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プリティー・サマーレース、〜〜2ラウンド目〜〜

『さぁ、序盤からトップに躍り出たモノのそこからの脱落!からの戦闘!と、まさかの波乱を巻き起こす規格外イレギュラーな存在黄崎きざき 花×はなばつ選手!!他のレース選手であるイル選手、米豪俵こめごうだわら ドス子選手と協力して襲撃してきたキジムナー達を一掃しました!!……それにしても解説川さん、あのキジムナー達は何故急に花×選手に襲い掛かってきたのでしょうか?』


 腑に落ちない、という様子で解説川に疑問を尋ねる朱里香。


 どうやら朱里香達からは花×が吹き矢を使用してイルに騙し討ちをしようとしていた姿やドス黒い花×の笑みは見えなかったようだが、それだけに地元で生まれ育った彼女からすると、身近な存在である『キジムナー』が意味もなく人に襲い掛かるなどおよそ考えられる事ではなかったらしい。


 そんな彼女の疑問に対して、解説川も疑問を感じながらも私見で己の考えを述べる。


『ハイ、実況林さんが仰られる通り、キジムナーは”ご当地妖怪”として現地で親しまれるほど人懐っこい性格であり、人に対して子供のようなイタズラをしてくることはあっても、あそこまで狂暴に人に襲い掛かるはずはないはずです。現に、特異点である”アカテン時空”が開いてからもそういった被害は確認されたことはありませんでしたし……ですが、今回花×選手達の前に現れたキジムナー達からは、彼らが嫌うタコを見せつけても一歩も退かないような、気迫らしきモノを感じました』


『……”アカテン時空”の影響が今になって出てきた、という可能性はあるのでしょうか?』


『今の段階でははっきりとしたことは言えません。ですが、このレース開催中に彼らの身に異変が起きている以上、無関係と考えるのは難しいと言えそうですね』


『……解説川さんの仰られる通り、キジムナー達は本来陽気なお調子者であっても、人に進んで危害を加えるような乱暴者ではありませんでした。ですが、そんな彼らに異常を引き起こしているかもしれない”アカテン時空”を修復するためにも、このレースを頑張ってください!……選手の皆さん!!』


 地元で生まれ育っただけに、今回の件に対して思うところがあるのか、複雑な心境の面持ちで花×達に呼びかける朱里香。


 そうこうしているうちに、選手たちは第一関門に到着しようとしていた……。









「ゼヒュー、ゼヒュー!!……しゅ、首里城はまだかぁ~~~!?」


「もぅ、ドス子ったら、しっかりしなさいよね!!……あっ、あれが第一関門の首里城、かしら……?」


「……」


 盛大に息を切らせながらも何とか走るドス子、それを叱咤する形で並走するイル。


 そして、この二人を相手に抜け駆けする度胸もなく、完全にタイミングを逸した状態で流されるままに行動を共にすることになった花×。


 花×達はほぼ横並びとなる形で、第一関門である”首里城”にやってきたのだが……。


「……首里城って、こんな場所にあったかしら?何か、変な違和感を感じる……」


「何ぶつくさ言っているでゴワスか、イル……それよりも、どうやら先客がド派手にお出迎えしてくれているようでゴワスよ?」


 ドス子に促されて花×達が前を見やると、その先には現在トップであるはずの彩華の背中があった。


 ……途中で休憩を取り、戦闘まで挟んでいた花×達よりも遥か先へ進んでいたはずの彼女が、何故最初の第一関門に留まっているのか?


 その答えは、すぐに一つの影を落として花×達の前に姿を現した--!!


「ッ!?何をボサッとしていますの貴方達!!早くお逃げなさい!!」


 レイピアを片手に持った彩華が、鬼気迫った表情で振り返りながら花×達に呼びかける。


 花×が反応するよりも先に、何かが三人の前に物凄い速度で落下してきた--!!


 とてつもない衝撃で地面がひび割れ、爆砕音を辺りに響き渡る。


 花×達の前に姿を現したのは、2メートルは超える筋骨隆々の大柄な男性らしき人物だった。


 中華を彷彿とさせる赤が特徴的な色合いと全体的にゆったりとダブついた格闘着を身に着けたその人物は、面妖な事に顔の部分を覆い隠すような形で呪符らしきモノを額に張り付けていた。


 謎の人物は短く、されど獰猛な唸り声を上げる。


「グウゥゥゥゥ、リィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!」


「な、何この人……全く活力が感じられない!?……絶対に何かがおかしいよコイツ!!」


「でもって、何故かアタイらに対する闘気だけは剥きだしときたもんだ。……何だ、テメェ……!!」


 モバイルバッテリーの化身として対象の活力を感じとる能力を持ったイルと、破壊者として長年人間関係で傍若無人に振る舞ってきたドス子は、すぐに眼前の対象からのただならぬ異常を感じ取っていた。


 ちなみに花×は特に洞察力や関心もなかったので、他の二人と違って謎の人物が出てきたところで『何かのコスプレか……?アイドルでもないのに、こんな熱いところでようやるわ』とくらいしか感じていなかった。


 そんな花×達に対して、鬼気迫る表情で彩華が叫ぶ--!!


「何をボサッとしていますの!!その者は殭屍キョンシー、ここに繋がった”アカテン時空”を通じてやってきた外法のともがらですわ!!」


 ”殭屍キョンシー”。


 それは、恨みや未練を残してこの世を去った者が強い意思で不完全ながらも蘇ったり、何らかの道術によって不死なる戦士として復活を果たした者の事である--!!


 一般的に殭屍は生前の人間だったころと違い全身のリミッターが外れているため、非常に優れた身体能力を誇る上に、この殭屍に咬まれた者も殭屍になるという恐るべき能力まで有しているのだ。


 そして、花×達の前に姿を現した殭屍の脅威は、それだけではない--。


「クッ……何だ、コイツ!?アタイに力負けしていない上に、とんでもない武術を使いやがる!!」


「わ、私の髪も全然当たらないよ~~~!!」


 ドス子の張り手を軽くいなし、自身の背後から迫っていた電気を纏ったイルの髪も余裕で躱していく殭屍キョンシー


 そんな彼女達に向けて、彩華が注意を促す。


「その殭屍キョンシーは生前に武術を会得していたらしいため、単調な攻撃では倒せませんわ!……おまけに”アカテン時空”から得たエネルギーの影響でもあるのか、不死族アンデッドでありながら、この暑いオキナワの日差しでも平気で歩き回る無茶苦茶ぶり……まるで打つ手がありませんわ!」


 そう言いながらも、レイピアを片手に殭屍キョンシーへと斬りかかる彩華。


 そこで殭屍キョンシーは、好敵手を認めたかのようにドス子やイルのときと違い、積極的に彩華の剣と自身の拳を打ちつけながら、彩華に凄まじい連撃を放っていく--!!


「アイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!」


「クッ、何たる闘気……!!既に私でなければ、破れていますわね……!!」


 理性というモノを完全に失っているであろうに、恐らく生前の頃から全く衰えることなく研ぎ澄まされた武術の冴え。


 それらと渡り合いながら、彩華は内心で静かに思考する。


 何の己惚れでもなくこの尋常ならざる相手と立ち回れるのは、このレースに参加している選手達の中でも鈴音すずね文佳ふみか達と共に、もといた世界で日夜生死を賭けたやり取りをしてきた自分だけであるという自負がある。


 それだけに、何合も斬り結んだからこそ嫌でも分かる。


 今自分が戦っているこの殭屍キョンシーのとてつもない実力が--未だに、本気を出していない・・・・・・・・・のだという事を彩華は理解してしまっていた。


(この殭屍キョンシーという怪異が伝承通りの存在だとしたら……額に呪符を張り付けていたら大人しくなっている、はずですわ!)


 日差しの中で動き回れるようになったのと同じように、これも”アカテン時空”から流れ込んでくる力の影響だと言うのなら、まだマシな方である。


 だが、彩華が考えうる限り最悪の仮説--それは、この殭屍キョンシーは額の呪符で力を制御されてようやく、自分達が何とか拮抗出来るような実力になっているだけなのではないか、という事である--!!


 呪符が剥がれたらどうなるのかは分からない。


 だが、もしもこれ以上の本気が開放されるような事態になれば、このレースに参加している自分達だけでなく、このオキナワそのものが未曽有の事態に巻き込まれることになる。


 ”高貴なる者の義務ノブレス・オブリージュ”を胸にこのレースに参加した彩華としては、絶対に容認出来るはずのない事だった。


 ゆえに彩華は、レイピアを果敢に振るいながら眼前の殭屍キョンシーから目を離すことなく、事態を見守っているドス子達へと自分が言うべきことを伝える--!!


「米豪俵さん、そしてイルさん、と申されましたか。--何があったとしても、決してこの殭屍の呪符を剥がしてはなりませんわよ……!!」」


 どういう事なのか、と息をのむドス子達。


 それに構わず、彩華は言葉を続ける。


「……というか、ここで私が敗れるような事態になった時点で、この相手は貴方達でどうにか出来る相手ではありませんわ。……不本意でしょうが、大人しく運営に中止するように要請し、中央政府からこういった事態に対応出来るだけの強大な”検非違使けびいし”を派遣してもらうしかありませんわね……!!」


 その言葉を聞いて、間髪入れずにドス子が叫ぶ--!!


「何だとテメェ!!アタイらが、お前よりも弱い、って言いたいのか!?」


「ドス子!!……今は、そういう事言っている場合じゃないよ……!」


 激昂するドス子の腕をつかみながら、フルフル、と首を横に振るイル。


 そんなイルの言葉を聞きながら、すぐにクッ……!!と歯をくいしばるドス子。


 彩華の追いつめられた様子と声色から、ドス子もイルも--そして、彩華本人もこの相手には決して勝つ事が出来ない・・・・・・・・のだという事を肌身で感じ取っていた。


 ゆえに、今の彩華に出来る事は--人々の上に立つ者として、他の参加者である彼女達が逃げられる時間を僅かでも多く稼ぐこと。


 一太刀も浴びせることが出来ないまま、彩華は徒手空拳であるはずの殭屍キョンシーにじわじわ、と追いつめられていく--!!


 万事休すか、と思われた--そのときである。





「……いや、あの首里城って、なんか変じゃない?」





 場違いともいえるやる気のない声音でそう呟いたのは、言うまでもなく花×であった。


 突如始まった乱戦を前に最初は慌てふためいた花×だったが、殭屍キョンシーの興味の対象が彩華に移ると見るや、やることがなくて暇だと判断し、適当に辺りを散策することにしたのだった。


 緊迫した状況に不釣り合いな花×の意見に若干苛立ちつつも、イルがどういう事なのかと花×に問いかける。


「……まったく、こんなヤバイ時に何してんのよアンタは!……でも、首里城が変、ってどういう事よ?」


 その疑問に対して、花×が訝し気な視線を向けながらも答える。


「……いや、ちょっと試しに首里城の中に入ろうとしたんだけど、何か、全然あの首里城に近づけないんだよ。……っていうか、見ただけであの建物って色々おかしくない?」


「何言ってんのよ……って、ホントだ……」


 その声に釣られるようにしてそちらを向いたドス子も「なんだ、ありゃ……」と声を上げる。


 そこには、『ようこそ!首里城へ!!』という垂れ幕を入口らしきモノに垂れ幕として掲げた建物が、デカデカと聳え立っていた。


 しかし、それを見ても三人がその建物を首里城だと思わなかったのは、その建物の周囲にモヤらしきモノがかかっているだけでなく、風が吹いたりするたびに何やらヒラヒラ、と紙のように前後に揺れたりしていたためである。


 それを見ながら、ボソリ、とイルが呟く。


「何か、写真からそのまま抜き出ているみたい……」









 殭屍キョンシーを相手に剣と拳を交えながらも、上に立つ者として多角的かつ柔軟な洞察力で辺りを観察していた彩華。


 彼女は、花×の疑問とイルの何気ない呟き、それらの情報をもとに考察を始める。


(ッ!?も、もしや、この場所は……!!)


 鋭い洞察力から瞬時に答えを導きだしたらしい彩華は、レイピアで地面をえぐると、コンクリートの破片を卓越した剣技で寸刻みにし、それらを殭屍キョンシーへと弾き飛ばす--!!


「?……アイィィィィィィィィィィィィィィッ!!」


 何の脅威にもならない、と言わんばかりに、それらを軽く一掃する殭屍キョンシー


 だが、彩華にはその一瞬の静止のみで充分であった。


 殭屍の隙をついて、彩華が首里城のもとへと疾走する--!!


「?あの建物の中には、入れないよ?」


 花×が間延びした様子で言葉を投げかける。


 それに対して、「分かっていますわ!」と言いながら、彩華はレイピアを首里城へと向ける。


「……本来の場所に出現しないだけならば、この”アカテン時空”の影響で別の場所に転送されただけ、だという可能性も否定できませんわ。……ですが、ここに現れた”首里城”には思えば不審な点がいくつもありましたの……!!」


 例えば、見られては困るモノがあるかのように決して他者を寄せ付けぬようになっていたり。


 例えば、全体像が分からないように不自然にかかったモヤがあったり。


 例えば、堅固な建物であるにも関わらず、紙で出来たようにペラペラと揺れたり。


 一つ一つは大したことがない疑問だとしても、それらがいくつも重なれば途端に大きな疑念となる。


 それらの情報を結び合わせて、導き出される答えは--ただ一つ。





「この場所に出現した”首里城”は……”アカテン時空”を生み出した”観測者サクシャ”とでも言うべき存在が、本物の首里城を知らないために適当なイメージで生み出した偽物の存在なのですわ……!!」


「ッ!?あ、あの首里城が、適当なイメージで作られた偽物の建物だって!?」


 彩華からもたらされた驚愕の事実を前に、異口同音で驚きの声を上げる花×達だったが、今度は大きく目を見開くこととなった。


 なんと、彩華の背後から物凄い速度で殭屍キョンシーが迫っていたのだ--!!


「ウリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!」


 唸り声を上げて迫りくる殭屍キョンシー


 だが、対する彩華は先程まで立ち合っていたときと違い、泰然とした足取りのまま前方へとレイピアを構える。


「……実を言うと、自分で組み立てた理論ながらも半信半疑だったのですが……貴方のその必死な様子を見る限り、どうやらこの仮説は間違いではなかったようですわね……!!」


 距離がまだ離れているにも関わらず、レイピアを鋭く振るう彩華。


 彩華の一閃によって、真実を看破された偽りの建物が左右真っ二つに分かれていく--。


 それを皮切りに、空間にひびが入り始めたかと思うと、その亀裂から物凄い風圧と共に、偽りの”首里城”がかき消されていった。


 すぐに振り向き、後ろから掴み掛ろうとしていた殭屍キョンシーを迎撃しながら、彩華が相手に語り掛ける。


「諦めなさいませ。既に勝敗は決しましたわ。……今の貴方に出来ることは、潔く自分が出てきた”アカテン時空”を通じてこの場から去るか、このまま特異点から流れてきていたエネルギーを閉ざされた状態で太陽の日差しに焼かれて惨めに終わるか……私はどちらでも構いませんわよ?」


 不敵に笑みを口元に浮かべながらも、大粒の冷や汗を流す彩華。


 なんせ彼女が相手しているのは、既に死んだ存在でありながら、歪んだ形でこの世に留まり続ける殭屍キョンシーという不死者である。


 言葉が本当に通じているのか、という疑問はもちろん、こうして生者のように動き回りながら地上に存在している事自体が既に引き際を失っていると言っても過言ではなく、このまま”アカテン時空”へ引き返すことなく消滅するその瞬間まで、どれだけ朽ち果てようとも彩華に向かってくる可能性は充分にあり得た。


 既にエネルギーを供給していた特異点は塞がり始めているため、先程までのように太陽の中でも縦横無尽に動き回ったりはしないだろうが、それでも、瞬時にその効力が出てくるのかどうかかは、彩華には判別できない。


 力を大分使い果たし、この馬鹿げた挑戦に今持ちうる全力を使ったため、集中力も切れかけている。


 このまま戦闘が続けば、流石にこれ以上は対処出来ない--。


 これは彩華にとって、まさに一世一代の勝負であった。


「………………………………………………」


 無言のままレイピアを右手で掴みながら、爪を立てた左手を宙で静止していた殭屍。


 だが、右手をすぐにパッと放すと後方に飛びのき、ゆったりした左右の裾から短刀を取り出す--!!


 その数、およそ6本。


 それらを瞬時に閉じかけていた空間の亀裂に放ち、無理矢理空間を広げるとそこに向かって勢いよく飛び込んでいった。


「………………………………………………」


 去り際に彩華の方を見ていた気がしたが、表情が隠れているため真意のほどは分からない。


 だが、再び閉じていく空間の亀裂とともに、オキナワに出現した殭屍キョンシーは完全にこの場から姿を消していた--。










「ハァ~!し、死ぬかと思った~~~!!私、モバイルバッテリーだけど、それでも生きた心地がしなかったわ!!」


「それにアイツ、アタイが背後から張り手をブチかまそうとした瞬間に、素早く”アカテン時空”に撤退したでゴワス……!!」あんな奴とあのままやり合っていたら、絶対に全滅してたわ……!!」」

 

 命からがら、といった体で話しながらも、安堵のため息をもらすイルとドス子。


 彩華はそのやり取りに対して軽く同意を示しながらも、険しい顔つきを崩さない。


「……それだけではありませんわ。戦っている最中は気づけませんでしたが、あの殭屍キョンシー、短刀だけでなく他にも暗器を所持していた可能性がありますわ。もしも、それらを背後から……いいえ、最初から使用されていたら、確実に瞬殺されていたでしょうね……」


 その言葉を聞いて恐怖に青ざめるイル。


 だが、彩華の心境は対照的にそれとは程遠い羞恥や怒りといった感情で熱くなっていた。


(……既に知性を失っているはずの相手に、あそこまで手を抜かれていたとは……私も上に立つ者として、まだまだですわね……!!)


 そう黙考しながら、”アカテン時空”が消失した場所を見やる彩華。


「思えば、『ようこそ!首里城へ!!』という垂れ幕を表示することによって、他の疑念から目を逸らさせそこを本物に首里城だと思わせる、という初歩的な罠に気づかなかったとは……これでは、文佳さんにどこか抜けている、と言われても仕方ないですわね……」


 そのように自嘲する彩華に向けて、まぁまぁ、と花×が話しかける。


「まぁ、こうしてみんなで無事にアイツを撃退したんだし、それで良いじゃん!!……さぁ、これからのレースもみんなの力を合わせて、乗り切ろう~~~!!」


「もぅ、花×ったら!アンタはお気楽過ぎんのよ!!」


「まったくでゴワスな。……まぁ、今くらいはその能天気さがちょうど良いかもしれんでゴワスな!」


 そのように、激戦を乗り切って3人で和気あいあいと話していた--そのときである。





「いい加減になさいませ、貴方達!!……これからのレースも、その調子で行くつもりなんですの!?」





 ポカン、とした表情で彩華を見つめる3人。


 そんな彼女達の顔を見回しながら、険しい顔つきのまま彩華が口を開く。


「……事実として、助けられたことは素直に礼を言いましょう。……ですが、この地点に到達するときも仲良しこよしと言わんばかりに3人一緒に走っていましたが、貴方達は本当に真剣にこのレースに参加するつもりがあるんですの?」


 その発言に対して、ムッとした表情を浮かべながらイルが反論する。


「べ、別に私達は仲良しこよしのつもりなんかじゃ……」


「では、どういうつもりなんですの?少なくとも、私は貴方達から相手とレースで競い合おうという気迫のようなモノは全く感じられませんわね。……私達が参加しているこの”プリティー・サマーレース”は知っての通り、単なるレースとは程遠い文字通り生死を賭けた死闘と言っても過言ではありません。今のように”馴れ合い”意識が抜けないままなら……」


 そこまで口にしてから、スゥ……と目を細める彩華。


 その奥には有無を言わさぬ迫力が潜んでいた。





「貴方達、確実に命を落としますわよ?」





 そう言ってから、花×の方に顔を向ける彩華。


「特に黄崎きざきさん、と言いましたわね……貴方は、今回の戦闘中に特に何もしていなかったようですが、実家のご家族を安心させるだけならこのようなレースに参加する前に、マトモに就職する事をお勧めいたしますわ」


(みんなが言いにくい事を平然と言いおった此奴……!!)と言った表情で絶句するイルとドス子。


 そんな彼女達にも視線を向けて、彩華が厳しい言葉を口にする。


「貴方達も同様ですわ。……今回はたまたま”皆で力を合わせる”なんてやり方が通じましたが、これから先のレースはそれ以上に過酷なモノとなる。そしてレースである以上、どのような過程を辿ろうと最終的に待っているのは相手を”見捨てる”か”蹴落とす”の二択……下手に命を落としたり自身が傷つく前に、早々と棄権する事を提言いたしますわ」


 その言葉を皮切りに、ドス子の堪忍袋の緒が切れる--!!


「さっきから黙って聞いてりゃ、人の事情もロクに知らずにベラバラ好き放題言いやがってぇ~~~!!……第一、テメェはそのロクに活躍しなかった花×のおかげで助かったようなモノだろうがよ!」


「その件に関しては、先程礼を述べました。……ですが、そのうえでわたくしはそういう馴れ合い意識ではこのレースに勝ち抜くどころか生き残ることも出来ないし、またこのレースをそういった茶番に貶めるつもりは毛頭ないと述べているのです。……あくまで、これは命令ではなく忠告ですので、どうするのかは皆様で仲良く相談でもしながら、お決めなさいませ」


 その物言いに対して青筋を浮かべたドス子が、彩華に掴み掛ろうとする。


「テメェ、コノヤロ~~~!!」


 イルが「ちょっと、よしなさいよアンタ!!」と彼女を宥めようとする。


 そんな彼女達を傍目に、花×は珍しく静かに思案する。


 花×としては、正直ここでドス子に彩華を始末させても良かったのだが、殭屍キョンシーとの戦いぶりを見るに彩華は相当な手練れらしく、もしもドス子が彩華に返り討ちされるような事になれば、後方支援の方が向いているイルや、名家の御令嬢相手に手を汚したくない自分が彼女に対抗できるかは大いに疑問である。


 また、ドス子が宣言通り彩華を戦闘不能にしたとしても、今度はマトモな対抗馬を失ったドス子を牽制出来る存在がいなくなることによって、彼女の独壇場を許すことになるかもしれなかった。


(もっとも、ここでどちらかが欠けることになったとしてもこの高慢ちき女の言う通り、この先のレースのであの殭屍キョンシー以上にヤバイ奴が出てこないとは言い切れないし……結局、私が危険な目に遭う可能性が倍増するだけなんだよな~……)


 どう考えたところで、現在の段階ではどう転んでも確実性に欠ける上にリスクが増えるのみなのが悩みの種だった。


 序盤から無為無策で独走し脱落しかけた事によって、即決せずに多少は慎重な素振りを見せる花×だったが、もともとが普段からそんなに頭を使う性格ではなかったのでない知恵を絞ったところで出るモノはない。


 花×が脳内で勝手にこの局面を投了扱いしている内に、彩華は「それでは、皆様。無事に生きていられたら、また会いましょう」とだけ言い残して、その場を去っていく。


「オイ、コラ!!待てやゴラァ!」


「落ち着きなさいってドス子!!……花×もウンウン唸ってないで、何とかしなさいよ!!」


「フ、フゴッ!!……ゴメン、考えすぎてて寝てたわ!」


「アンタ、本当に何なの!?」





 --こうして、僅かながらも決定的ともいえるわだかまりを残しながら、花×達は第一関門をクリアした。--









 花×達のレース状況を見ていた朱里香が、慌てた様子で声を上げる。


『こ、ここで速報です!!……なんと、今まで忽然と姿を消していた本物の首里城が、この第一関門の特異点が消失したことによって、無事にもとの場所に戻ってきた模様です!!』


『建物を転移させ殭屍キョンシーを出現させる現象と思われていましたが、まさか、偽物だったとは……それを見破った草薙選手の洞察力には目を見張るモノがありますね』


 地元の人間として、やはりご当地のシンボルが元通りになったことが嬉しかったのか、朱里香が感情を込めて実況する。


 それに対して解説川は、今回の”アカテン時空”がどのような効果をもたらしていたのかを分かりやすく聴衆に説明し、選手としての彩華の力量に注目した的確なコメントを口にする。


『それにしても解説川さん、第一関門を突破したのは良いモノの、選手達の間にとんでもない波乱が生じる事になったようですが……この先はどのようなレース展開になると思われますか?』


『そうですね、今のところ個々でレースに挑むよりも協調する道を選んでいる米豪俵選手達が有利に見えますが……草薙選手は彼女達が到着するまで殭屍キョンシーを相手取り、更に鋭い洞察力や土壇場で勝負に踏み切る胆力も有しています。そういった実力に裏打ちされた自信からあのような態度になっているのでしょうし、やはり彼女が今レースにおいての最有力候補かもしれませんね』


『なるほど、解説ありがとうございました。……ところで、実は私の”朱里香しゅりか”って名前は、あの首里城から取った名前なんですよ!!気づきました?』


『そうですか』


 自身の名前の由来である首里城が戻ってきた事によって、テンションが上がり嬉しそうにはしゃぐ朱里香。


 それに対してそっけなく答える解説川に朱里香がふくれっ面を見せている間にも、花×達選手一行は次の第二関門へと向かっていく--。

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