディゴ”を協力して倒したことによって、花×達プリティー・サマーレースの参加者の間には連帯感のようなモノが生まれていた。
花×達はウェンディゴを倒した勢いで、残りの各地域を踏破していく--。
~~美ら海水族館~~
巨大な水槽を眺めながら、イルと花×が感嘆の吐息を漏らす。
「うわわっ!あのサメ、凄く大きい~~~!!……花×!アンタ、早く写メで撮りなさいよ!」
「ちょ、今スマホ出すからそう急かさないでよ!」
そんな二人のやり取りを見ながら、彩華が苦笑を浮かべる。
「アラアラ、イルさんったら……モバイルバッテリーがスマホよりも優秀なのを証明するために、このレースに参加したんじゃないんですの?」
「ドスコ~~~イwww!!」
~万座毛~~
万座毛と呼ばれる険しい崖が有名な観光スポットでは、花×達が近くの自販機で購入した飲料水を飲みながら見渡す海を眺めた先へと進んでいた。
「あっ、イルちゃん。さっきの販売所で私が勧めた”オキナワご当地限定!”の飲み物を早速飲んでるんだ!……味の方はどう?」
「うん、スッ……ゴイ甘いけど、癖になる美味しさね!!これが140円で買えるなら、確かにアンタの言った通りかなりお買い得ね!」
「でしょ~!!……ちなみに、さっき見かけた別の場所だと、それ80円で売ってたんだよ?」
「ブフッ!?……コイツ、コイツ~~~!!」
噴き出してから口を拭うとすぐに、花×の背中を叩き始めるイル。
そんな彼女に「ちょっwwwやめてよ!私のまで零れる、零れる!」とおどけてみせる花×。
「何やってるんですの、貴方がたは……ドス子さんからも何か言ってあげて、って何をしているんですの貴方は!?」
彩華が注意した先には、海に向かって雄々しく何かを叫ぼうとするドス子の姿があった。
「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!女心を弄ぶ軟弱糞もやしのバカヤロー!そんな揺れるアタイの心を大らかな度量で受け止めてんじゃねーぞ、大海原コノヤロー!!」
そんなドス子に釣られるように、笑いながら歩を進めるイルと花×も続く。
「そうだー!過剰にスマホを持て囃す文明社会のバカヤロー!」
「これだけ便利な世の中になったのに、働くことを強要してくる世間の無言の圧力コノヤロー!!」
勝手なことを口々に叫ぶ三人を前に、思わず頭を抱える彩華。
「あぁ、もう……無茶苦茶ですわ!!」
「まぁまぁ、彩華ちゃんも気苦労が絶えなさそうだから、これを機に大きく叫んじゃいなよ!」
「花×の言う通り!アンタ、色々肩ひじ張り過ぎてんのよ」
当の本人達からドヤ顔で指摘されて、遂に彩華の堪忍袋の緒が切れる--!!
「誰のせいだと思っていますの!?……貴方達も、このレースに私を参加させた鈴音さんも文佳さんも運営も、全員揃ってバカヤローですわ~~~ッ!!」
~~せんべろ通り~~
商店街みたいな造りの通りにおいて、ドス子が早速名乗りを上げる。
「よし、そんじゃせっかくこういうところに来たわけだし、せんぺろで店を梯子しながら飲み比べるぞ!!」
「なにそれ!!スッゴイ楽しそう~~~!!」
「ちょっ、イルさん!!……貴方は色々マズイのではなくて?」
「おっ、何だ?草薙財閥のお嬢様は飲み比べで負けるのが怖いと見える……!!」
「ッ!そ、そんな話ではなくて……花×さん、貴方からも何か言って差し上げて……って、もう席についてる!?」
そんな彩華の発言でようやくこちら側の事態に気づいたらしい花×が、キョトンとした表情のまま不思議そうに問い返してくる。
「えっ?まずはここで飲むんでしょ?……あっ、ハイ。あぁ、荷物入れの籠があるんですか。ありがとうございます」
彩華にそう答えながら、店主から荷物入れの存在を教えてもらい、その中にエスカ☆武隷奴やどこにしまっていたのかその他の暗器を次々と放り込んでいく花×。
普段からこれだけの暗器の技術を使用していれば、母親に自室の掃除などさせずに済みそうなモノだが、彼女の脳裏にそのような考えが浮かぶ容量は微塵もなかったようである。
そんな花×を見やりながら、呆然とした表情を浮かべる彩華。
「……完ッ全に乗り気ですわね、コレ……!!」
「グフフッ、草薙 彩華選手。ここで戦わずして、敗北でゴワスかね?」
「……言ってくれますわね!こうなったら、トコトン最後まで付き合って差し上げますわ!!」
「オ~!!何か知らないけど、盛り上がってきたわね!」
そう言いながら、花×と同じテーブルにつく三人の選手娘たち。
そうして、楽しい時間はあっという間に過ぎていく--。
……ちなみに、飲み比べ大会は当初のドス子の思惑に反して、彩華がこのレース中の間やこちらの世界に来てから色々溜め込んでいたモノがあったのかそれらが一気に噴出したらしく、勝負にもならないほど酷い悪酔いした醜態を晒す事となり、梯子どころか一軒目で飲み比べは中止する事となった。
飲み慣れていないイルも褒められた酔い方ではなかったが、そんな彼女や普段は傍若無人なドス子、根っ子が自己中心的な花×までもが彩華の介抱に努めた時点で、何となく状況を察する事が出来るのではないだろうか。
「やれやれ、ここまで散々な目に遭うとは……ところで心の友よ、お主なかなかの酒豪でゴワスな?」
「ふっふ〜ん!私は"大人の女"だから、これくらい飲み慣れてるんだよ!!」
普段から人に気を使う事なくストレスを発散している二人は強かった。
そうして、迎えた最終ラウンド。
道中色々ありながらも、和気あいあいとした様子で四人はほぼ横並びの状態でレースに挑む--!!
『さぁ、最終コースはオキナワの那覇空港です!!皆様には、ここから飛行機に乗って各自そのままご自宅まで帰宅して頂きます!!……良いですか、安全に帰宅するまでがレースです!!今回参加したみんなが一等賞だぁ~~~!!』
優勝賞品どころか、優勝そのものがなくなり単なるかけっこ集団と化したプリティー・サマーレース。
突然の茶番的判断を聞かされたドス子は走りながら、怒りを通り越して呆れた表情を浮かべていた。
「いくら何でもレースっていう形式である以上は、嘘でも良いから順位を決めるべきだろ……最初から最後までとことんゴミクズな運営でゴワスな……」
そんなドス子の言葉を聞きながら、今度は彩華が呆れた様子で返答していた。
「もう、何言ってるんですの!貴女が瀬底大橋で運営の方々や実況の方に殺害予告なんかするから、暴れまわられる前に私達全員ひっくるめて厄介払いされてるだけじゃないですの!……全く、ドス子さんには呆れてモノも言えませんわ!」
そんな彩佳に対して、イルがニマニマと笑みを浮かべながら質問する。
「でも彩華?あんだけ、こだわっていたレースが茶番劇になっちゃったのに、言うほど怒ってないじゃない。あんだけ真剣さが〜とか言っておきながら、随分な心変わりだこと!」
「ッ!?う、うるさいですわね!イルさんこそ、あれだけモバイルバッテリーの優秀さを見せつける!と言っていたくせに、やっている事はただオキナワ観光満喫しているだけじゃありませんの!……花×さん、貴女からもイルさんに対して何か言って……って、もう先に行ってる!?」
彩華が視線を向けた遥か前方。
そこには、"FFダッシュ"を使用し、猛然と駆け抜ける花×の姿があった。
(……みんな、一斉にやる気が削がれている今のうちに……一気に勝負を決める!!)
本来ならば、暗器を用いて今の油断しきった三人を再起不能にしてしまえばこんなに全力疾走するまでもなく、圧倒的勝利を納める事が出来た局面である。
だが、花×はどういうわけか昨晩のせんべろの一軒めで皆が酔いつぶれたり介抱に忙しくて隙だらけだったにも関わらず、エスカ☆武隷奴以外の道具を全く回収することなく店を引き上げたのだ。
何故そうしたのかは、花×自身にも分からない。
ただ、このレースで何も得られなかったとしても、守るべきモノのために花×は疾走するーー!!
(いや、ひょっとしたら私はこのレースで何かを得ていて、それを守りたいから、今こうして走っているのかもしれない……!!)
そんな事を考えている花×に、慌てたような三者三様の声が掛かるーー!!
「ちょっと、花×!いきなり、本気出すなんてズルいわよアンタ!!」
「フフッ。私はそうは思いませんわね、イルさん。……普段ふざけているように見えても、土壇場で発揮する圧倒的な勝負勘の強さ。それでこそ、花×さんですわ!!……ゆえに、私も家柄や身分など関係なく!草薙 彩華という一選手として、正々堂々と貴女を打ち破ってみせましてよ!!」
「ドスコ〜〜〜イ!!心の友よ、こうなったらアタイの全力も見せてやるでゴワス!!」
そんな彼女達に振り返りながら、花×が笑顔で答える。
「アハハッ!!そうだよ、こっちこっち!……早く追いつかないと、私が一番乗りでみんなの事を置いてっちゃうよ!」
そんな花×の言葉に触発されたように、三人が猛然と迫るーー!!
「言ったわね〜!!……こうなったら、すぐに追い抜かしてやる!」
「誰が何を叫ぼうと、最後に勝つのはこの私……草薙 彩華ですわ!」
「ドスコ〜〜〜イ!!」
最後の目標地点に向けて、全力で駆け抜ける四人の選手達。
絶対に自分が勝ってみせる。
……だけど、ずっとこのままみんなで走り続けられたら良いのに。
大同小異であれ、皆がそれぞれにそのような想いを胸に宿しながら、彼女達は最高の瞬間のその先を目指して、走り続けるーー!!
那覇空港の入り口。
現在ここでは、四人の選手達が息も絶え絶えにしながら、へたり込んでいた。
みな激しく呼吸を行っており、誰一人として平気な者はいない。
それでも、皆一様に表情は明るかった。
「ハァ、ハァ……!!ど、どうよ花×!最後に勝ったのは私の方でしょ!」
「フッ、フフフッ、好きなように言ってれば良いけど、事実は変わらないんだよイルちゃん!……なんたって、私は世界で一人だけの"ハナバツ娘"。勝つのは主人公クラスの私と相場が決まってるんだから!」
「何よ、それ!そんなアンタの主観なんか、全然レースに関係ないじゃない!第一、そういう事言い出したら、私なんか世界で一台だけの"モバイルバッテリー娘"よ!!」
「二人ともおよしなさい!明らかに優勝したのは私だったでしょうに!……と、ドス子さん!仮にも淑女たる方が、このような場所で手足を投げ出したまま寝転がるべきではなくてよ!?」
「……おー、おー。敗残者共の悲鳴が実に心地よいでゴワス……これも勝者の特権でゴワスな……!!」
「「なんですって〜〜〜!!」」
「(デ〜〜〜ッブ♡)」
ひとしきり言い合ったあとに、誰ともなく笑い始める。
そうしてから、皆で最終地点である那覇空港内を散策する事にしたーー。
〜〜空港内・蕎麦屋〜〜
券売機で購入したご当地メニューを堪能し始めた花×達だったが、突如ドス子が盛大に叫び始めた事によって、事態は急変するーー!!
「ウ、ウガァァァァァァァァァ!?盛大に失敗したでゴワス!」
「どったん、ドス子ちゃん?彼氏との思い出がフラッシュバックしたところで、失われた時間は取り戻せないよ?」
「花×……アンタ、言うようになったわね……!!でも、本当にどうしたのよ、ドス子?」
幸か不幸か、花×の発言すら意に介さぬ様子でショックにうちひしがれているドス子。
ただならぬ様子に一同が困惑する中、ドス子がおもむろに口を開くーー!!
「う、うぅ……実は、このオキナワのレース中に食べた"ソーキそば"にハマったから、『値段が高けりゃ美味い!』理論で食券を購入したんだが……」
「「したんだが?」」
ゴクリ……と、息を飲む花×とイル。
どうせ大した事じゃないんでしょ?と言わんばかりに、ソーキそばを再度食べ始めた彩華とは対照的に、クワッ!!と勢い良く目を見開いたドス子が必死の形相で思いの丈を叫ぶーー!!
「アタイが注文したのは……アタイがこのオキナワでドハマりした"ソーキそば"じゃなくて、"軟骨ソーキそば"とかいう代物だったんだよ……!!」
「この蕎麦、うんめー!!」
「すいません、ウチのメンバーがお店の中で迷惑かけて……あぁ、そう言ってもらえると助かります!あと、このお蕎麦とっても美味しいです!」
「プルプルコラーゲンで、大変美容に良い事じゃありませんの。聞くだけ損しましたわ」
そんな花×達のつれない返事を聞いて、ドス子が再び激昂するーー!!
「うるせー!!プルプル軟骨は悪くはないけど、今のアタイは口の中でほぐれるような豚肉ちゃんを楽しみたかったんだよ!……こうなったら、土産物屋で自分用のソーキそばを購入するから、お前らも付き合えよコラァッ!!」
「何たる上から目線……これには実家暮らしのくせに、お母ちゃんの夕食のレパートリーに文句を言ってる私ですらドン引きするレベル……でもって、この中の誰よりも早く"軟骨ソーキそば"を汁も残さず完食してるし……」
「指摘するだけ無駄でしてよ、花×さん……」
「私、モバイルバッテリーだけど、人として本当に恥ずかしい……!!」
「ドスコ〜〜〜イ!!www」
「「「褒めてるわけじゃないよ(ですわ)!?」」」
こうして、土産物屋も満喫した花×達は搭乗受付口へとたどり着いた。
ーー誰も口にしないが、みな別れの時が近いのを感じ取っていた。
気がつくと、自然と四人が四人ともに向かい合う形になっていた。
「まったく、最初から最後までハラハラドキドキの連続だったわよ!……でも、アンタ達のおかげで本当に楽しかった。そこは凄く感謝してる……」
「イルさん……わ、私も貴女達のおかげでとても貴重な体験が出来たと思っていますわ!だから、貴女達も!この私に認められた事を胸を張って誇りなさいます!!」
「グフフッ、どいつもこいつも素直に礼を言えないひねくれ者ばかりときてやがる!……オゥ、三人とも!お前らは間違いなく、アタイの心の友でゴワスぞ!!」
そう言いながら、グルリ、と他の三人の顔を見渡すドス子。
ドス子が最初に視線を移したのはーーこのレース中に色々反目し合う事が多かった競争相手である草薙 彩華だった。
ドス子の視線に気づいた彩華は、「何ですの……?」と若干困惑した様子で尋ねる。
「彩華、オメーとは色々ぶつかる事が多かったが、それでもお前の実力やら責任感ってのは、紛れもない本物だ!他の誰でもないこのアタイが保証してやる!!……ただ、そういう肩肘張ったお前さんだからこそ、酒はほどほどにしとけよ!」
「なっ……アレは貴女方が無理やり……!!でも、御助言有り難く受け取っておきますわ」
そう照れ臭そうに呟きながら、プイッ!と顔を背ける彩華。
続いてドス子は、イルを見やる。
「イル、スマホの化身とかいう聞くだけでチャラそうな奴に、惚れた男を取られるんじゃねーぞ!!……お前はやれば出来る奴なんだ。モバイルバッテリーの底意地を見せてやれ!」
ドス子なりの豪快すぎる激励に、苦笑しつつも笑顔で答えるイル。
「まったく、何よそれ。……でも、ありがと。ドス子。アンタも、とびっ……きり良い女なんだから、早く新しい恋人頑張って見つけなさいよね!」
「ガハハッ!男なんざ、とっかえひっかえ片っ端から捕まえてやるから、イルも自分の男がアタイの魅力にひっかからないようにキチッと手綱握っておくでゴワスよ!」
そんなやり取りをして笑い合いながら、最後になった花×に視線を移すドス子。
「……花×。お前を最初に見たとき、アタイは直感で『コイツは何てふざけたヤローだ……!!』って思ってた。……でも、お前はそんなアタイを助けるために、獣欲に支配されたとてつもない毛むくじゃら野郎共を相手に懸命に戦ってくれたんだ……!!」
そして、ドス子がいつになく真剣な眼差しで花×を見つめる。
「だから、花×!!例え、今のお前が社会において何者にもなっていない状態だったとしても、そんな事で下なんか見る必要なんか微塵もねーんだ!!……お前はそんだけ土壇場で凄い事が出来る奴で、アタイ達の最高の仲間なんだ!ひたすらに前だけ向いて進んで行け!……そんで、自分なりの最高の勝利を掴めた!と思ったときには、アタイ達と盛大に祝杯をあげるでゴワスよ♡」
そんなドス子の激励に呼応するかのように、彩華とイルも続いていく。
「そうですわよ、花×さん。……貴女には、貪欲なまでに獲物に食らいつくハングリー精神が奥底に秘められているのですから、それさえ解放出来るようになれば、何だって出来るはずですわ!……わ、私にここまで言わせた意味をよく考えなさいまし!」
「まったく、彩華ったら……花×、どんな事があったとしても、アンタは私がオキナワで出逢えた最高の友達である事に変わりないわ。……だから、ドス子や彩華の図太さを見習って……うぅん、私の完璧さをも上回る勢いで、ビシッ!と決めちゃいなさい!」
そんなイルの発言を受けて、「アラ、イルさんもなかなかの自意識の持ち主ですわね!」や「流石のアタイも自分の事を完璧と言えるほど、図太くはなれないでゴワスな~!!」などと、茶化すドス子。
「あぁ、もう!何で私の時だけ茶化してくるのよ!?……花×!何とか言ってやりなさい!」
そんな彼女達のやり取りを見ながら、花×は目元を拭ったが、すぐに笑顔を浮かべて三人の仲間達に答える。
「任せてよ、みんな!なんてったって、私は世界で一人だけの”ハナバツ娘”なんだかんね!」
地方出身の花×と都会在住のイル達三人組は分かれて、別々の帰路に着く。
イル達三人が搭乗した飛行機が飛び立つ姿を、オキナワの大地から見つめるいくつかの人影があった。
『キャッ、キャッ……!!』
「何?俺達やられ損じゃないか、だって?……良いじゃねぇか、無事にレースも終わったみてぇだし」
それに、とキジムナーの頭目は目を細めながら、感慨深い様子で飛行機を見続けて部下に答える。
「何だかんだこのオキナワを楽しめたんならそれで良い。……なんてったって、俺達キジムナーは”ポカポカ陽気”が信条なんだからな……!!」
『ッ!?……キャッ、キャッ!!』
そうして、波乱の嵐は過ぎ去り彼らはもとの日常に帰還していく。
オキナワの大地にも、飛行機が飛んでいく空もともに。
皆の未来を祝福するかのように、どこまでも明るい日差しが降り注いでいた--。
「流れに任せて帰ってきちゃったけど……私一人だけ帰ってきたところでどうしたら良いんだろ……」
帰宅したイルは、途方に暮れていた。
というのも、自分はもともと同居人であるスマホの化身:須磨子の挑発を受け、彼女や自分達の所有者である青年:雅志に良いところを見せるために、”プリティー・サマーレース”に出場したのだ。
ゆえに、自分だけが帰宅すればオキナワの地で残った須磨子が雅志にどのようなちょっかいをかけたりするか分からない……。
モヤモヤした気持ちを抱えつつも、遠く離れた地にいる自分では手も足も出ない……と、諦めかけていた--そのときである!!
「おぉ、イルも無事帰ってこれたみたいだな!……お疲れさん」
やる気のなさそうな声ながらも、こちらを労う意思が込められた言葉。
イルが振り返った先には、片腕をあげてこちらに歩いてくる青年--鍵村 |雅志と若干ムスッとした表情を浮かべた須磨子がいた。
何故、オキナワにいたはずの雅志達がここに……と困惑するイルに、近づいてきた雅志がポンポン、と頭を撫でる。
「滅茶苦茶頑張ってたな、イル。……正直、最後の方はよく分からん展開になっていたが、俺が見る限りアレは完璧にお前の勝ちだったぞ、うん」
「え、あ、ありがとう……って、そういう事じゃなくて!なんで雅志や須磨子がここにいるのよ!?」
「?何って、お前らが空港でそのまま帰宅することになった、って聞いたから、俺も須磨子も慌てて追いかけてきたんじゃないか」
当然の事だろ?と言わんばかりに、首を傾げる雅志。
そんな彼に続くように、後ろにいた須磨子が口を開く。
「まったく、急遽予定が変更したとはいえ、連絡の一つはあってしかるべきでしょうに!……これだから、充電機能しかないモバイルバッテリーは駄目なのです!……私や主様にいらぬ手間を取らせないでくださいまし……!!」
「……こんな事言ってるけどコイツ、『帰宅しても独りぼっちだったらイルが可愛そう!』とか言いながら、俺の搭乗手続きを……」」
「あ、主様!!何でそういう事を口にしようとするんですの!?」
雅心の口を閉ざそうと慌てふためく須磨子。
そんなどこかずれた自分の所有者と気のおけないライバルのやり取りを見ながら、イルがクスリ、と笑う。
--たまには、ほんの少しだけ素直な気持ちを言ってみてもいいかな。
そう思いながら、イルが満面の笑みで二人に感謝の礼を述べる。
「ありがとう。雅志、須磨子……!!」
「そう言えば、アンタって外見は違うけど、彩華と結構被ってるわよね……って、何でいきなりむくれてんのよ!?」
「……自分でもよくわからないのだけれど、何だか面白くないんですの!」
「(……尊い)」
「あら、鈴音さんと文佳さんをオキナワに置いてきてしまいましたわね……一体、どうしましょうか?」
彩華も一人で先に帰宅したことに思案していたそのとき。
彼女の背後から慌ただしい声が聞こえてきた。
「お~~~い、彩華ちん!見つけた、見つけた~~~!!」
「……何とか、追いついた」
「鈴音さん、文佳さん!?せっかくのオキナワ観光はよろしかったんですの?」
彩華の問いに対して、鈴音と文佳がバツが悪そうに答える。
「……いや、もともと三人でバカンスするつもりだったのに、アタシ等が参加させたレースで彩華ちん先に帰らせて、アタシ等だけがオキナワ観光を楽しむのは流石に忍びないっしょ?」
「鈴音さん……!!」
「……それに、大会がうやむやになったから、トトカルチョの返金を迫られて這う這うの体で逃げ出してきたっていうのもある……」
「文佳さん……!!トトカル、チョ?」
「アハハッ、何でもない何でもない!それに、彩華ちんのお土産用の資金だけは何とか死守してオキナワご当地の酒を購入してきたから、無問題だ!!」
「お、お酒……!!わ、私、今回の件で多少懲りましたので、お酒は……!!」
「私達の酒が飲めねぇってのか!草薙財閥コノヤロー!!」
「文佳さんは、何で強気なんですの!?」
他の者達とは違い、誰も待つ者がいなくなった自宅に帰還したドス子。
だが、彼女の表情は明るい。
ドス子は、購入してきた自分用の『お土産ソーキそば3人前セット』の袋を開封しながら、早速調理に取り掛かる。
「よ~し、アタイも新しい恋に向かって前進するでゴワス!!このソーキそばは、そんな今までの過去を振り切って新たなスタートを切るための最初の挑戦よ……!!」
そのような意気込みのもと、調理を進めていくドス子だったが、すぐに驚愕の表情を浮かべる--!!
「は、はぅあ!?……『大きくて高そうだったら美味いだろ理論』のもと、土産物屋で購入したこのセットも、口でほぐれるような豚肉じゃなくてプルプルコラーゲンがウリの”軟骨ソーキそば”じゃねぇかァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
近隣の住宅地に、ドス子の破壊の咆哮が響き渡る--!!
「お母ちゃん!アタシ、オキナワの”プリティー・サマーレース”で頑張ってきたんだよ!!」
「アンタはアタシらを騙して、遊びに行っていただけでしょ!」
帰宅して早々、ごっそりとオキナワ土産を両手に抱えた花×の姿を目にした母親が怒りの声をあげる。
『トウキョウに就職活動をしに行く』と嘘をついて遠征資金を入手しただけに、母親の反論を許さない圧倒的な正論を前に、ぐうの音も出ない様子の花×。
--こうして、自称:家事手伝いである黄崎 花×は速攻で家を追い出される事となった。
だが、人々よ、それを悲しむことはない。
何故なら、母親に認められなかったとしても、花×にはオキナワで手に入れた仲間達との絆がある。
なにより、家を追い出される代わりに、彼女は50万円の預金通帳を渡されているのだから--!!
「うひょひょ!この50万円があれば、余裕で限定プレミアグッズを競り落とせますわ!!」
……破滅はそう遠くない未来かもしれない。
余談ではあるが、大半の部分が選手たちの馴れ合いと化したあのレースで、特異点を封鎖するための『女性達の真剣な想い』とやらが集まるはずもなく、運営の判断のもと、オキナワに開いた”アカテン時空”は”あかやしマイスター”と呼ばれる二人組の退魔師の男女によって迅速・安全・適正に封印処置をされることとなった。
『最初から、素人判断で物事を進めずにプロに任せとけば良かった、って事ですね!!』
『そうですね』
~~おしまい~~




