プリティー・サマーレース、休憩……。そして、再開--!!
恨めしそうな顔をしながら前方に消えていった彩華の姿を見ていた花×は、そこでようやくイルに話しかけられたことに気づき、数秒ほどかけて言葉の意味を理解してから礼も言わずにひったくるようにイルから受け取った飲料を口に含んでいく--!!
「ズズズッ……!!あぁ~、美味いわ~~~!!……イルちゃん、だっけ?飲み物くれてありがとう!……でも、何で私の事を助けてくれたの?せっかく、レースで良い順位になれたかもしれないのに……」
そんな花×から飲み終わった飲料の容器を受け取りながら、「そんなの当たり前じゃない」と答えるイル。
「別にアンタを助けた訳じゃないわよ。……ただ、モバイルバッテリーの化身として、困っている人に活力を分け与えるのは当然のこと、ってだけだから……」
道路沿いで花×をある程度介抱してから、良くなったのを見て、少し和らいだ表情を見せるイル。
だが、それも一瞬のことであり、イルはすぐに引き締めた表情になると、これ以上は手心を加えない、と言わんばかりに前を見据える。
「体調も良くなったようだし、私はそろそろ前に進むわ。……良い?私はモバイルバッテリーとしてやるべきことをやっただけだし、この事でアンタが気にする必要なんて全くないから」
そう口にしてから、少し気恥ずかし気に花×の方に振り返るイル。
「……だから、この先は貸し借りなしで純粋に競争相手として真っ向勝負よ!花×!!」
「……うん!分かったよ、イルちゃん!」
そう感謝の言葉を口にしながら、へたり込んでいた花×はイルの差し出した手につかまって、彼女とともに再びレースを走り始める--!!
素直ではないがイルの心のこもった献身を受けて、花×もこのレースを通じてとうとう人生というモノに真剣に向き合うつもりになったのか?
--答えは、当然”否”である。
イルのすぐ真後ろについていく形で並走しながら、花×は思案する。
(……まさか、トップからいきなり滑り落ちるとは思ってもいなかったな~。でも、イルちゃんに助けてもらったおかげで、今の段階でならまだ2位になれる可能性もあるわけだし、もう少し頑張ってみるか!)
無論、25年間ロクにマトモな努力をしてこなかった花×の言う”頑張り”が真っ当なモノであるはずがない。
(最初のファインプレーはイルちゃんに良いとこ取られちゃったけど……今度は私が大活躍して、みんなを感動させちゃうぞ!)
そう言いながら、花×が懐から取り出したのは--小型の筒状をした暗器:吹き矢であった。
そっ……と口元に吹き矢を忍ばせながら、前を走るイルに狙いを定める花×。
(この吹き矢でイルちゃんを弱らせてから今度は私が介抱すれば、何か感動的なライバル関係!みたいな人間ドラマが出来上がること間違いなし!)
他の参加者であるドス子はバレたら殺されかねない気迫を感じるし、草薙財閥というのを花×は知らないけれど彩華は名家の血筋らしいので揉めたりして賠償になどなったら、家事手伝いの自分は間違いなく破産する。
そういった面からも、モバイルバッテリーの化身というよく分からない存在ながらも、単なる少女の姿をしたイルならば、こういった妨害工作をするには手頃な相手だと花×は判断していた。
(それに、イルちゃんが脱落すれば必然的に私が2位に繰り上がるはず……そうなれば、後は先頭の彩華ちゃんと良い感じで接戦を繰り広げたら、お母ちゃんを納得させられるようなレース展開を残せるはず!!……イルちゃん、私の明るい未来のために堪忍な……!!)
花×の脳裏に自分の事を介抱してくれたイルの表情が浮かぶ--。
だが、それも一瞬のことであり、すぐさま吹き矢を放とうとした--そのときである!!
「ヤイヤイ、そこのテメー!!せっかくのレースに卑怯な真似をしてんじゃねーぞ!」
キャッ、キャッ!という奇声らしきモノと共に、わき道から花×に向けて声がかかる。
何も身に覚えのないイルは一瞬キョトン、とした表情で辺りを見渡したが、すぐに何かの勘違いかと思い至り再び走り始める。
だが、邪悪な企みを見破られた花×としては気が気ではない。
すぐに足を止め、声のした方へと振り返る--!!
「な、何奴--!!」
「冷奴、と言ってやりたいところだが……せっかくの楽しい催しを!汚い妨害工作で踏みにじるような卑怯者に答えてやる義理はねぇぜ!!」
そう答えながら意気揚々と姿を現したのは、全体的に小柄で丸っこい姿、全身に毛を生やし顔らしき部分に勝気そうな表情を浮かべたご当地妖怪--キジムナーであった。
「な、何だと~~~!!」
激昂したような素振りを見せながらも、花×は吹き矢をしまい代わりにそっと別の道具を取り出す。
それは、エスカ☆隷奴のファンなら必須である9種類の輝きを放つサイリウム:”エスカ☆武隷奴”であった。
花×はエスカ☆武隷奴を剣のようにして後ろ手で握りしめながら、ゆっくりとキジムナーに近づいていく。
「おっと、嬢ちゃん!何をするつもりかは知らないが、俺っちは一人じゃないぜ?……オゥ、お前等!盛大に遊んでやれ!」
『キャッ、キャッ!!』
茂みの方から、呼びかけに応じて大量のキジムナー達が姿を現した。
それらを目にしながら、演技ではない心からの動揺の声を上げる花×。
「クッ……!!仲間を呼ぶなんて、お前の方こそ卑怯だぞ!!」
「黙らっしゃい!……俺のは仲間達との確かな絆。最初から不意打ち狙いしか出来ないようなお前とは、積み上げてきたモノの年季が違うんだよッ!!」
「コ、コノヤロ~~~!!正論で相手の意思を弾圧してくる上に、今更私がどうやっても手にすることが出来ないモノを誇りにして心を折りに来るとか卑怯だぞ!!オキナワのモラルハザードは深刻か!?」
何だコイツ……と言った様子で激しい動揺を見せたキジムナー達だったが、すぐに冷静さを取り戻し花×に襲い掛かる--!!
「クソッ、早くコイツ等を口封じしてイルちゃんのもとまで追い付かなきゃいけないのに……まさか、こんな事になるとはな……!!」
そうぼやきながらも、ライブで鍛え上げたボタン捌きを巧みに使い分け、メンバー達の輝きを宿したエスカ☆武隷奴の能力で相手を次々と切り刻んでいく花×。
戦力差をものともせず、このまま花×優位に戦況は進んでいくかと思われたが……。
「ッ!?ば、馬鹿な!何故、まだコイツ等は立ち上がってくるんだ!?」
その疑問に、最初に姿を見せた頭目と思われるキジムナーが答える。
「へへっ、俺達は人間達が言う”アカテン時空”とやらから流れてくるエネルギーを取り込むことによって、普通のご当地妖怪よりもほんの少しばかり丈夫に出来てんのさぁ……!!そんじゃ、今度はこっちから行かせてもらうぜぇ!!」
『キャッ、キャッ!!』
襲い掛かるキジムナー達を相手に、何とか応戦しようとする花×だったが、彼女にとって想定外はそれだけではなかった。
なんと、エスカ☆武隷奴の明かりがみるみる衰えていくではないか--!!
考えうる限りで最悪の展開だがーーこうなった原因は、ただ一つ。
「クッ……ここに来て、電池切れか……!!」
そう、花×は前回の激しいライブからさほど日を置かずにこのオキナワのレースに参加し、その間ロクに電池を新しいモノに替えていなかったため、ここに来てとうとうエスカ☆武隷奴に内蔵されている電池が寿命を迎えようとしていたのである。
これが次のライブだったら、花×もロクな収入がない割にライブ中に電池交換するような羽目になるのを避けるために事前に準備をしていたのだが、オキナワという普段は来ない地で浮かれた結果、このような危機を招き入れることとなってしまったのである。
万事休すか。
僅かに電力が残ったエスカ☆武隷奴を振り回しながら、花×がキジムナーを睨みつける。
「クッソ~……!!貴様等、このまま私によってたかって集団で性的暴行をくわえるつもりだな!?」
「黙れ、短足寸胴!その思い上がりごと、テメェの歪みきった精神を矯正してやる!!」
このまま、物理的にボコボコに殴られるしかないのか……。
花×の命運が尽きたかと思われた--そのときである!!
「ドスコーイ!!」
空気の壁を打ち破るような強烈な破砕音とともに、数体のキジムナーが吹き飛ぶ。
何が起きたのか、分からない。
それでも、声と音がした方に振り向くと--そこには、腰を落とし張り手のように右手を突き出した"プリティー・サマーレース”の競争相手:米豪俵 ドス子が佇んでいた。
ドス子の登場を前に、頭目のキジムナーがここに来て初めての驚愕の声を上げる--!!
「な、なんだテメェ!!突然現れて、一体なんのつもりなんだ!?」
そんなキジムナーに対して、猛然と食って掛かるようにドス子が叫ぶ--!!
「ゴチャゴチャ、うるせー!!……テメェら、何をブルマ履いただけのあざとい寸胴短足女に言い寄ってんだ?どうせ、語尾に『ニャン♡』とか言ってる姿にホイホイ捕まっただけなんだろうけど、こんなのどう見ても商売女に決まってんだろ!揃いも揃って馬鹿ばかりか!?」
……どうやら、最後尾からやってきたドス子からすると、この光景はいかがわしい恰好をした花×に対して、大量のキジムナーがちやほやしているように見えたらしい。
我慢ならない、と言わんばかりに、額に青筋を浮かべながらドス子が盛大に四股を踏む--!!
「……確かにアタイは、このレースでチャラついた他の参加者を全て皆殺しにするつもりだった。……だが!それ以上に、アタイには許せないモノがある!!」
--それが何か、お前らに分かるか?
言外にそのような意味合いを含みながら、無言の視線で戦場と化した地で立ちすくむ者達全てを見渡すドス子。
「……アタイが許せないモノ。それは、どんだけ媚びへつらったところで、影で店の女に馬鹿にされているだけにも関わらず、そんな事にも気づかぬままにスケベな表情を浮かべながらホイホイとエロい店に遊びに行くような軟弱な糞もやし野郎だァッ!!」
それは、同棲した彼氏が同僚の誘いで”おっぱいパブ”に行ったことによって破局を迎えた、ドス子らしい魂からの叫びであった。
だが、レースへの不正を見過ごせずに、”義侠心”とでもいうべきモノから立ち上がったキジムナー達からすれば、ドス子の言いがかりとしか言いようがない理屈を聞かされても、全く訳が分からない。
けれども分からないなりに、ここで下手な事を言えばこの狂獣に文字通り殺されかない……という事だけは、言語にならない自分達の根源に関わるような深い部分で理解していた。
ちなみに花×は『マジかよ……レースで競争するためじゃなく、私達を殺すために参加するとか、コイツヤバすぎだろ……!!』と自分の事を棚上げしながら、戦慄に身を震わせていた。
先程までの喧騒が嘘のように静まり返った戦場で、それでもここで退くわけにはいかない……と、頭目のキジムナーが声を上げる!!
「テメェら、ビビってんじゃねー!!俺達には、”アカテン時空”から流れ込んできた強大な力があるんだ!それを全力開放して、あの話が通じなさそうな太ましい姉ちゃんを大人しくさせるぞ!!」
『キャッ、キャッ……』
答えるキジムナー達の声にも張りがない。
だが、それでも頭目は呼びかける。
「何より!ここで俺らが退いちまったら、あの白い嬢ちゃん達がこれから先のレースでも危ない目に遭わされ続けるんだ!!……例え、このレースがそんなに盛り上がっていないモノだったとしても、俺達の生まれ育った故郷で頑張ろうとしている粋な連中の心意気を!薄汚れた企みなんかで踏みにじらせるような真似をむざむざ許して、それで”ご当地妖怪”の面目が立つのか?お前等!!」
『ッ!?……キャッ、キャッ!!』
頭目の檄を受けて、覚悟を決めたキジムナー達。
例え、ここでドス子を退ける事が出来たとしても、『特異点を修復する』という役目を持ったこのレースが成功してしまえば、自分達に強大なエネルギーを供給していた”アカテン時空”が消え去り、自分達は手にしたはずの力を失うことになる。
だが、それでも構わない、とキジムナー達は想いを一つにする。
何故なら、自分達はこのオキナワの地で生まれ育った”ご当地妖怪”であり、ときにイタズラをしながら地元の人々、訪れた観光客達と笑顔で過ごせればそれで充分だからだ。
強大な力なんていらない、ただ、この地に訪れた人々が楽しい思い出を胸にこのオキナワの地をときたま思い出してくれれば良い……。
そんなあまりにもまっすぐすぎる想いを胸に、キジムナー達は死地へと赴く。
「クククッ……何やら、くだらん御託を並べていたようだが、別れの挨拶は済んだのか?」
爛々と瞳を輝かせながら、殺意の波動を纏いし狂獣がキジムナー達の前に立ちはだかる。
例え言語を口にしようが、今のドス子は見定めた眼前の敵を屠るだけの殺戮兵器。
もはや、衝突は免れそうになかった。
それでも、キジムナー達は前を見据える。
「馬鹿言いなさんな。ポカポカ陽気を信条とする俺達キジムナーは、誰かを泣かせる”悲劇”なんか全くお呼びじゃないんだ!……テビチ丸出しなねーちゃん!この戦いが終わったら、アンタとも仲良くなれるはずさ!」
「テビチ?……よく分からんが、今さらアタイを”ピチピチ☆ギャル”とか持ち上げたところで、軟弱に女を持て囃すお前らの死は決定事項だ!!死ねッ!」
フォンッ!!と、激しい風圧を巻き起こしながら、張り手を振るうドス子。
張り手の動きを躱しながら、頭目が声を上げる--!!
「みんな、落ち着け!威力はデージナヤベーが、大振りだからよく見極めたらすぐに避けられるはずだ!」
『キャッ、キャッ!!』
頭目の助言を聞き、ドス子の攻撃を上手く避け始めるキジムナー。
そして、一斉にドス子へとキジムナー達が飛びかかろうとした--そのときである!!
「喰らえ、渾身の~……”エスカ☆武隷奴”!!」
花×が、残り少ない電力のエスカ☆武隷奴を振るい、ドス子に飛びかかっていたキジムナー達を盛大に薙ぎ払っていく--!!
何が起きたのか分からずにポカン、と見ていたドス子だったが、すぐに花×へと問いかける。
「お前……何故、アタイを助けた?アタイはレースの参加者であるお前達を一人残らずブチ殺すつもりだったんだぞ!?」
「フ、フフッ……何でかな?……ただ、人を助ける事に理由なんかいらないよ……!」
そう言いながら、ドス子を背に自分に敵意を向けるキジムナー達に対峙する花×。
言葉とは裏腹に、彼女の中ではどこまでも打算が蠢いていた。
(コイツ等の話を聞くに、狙いはどうみてもレースで妨害工作をしようとしていた私のみ……エスカ☆武隷奴の電池は残り少ないから私一人でこれ以上戦うのはキツイし、何やら勘違いからコイツ等と敵対してくれているこの豚足ウォービッグ女に、コイツ等を上手く処理してもらわないと……!!)
それに、もし上手くここを切り抜けられたら、ドス子に恩を着せる事が出来るかもしれない。
そうなれば、ドス子に花×以外の他の参加者を物理的に排除させ、うまく立ち回った末に自分がレースで優勝を掴むことも夢ではなくなるのだ。
窮地に立たされているにも関わらず、華々しい勝利を夢見ながら、花×の闘志は俄然やる気に満ちていた。
だが、ドス子の前面に出たことによって、キジムナー達の唯一の敵である自分の身をむざむざ曝け出すことになってしまった。
今ならコイツを倒せば全てが丸くおさまる……!!とキジムナー達が、猛然と飛びかかろうとしていた--そのときである!!
「待ちなさい!このレースで乱暴なことをするなんて、私が許さないんだから!」
なんと、白い髪をたなびかせながら、イルが花×達の方へと向けて走ってきていた。
護るべき対象だったはずの参加者であるイルが、このような危険な地に現れたことに困惑するキジムナー達。
だが、そんな事を知る由もないイルは、彼らの間を素通りしながら花×のもとにまで辿り着いていた。
「イ、イルちゃん!……どうして、ここに?」
「ハァ、ハァ……何言ってんのよ!アンタが急にいなくなったから、慌てて引き返してきたんでしょ!このバカ!」
「バ、バカ!?」
「うっさい、バカ!バカにバカって言って何が悪いのよ!……アンタ、復帰したばっかだから、無理して走らせたんじゃないかと思って、それで私は……!!」
そこまで言ってから、慌ててキッ!と花×を睨みつけるイル。
急いで引き返してきた疲れによるモノか、それとも、別の要因によるモノか。
彼女の顔は目に見えて真っ赤になっていた。
「別に心配したとかそういうわけじゃなくて、単に寝覚めが悪くなることすんな!ってだけだから!……か、勘違いしないでよね!」
「オ、オゥ……ここに来て、雑なツンデレ……!!」
「ッ!?な、何がツンデレよ!!」
そんなやり取りをしていた2人に、後ろから太ましい声がかかる。
「フフッ、御二人さん。仲が良いのは結構だが……まだ、状況は微塵も変わっていないでゴワスよ?」
ドス子の指摘で、ハッ!とした様子で振り向く花×とイル。
そんな彼女達の様子で気を引き締めたらしいキジムナー達の頭目が、イルに向けて話しかける。
「なぁ、白いお嬢ちゃん。俺達はそこの卑怯な体操服女からアンタ等を守ろうとしていたんだ」
余計なことを……!!
そんな感情を込めたように苦虫を噛みつぶした表情をした花×だったが、それに気づくことなくイルは頭目に向き合う。
「嘘よ!花×がそんな卑怯な奴なら、最初から全力で走りすぎた挙句に自滅するような真似をするはずがないじゃない!貴方が言うように、花×が本当にずる賢いヤツだって言うなら、優勝するためにもっと上手く立ち回っているはずよ!」
それを聞いて、押し黙るキジムナー達と花×。
実際のところ、花×はただ単に要領悪くて馬鹿をやっただけの卑怯者である。
だが、これまでのレースでの花×の動きを見て、本人以外にその答えに辿りつける者などいるはずがない。
頭目もたまたま吹き矢を使用しようとしていた花×の姿を目にして、慌ててそれを阻止しようとしただけであり、花×の真意や悪事の証拠など何も掴んでいなかったのだ。
「ッ!!いや、吹き矢があるじゃねぇか!」
花×がまだ所持しているはずの、吹き矢の存在を思い出した頭目。
度肝を抜かしたような表情を浮かべた花×だったが、イルにとっては直前の自分とのやり取りと頭目の吹き矢発言が上手く結びつかず、また感情的になっていたのも相まってそのまま畳みかけるように言葉を吐き出し続ける。
「花×はね、不器用だけど目標に向かって、全力でレースを頑張れる人間なのよ!!……そんな疲弊した状態でもレースに復帰しようと頑張る花×を寄ってたかってイジメようとするだなんて……私が絶対に許さない!!」
「そういう事でゴワスな。……と言ってもアタシは別にそんなつもりはないんだが、この花×とかいうのに助けられた以上は!ここで花×をお前等みたいな浮ついた毛むくじゃら共相手に、むざむざ輪姦☆ワンダーズさせるわけにはいかねぇんだよッ!!」
そう口にしながら、花×を自身の後ろに押しのけ、彼女を護るかのようにイルと並び立つドス子。
押しのけられた拍子に慌てたフリをしながらも、花×は素早く誰の目にもつかないように、証拠である吹き矢を地面に落としていた。
「クククッ……チャラついた見かけでも、女と見たらすぐに鼻の下と体毛を伸ばす事しか能がないようなアイツ等なんかよりも、よっぽど歯ごたえがあるでゴワスな。白いの!……精々、足を引っ張るなよ?」
「それはこっちの台詞よ!勝手に見かけで人の事を判断しないでよね!……第一、何いきなりマ、輪姦とか口にしてんのよ!……この下ネタ乱造兵器!!」
あのドス子を相手に、負けじと言い返すイル。
そんな彼女に対して、ドス子が当然の如くブチ切れるかと思われたが……。
彼女の見せた反応は、意外なモノであった。
ドス子はイルの反応に驚いた様子を見せながらも、なんと、相貌を崩してくぐもった笑い声を出していた。
「……ッ!?グフフッ、アタイの名前は米豪俵ドス子だ。二度と間違えるなよ、小娘……!!」
「それを言うなら、私にだって”イル”っていうしっかりとした名前があるんだからね!キチンと覚えておきなさい、ドス子!!」
「ふん、トラッシュトークのキレはまだまだだが、ビッグマウスだけはなかなかのモノじゃないか!……それだけの事を言うのなら、アンタが口だけの廃棄品じゃないって事を、アタイにとくと見せてもらおうじゃないか!」
「お生憎様!私はこの先もずっと人のために役に立つ予定だから、トラッシュトークも”廃棄品”だなんて称号も、まるでお呼びじゃないのよ!……でも、次世代のモバイルバッテリーが過大広告で終わらない事を、私が身をもって証明してみせてあげる!!」
不敵な笑みを互いに浮かべながらも、イルとドス子は明確な意思のもと、彼女達は花×を護ろうとキジムナー達と対峙する道を選んでいた。
『キャッ、キャッ……!?』
そんな彼女達を前にして、激しく狼狽するキジムナー達。
護るべきレース参加者であるはずの彼女達が、卑劣な違反者を庇うようにして自分達と敵対している。
自分達の唯一つの矜持すら喪失しかねないこの事態を前に、キジムナー達が慌てふためくのも無理はない話であった。
だが、それでもここで退くわけにはいかない、とキジムナー達の頭目は強い意思を持って眼前を睨みつける。
--そこには、2人の背に隠れながら、キジムナー達に向けてニンマリとドス黒い笑みを浮かべる花×の姿があった。
……あんな邪悪な者を、のさばらせたままにしてはいけない。
そう判断した頭目は、額から冷や汗を流しながら仲間に最後の檄を飛ばす--!!
「俺達があの嬢ちゃん達に、恨まれることになっても構わない!!このレース……いや!このオキナワで生きる全ての者達のために!!……あの悪霊も裸足で逃げ出すようなとてつもない邪悪を、ここで滅ぼし尽くす!!」
『キャッ、キャッー!!』
それは、この地で長い年月とともに人々と楽しく生きていく事を信条にしてきたキジムナー達が、それすら全て擲ってでも果たさなければならないと誓った魂からの叫びであった。
自身の信じる在り方のために、花×を護ることを決めたイルとドス子。
自分達のこれまでの在り方を全て擲ってでもやらねばならぬ事があると、花×を討滅する事を誓うキジムナー達。
そして、自身の欲望のためだけに活動し、背後でほくそ笑む花×。
今、この地で戦いの火蓋が切って落とされた--!!
「とは言ったモノの……クソッ、替えの電池を持ってきていなかったズェ~!!」
余裕の表情から一転、”エスカ☆武隷奴”の電池がない事に気づき、激しく取り乱す花×。
そんな彼女の眼前で、ふわり……と、一房の白い髪が揺れた。
「まったく、何をしてるのよアンタは……ほら、私の能力で充電してあげるから、これで何とかしちゃいなさい!!」
そう言うや否や、イルのポニーテールがエスカ☆武隷奴に巻き付いたかと思うと、たちまち輝きを取り戻していく--!!
「ウ、ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!流石、モバイルバッテリーの化身!電池で動いているはずなのに、何故か充電器の力で電力が復活し始めてる!!」
「もう!細かい事はどうだって良いでしょ!今は眼前の状況をなんとかしないと!」
「よっしゃ!これなら、今度はこっちの方から毛むくじゃら共をノクターン色に凌辱してやれるズェ~!!」
「りょ……ア、アンタもドス子も下ネタは控えなさいよね!」
そう言いながら、電力を纏わせたポニーテールを振り回し、キジムナー達の動きを止めるイル。
そこに、単調な動きながらも超重量級であるドス子の張り手が炸裂する。
彼女達のコンビネーションでも対応出来ない敵は、花×の”エスカ☆武隷奴”による凄惨な凌辱劇を連想させる斬撃により、キジムナー達は次々と戦闘不能になっていた。
”アカテン時空”から流れ込んだエネルギーで強化されていたため死者は出ていないが、これ以上の犠牲は出せない、と頭目は判断していた。
頭目は苦渋の表情を浮かべる。
「やむを得ねぇ……流石に、これ以上の犠牲を出すわけにはいかねぇ。みんな!ここは撤退してくれ!これは頭目命令だ!!」
頭目の命を受け、負傷した仲間に手を貸しながら撤退していくキジムナー達。
仲間とともに戦場を後にしながら、悲壮感漂う表情で頭目がイル達のいた場所へと振り返る。
(すまねぇ、嬢ちゃん達。……負けちまった以上、ここから先は俺達じゃアンタらをアイツから守ってやることは出来そうにねぇぜ。……それでも何とか、無事にこのレースを生き延びてくれ……!!)
恨み言を口にするでもなく。
ただただ、最後まで花×を除くレース参加者の安否に想いを馳せながら、キジムナー達はその場から撤退していく……。
「ふぅ〜!!追うのも一苦労だし、そこそこ暴れて気が済んだから、このくらいで許してやるでゴワスかね!」
「フフン!どうよ、ドス子!!これが私の真の実力よ!」
「いやいや、護るはずだった花×を戦わせてる時点で、まだまだでゴワス……!!」
「うぐ……で、でも、それを言ったら、止めなかったアンタも同罪じゃない!!」
キジムナー達の心境など露知らず、そんなやり取りをするイルとドス子。
そんな彼女達を尻目にしながら、花×は先程地面に落とした吹き矢を回収しようと試みる。
(あの毛むくじゃらが騒ぎ出したときは、もう駄目かと腹をくくったけど……どうやら、ツキはまだ私に向いているようだね♡)
このまま、ひたすらに悪は栄えるのみなのだろうか。
花×が吹き矢に手を伸ばそうとした--そのときであった。
「オイ、新たなる心の友よ!お前の方からもイルに何か言ってやるでゴワスよ!」
そう言いながら、近づいてきたドス子の足に踏まれる形で、ペキッ!と吹き矢が音を立てる。
絶句する花×の顔を見てキョトン、としていたドス子だったが、すぐに足元に気づき吹き矢の残骸を拾い上げる。
「ありゃ、何でゴワスか?このスクラップ……イルの知り合い?」
「ちょっと!確かに私の知り合いには、顔を突き合わせるたびにイヤミを言ってくるスマホの化身がいるけど、あの子はスクラップなんかじゃないわよ!謝りなさい!!」
「……イル。お主、他に友達いないんでゴワスか?」
「~~~ッ!!う、うるさい!うるさい!!ドス子のバカ!……でも、花×。これ、もしかして、アンタの大事なモノだったの?」
ドス子の超重量級な体重に押しつぶされたおかげで、吹き矢は判別不能なほど粉々になっていた。
追及されても厄介なので、花×は慌てふためきながらも、イルの発言を否定する。
「ア、アハハッ!チガウヨ?……何か、見慣れないモノが落ちていたから、拾ってみようかな~って思っただけだから!」
「……そうなの?もう、道端で落ちているからって、それが安全なモノであるなんて保証はないんだからね!気をつけなさいよ、アンタ!!」
「……ハ~イ」
内心で自分は子供か!などとイルに突っ込みつつ、イルやドス子と共に再びレースに戻り始めた花×。
武器の一つを失う形になったため、大きな痛手となったはずなのだが……。
(……まぁ、今はアレがなくても別に良いかな……)
チラリ、と粉々になった吹き矢の方を見やった花×だったがそれも一瞬の事であり、すぐに前を走り始めたイルやドス子の背中を追い始める。
自分の中に生じたこの感情が何なのかは分からなかったが、花×は軽快な足取りのまま、前へ向けて走り続けていたーー。




