プリティー・サマーレース、〜〜1ラウンド目〜〜
『さぁ、プリティー・サマーレースの1ラウンド目ですが、まずは"首里城"に向けて、普通に走っていただきます!!……それでは、ここで解説としてお招きした解説川 万智子さんをご紹介いたします。……今日は、どうぞ、よろしくお願いします!』
『はい、ただいまご紹介にあずかりました解説川 万智子です。本日はよろしくお願いいたします』
朱里香の紹介を受けて、妙齢の女性:解説川 万智子が挨拶をする。
雑談もそこそこに二人は、早速走り始めた4人の選手達の実況を始める。
『さて!首里城まで向かうまでの第一レース、まずトップに躍り出たのは、
名門である草薙家の血をひく御令嬢:草薙 彩華選手!!
その背後を狙う形で、若さ溢れるモバイルバッテリー娘のイル選手!
やや離れた場所から黄崎 花×選手。
そして、順当というべきか、鈍重な音を響かせながら米豪俵 ドス子選手が最後尾を爆走しております!……解説川さん、やはりこのレースは草薙選手のように、速く走れる選手の方が有利なのでしょうか?』
現在の順位を説明しながら、朱里香が解説川に意見を求める。
それに対してにこやかに微笑を浮かべながら、解説川は自身の解説を述べ始める。
『そうですね。"速さ"というのは確かにこのレースにおいて重要な要素ではあります。……ですが、今回のレース開催地:オキナワは、何が起きてもおかしくない特異点:”アカテン時空”とつながった混沌地帯。場所によっては、速度以上に腕力が必要とされる場面も出てくるかもしれませんね』
『な、なるほど!!……と解説して頂いたところで、早速大きな動きが出てきました!!トップに躍り出たのは~、な、なんと!黄崎 花×選手です!!』
朱里香の実況に答えるように、そこには3番手として走っていたはずの花×が腕を大きく振りながら、猛然とした勢いで自分の前を走っていたイルや、トップの彩華を追い抜き爆走する姿があった。
……余談ではあるが、『レースの参加者は水着着用』と言われていたのに、あざとさ重視なのか20を過ぎているのに、ブルマの体操服姿で参加しているあたりに花×の協調性のなさが如実に発揮されていた。
(ふ、ふん!ファインプレーさえ出来たら、優勝する必要はない!と思っていたけど……警戒していた他の選手達の速度がこの程度なら、私の全力をもってすれば断然追い抜かせる!!)
そのように思考しながら、花×はこの一瞬に全力を込め、鬼神を思わせる形相を浮かべながら全力疾走する--!!
(私の名前は、黄崎 花×!……結果を得られるときは、容赦なくそれをもぎ取りにいける女だけんね!)
グングン追い抜いていく花×の姿を目にしながら、驚いた様子で朱里香が隣の解説川に問いかける。
『解説川さん、鬼気迫る勢いの花×選手の走法ですが……あれは、一体なんなのでしょうか!?』
『はい、あれは”FFダッシュ。……自身に知性を与えてくれた存在のために、奔走する戦士の姿を模した走法です……!!』
『ふ、FFダッシュ……!?』
”FFダッシュ”。
解説川が述べた通り、それはまさに命の炎を燃焼しながら全力疾走する、と言っても過言ではない伝説的走法である--!!
花×は、追っかけをしている男性アイドルユニット:”エスカ☆隷奴"の限定グッズを入手したり、メンバーの貴重な瞬間に少しでも早く・近くで立ち会うために、この走法の使い手であるマスター・ムショガエリに熱心に師事した末に、ついに、その技術を会得していたのであるーー!!
……その熱意を僅かでも実生活で活かしていたら、花×は現状のような目には遭っていなかったのかもしれない。
一方実況席では、聞き慣れぬ”FFダッシュ”という走法に対してピンと来ていない様子の朱里香に対して、解説川がその凄まじさを説明する。
『”FFダッシュ”は、走者に飛躍的な速度をもたらしますが、それは諸刃の剣。伝承にある”破滅をもたらす魔剣”の如き代物。……”FFダッシュ”は使用するほどに、走者の身体から急激に水分を喪失させていくのです……!!』
『ッ!?ぜ、全身の水分をですか?』
『はい。それはまさに、水の中でしか生きられないプランクトンという生き物が乾いた畑の上に上がってきたが如き勢いで、現在花×選手の体内からは水分が失われているはずです。……恐らく花×選手、この瞬間に勝負を決めようと全てを賭けてきたのでしょうね……!!』
『そ、そんな……!!』
ゴクリ、と驚愕のあまり唾を呑み込む朱里香。
信じられないモノを見たと言わんばかりに花×を見やりながら、朱里香は恐る恐る口を開く--!!
『……だって、レースってまだ始まったばかりなんですよ?』
『…………』
『さ、最終局面であの走法を持ち出してくる、とかいうならまだ分かります!でも、まだ最初の難関である首里城にすら辿り着いてもないんですよ!?……な、なんで、花×選手はあの局面でそんな自爆技を使用したんですか!?』
『…………』
『いくら序盤で圧倒的に周りを追い抜かせたとしても、そのままの順位を維持できなかったら抜かされるだけじゃないですか!?花×選手は何の勝算があってここで勝負に出たんですか?……黙ってないで、答えてください!解説川さん!!』
自分の理解の及ばない行動に出た花×の奇行を前にして、激しく困惑しながら解説川に詰め寄る朱里香。
だが、朱里香にどれだけ詰られようとも、解説川は無言を貫き通すほかなかった。
それも無理はない。
何故なら彼女に限らず、この場にいる誰であろうと、花×が何の計算もなくただ単に『他の選手を追い抜かせそうだから』という単純な理由で勝負に出たのだとは、微塵も思いもしなかったからである。
「ゼ、ゼヒュ~!!……か、完全に配分も……勝負するべき部分も……何もかも間違えた……!!」
肩で息を繰り返し足をガクガク震わせ、脇腹を押さえながらノロノロと歩いている内に、うっすら聞こえてきた実況の朱里香の声。
ここに来て花×は、自分が初めて致命的なミスを犯したことに気づいた。
「……ク、クソ~!!あの点美に負けず劣らずのビッチ共め~~~!!……私が追い抜かせそうな速度で走って油断させながら、本気を引き出させる作戦だったんだな……!!策士、盛大に策に溺れてやったぜ~~~!!」
事実はただ単に、彩華やイルが今後に備えて力をセーブして走っていたのを、花×が勝手に追い抜ける!と直情的に判断しただけの話である。
おまけに”FFダッシュ”を使用するのも、どんなライブ会場だろうと走り込みのような迷惑行為は原則として禁止であったため、実際に実戦で使用するのは今回が初めて……という圧倒的な経験値不足も大きな敗因の一つであった。
そんな花×の背中に、颯爽と彩華が追い付いてきた。
(黄崎さん、と仰られましたか。悪く思わないでくださいましね。……自業自得とはいえ、困っている庶民の貴女を見捨てるのは些か心苦しいのですけれど、これもレースという勝負である以上、私は相手が誰であれ手を抜いたりなど致しませんわ……!!)
ここで花×に手を差し伸べることは簡単だが、それではこのレースのために必死に走っているイルやドス子といった他の選手を蔑ろにし、このレースを茶番に貶める愚行である。
それでは自分を応援してくれた鈴音や文佳の意思に報いることが出来ない……と判断し、彩華は花×を尻目に追い抜いていく。
どんな相手であろうと立場や身分に関係なく真剣に向き合う--そんな草薙 彩華という彼女の在り方を如実に表した行動であった。
続いて花×の後ろから追い上げてきたのは、モバイルバッテリーの化身である少女:イルであった。
彼女もレースに参加している以上、選手として花×を追い抜かしていくばかりかと思われたが……。
「まったく、何やってんのよアンタは!!これあげるから、少し休んでなさいよね!」
そう言いながら、イルは自身が所持していた携帯飲料を花×へと差し出していた--。




