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プリティー・サマーレース、開幕--!!

「さぁ~、いよいよ開催を迎えることになりました、プリティー・サマーレース!!……皆さん、盛り上がってますか~~~ッ!!」


 今回のプリティー・サマーレースの実況を担当することになった女子大生:実況(じっきょうばやし 朱里香 しゅりかは明朗快活をそのまま絵にしたような弾ける笑顔で会場内に呼びかける。


 だが、ここに集いし都合4名の参加者は皆一様に異様な雰囲気を纏っており、誰一人として楽観的な表情を浮かべている者はいなかった。


 そんな彼女達を順番に紹介していく朱里香。


「はい!それではエントリーナンバー1、モバイルバッテリーの化身:イルちゃんです!!皆さん、拍手ー!!」


 パチパチパチ、と参加者たちの間からまばらな拍手が響く中、紹介された白い髪色をポニーテールに結んだ白ビキニの少女は、ただムスッとした表情を浮かべていた。


 彼女の名前はイル。


 かつて持ち主である大学生の青年が、自分の事を過充電したまま就寝する習慣に腹を立て、怒りのあまり人間の姿で顕現したスマホの充電器:モバイルバッテリーの化身である。


 今日は青年の夏休みを活かして彼と自分、そして厄介な邪魔者の3名で、オキナワに遊びに来ていたのだが……。


(見てなさい、須磨子すまこ……!!スマホとモバイルバッテリー、どちらが優秀な存在なのか、圧倒的な勝利を持って教えてあげるわ!)


 須磨子すまことは、黒色に映える長髪と和服が特徴的な少女の姿をしたスマホの化身である。


 はんなりした印象でお淑やかな和服美少女を連想させる彼女だが、人間の姿になった理由というのも、自身の持ち主である愛しい青年とイルが毎度喧嘩ともいえないイチャつき行為に腹を立てたから、という外見に反してとてつもない激情家である。


 今回も須磨子という邪魔者がいる状態ながらも、素直じゃない態度で自身の持ち主である青年:鍵村かぎむら 雅志まさしと沖縄を満喫するつもりだったのだが……。


(須磨子のヤツ~!!何が『私には防水機能がついていますから、これで難なく主様とビーチでオキナワの海の”あばんちゅーる”を楽しめますわね!……まぁ!人型になったにも関わらず、次世代の海洋系ガールとして適応出来ていないポンコツがいるって、本当なんですの!?』よ!……ただ苦手意識があるってだけで、今の私なら普通に海くらい入れるに決まってるじゃない!)


 そこまで考えてから、イルは決意を再び固めたかのように拳を強く握る。


(こうなったら、人の身に余る”特異点の封印”っていう作業を私が成し遂げることによって、須磨子をぎゃふんと言わせてやる!……そ、それに、もしも私がそれだけの事を出来たら……そうしたら、雅志も素直に私の事を、一杯褒めてくれるかな……?)


 最後の方は恥じらう素振りを見せながら、イルという少女はレースに向けて密かに闘志を燃やしていた--。









「続きまして、エントリーナンバー2!草薙財閥の御令嬢であらせられる超絶セレブ!草薙くさなぎ 彩華(あやか)選手の登場でーす!!」


 朱里香の紹介に合わせて、堂々たる出で立ちと共に背中が大胆に開いたモノキニのビキニを纏った気位の高そうな女性:草薙 彩華が姿を現す。


 本人の高貴な家柄と気高き在り方を反映したかのような端正な顔立ち、引き締まったウエストに主張するべき部分はしっかりと出た身体つき、そして長髪を優雅にたなびかせながら、そんな美貌の数々からは程遠い鋭い視線で観客席を睨む彩華。


(まったく……何故、草薙家の血をひく高貴なる私が、こんな催しなどに出なければなりませんの?……それもこれも全て、鈴音(すずね)さんと文佳(ふみか)さんのせいですわ!)


 全てを射抜くような視線を鈴音と文佳の二人に向ける彩華だったが、当の本人達は涼しい顔をしてこちらに手を振り返したりなどしている。


 その様子を見ながら、彩華は何故現状のような事態を招いているのかを思い出していた--。





 彩華達はもともと、こちらの世界とは違う”平行世界”とでもいうべき場所で、人類の生存を脅かす驚異的な存在と日夜死闘を繰り広げる日々を送っていた。


 それが三年前の”聖戦”によって、こちらの世界と彼女達の世界が繋がった結果、他の仲間達とはぐれ彩華達三人だけが日本に世界間漂流をすることになったのである。


 以来彼女達は、もとの世界に帰還するための情報収集とこちらで活動するための資金を得るために、”神獣”関連の事件などを解決しながら、こちらの世界で暮らしている。


 今回のオキナワ観光は彩華にとって、そんな慌ただしい喧騒から離れて一休みするバカンスくらいの気持ちだったのだが……。


『えぇ~~~!!せっかくオキナワに来たのに、何にもイベントに参加しないなんてもったいないよ!!』


『安心しろ、鈴音。こんな事もあろうかと、草薙名義でこの”プリティー・サマーレース”に参加するようエントリーしておいた……これで、楽しい夏を過ごせること間違いなし……!!』


『ちょっとお待ちなさい、文佳さん!どうして、私が突如そんな訳の分からない催しに参加しなければならないんですの!?第一、そういうのは最初に言いだした方がやるべきですわ!』


『まぁまぁ!訳が分からない、って言ってるけど、この”プリティー”・サマーレース”っていうのは、”アカテン時空”とかいう特異点を防ぐために必要なことみたいだよ?困っている人達を助けるためにも、ここは草薙家の御令嬢である彩華ちゃんが”高貴なる者の義務ノブレス・オブリージュ”を発揮するしかないよ♪』


『……そうだ、草薙。色々抜けているところはあるが、これは完璧なプロポーションと家柄を誇り、そこそこ洞察力と戦闘力も優れているお前にしか出来ない事なんだ!!自分でも言っていて嫉妬で狂いそうになるが、草薙!どうか、このレースに参加してくれ……!!』


『ふ、文佳さん……!!良いでしょう、分かりましたわ。草薙家に恥じぬように、人々の模範になるべき存在であるわたくしが!この”プリティー・サマーレース”の栄誉を勝ち取ってみせますわ!!』


『……そうだ、草薙!その意気で、私や鈴音をトトカルチョでたっぷり、儲けさせてくれ……!!』


『トト……?何ですの?』


『ッ!?ア、アハハッ、何でもないよ彩華ちゃん!それじゃあ、”プリティー・サマーレース”の優勝目指して~……頑張ろう!!』


『……おー』


『何か、引っ掛かりますわね……ですが、参加する以上は本気で参りますわ!』


……。


…………。









 そんなやり取りを思い出しながら、彩華は再び決意を固める。


「そうですわ。私を信頼してくださった鈴音さんや文佳さんの想いに報いるためにも、この”プリティー・サマーレース”の覇者になってみせますわ!!」


 ”高貴なる者の義務ノブレス・オブリージュ””を胸に、自身に課せられた責任を果たすために、彩華は確かな一歩を踏み出す--!!









「さて、エントリーナンバー3は猛烈系ふくよか女子の~……米豪俵こめごうだわらドスさんです!開始する前から闘志剥きだしですが、意気込みを伺ってみるとしましょう!」


 そう言いながら、パワード昆布ビキニアーマーに身を包んだ猛烈系ふくよか女子に向けて話を振る朱里香。


 だが、ドス子という名前らしい女性は朱里香の話も聞いていない様子で、血管に青筋を浮かべ目を血走らせながらブツブツと言葉を呟く。


「クッソ~~~!!どいつもこいつもチャラついた小娘共が浮つきやがって……絶対にぶっつぶしてやる!」


 普段から割と血の気が多い彼女だが、今回はいつも以上に殺気立っていた。


 視線からすると、どうやら周りのイルや彩華のような人の目を惹きつける容姿を持った他の参加者、そしてたまに花×へと向けられていた。


(男の意欲をたぶらかす事にのみ、存在意義を全振りした淫欲界の亡者どもめ……!!単なる気晴らしのつもりで参加したが、こうなったらアタイが張り手でこの世界の秩序を叩き込んでくれるわッ!!)


 ドス子は恋人であるナード系なサラリーマンの青年と同棲していたのだが、彼が職場の付き合いで『おっぱいパブ』で遊んできた事にブチ切れた結果、つい先日に破局を迎えることとなったのだ。


 今回のオキナワ旅行はそういった気分を晴らすための傷心旅行のつもりで来ていたのだが、特異点と繋がった地点をめぐる”プリティー・サマーレース”の存在を知り、そこでなら好きなだけ暴れ回って憂さ晴らしが出来る!と判断した末に参加することにしたのだった。


 しかし、ちょっとした気晴らしのつもりが、男性の目を惹きつけるような小憎らしい容姿を兼ね備えた小娘達と、男っ気はないが自分のような自立した女性と違って誰かに寄生する事を生業なりわいにしていそうな出涸らしといった他の参加者の姿を目にした瞬間に、ドス子の中で怒りの沸点が限界突破した。


(見てろよ~!こうなったら、アタイのとっておきの張り手で、お前等全員ぶっ飛ばしちゃる!!)


 今ここに、全てを破壊し尽くす衝動に駆られた一匹の猛獣が、『特異点を防ぐ』という重大な意味を持ったはずのレース会場を一つの戦場じごくに塗り替えようとしていた--。









「それでは最後になりました!エントリーナンバー4!実家のご家族を安心させるために、このレースに参加した自称家事手伝い!!その名は〜……黄崎きざき 花×はなばつさんです!!」


「はい!私が黄崎きざき 花×はなばつです!今日はこのレースで優勝して、故郷に錦を飾りたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします!」


 明朗快活ともいえる笑顔で、レースへの意気込みを語る花×。


 彼女の自己紹介を受けて、僅かな人数の観客達ですら、『本当に親御さんの事を考えてるなら、こんなレースに参加してる場合じゃないだろ……』とか『信じられない……これが民度-SSSクラスの(スーパー)本土人の実力なのか……?』などという風に盛大にざわつく事になったのだが、花×は自身に何ら恥じ入ることはない!と言わんばかりに堂々としていた。


 周囲の反応になど意にも介さぬまま、花×は静かに思案する。


(長年ロクな社会経験や、とっておきの技能があるわけでもない私が、誰かと競い合う”レース”という形式で優勝出来るはずがないのは明々白々……ゆえに、私が本当に目指すべきなのは最高の結果を出すことじゃない……!!)


 なんせ、このレースには親友の点美の予想に反して、良いとこの家柄らしいお嬢様や肉弾戦に自信がありそうな猛烈系ふくよか女子、そして、モバイルバッテリーの化身とかいうよく分からない存在まで出場しているのだ。


 ……自分がマトモにやったところで、彼女達とマトモに勝負が出来るとは思えない。


 ゆえに、花×は彼女達を相手に勝利することではなく、彼女達を相手にファインプレーを行うことによって、家族を『あぁ、私達の娘はこんな良い子に育ったんだね……!!』と感動させ、結果として今後も親元でぬくぬく過ごす権利を得る、という作戦にシフトチェンジすることにした。


(待っててね、お母ちゃん!!……こんなレースで勝ったところで日本一なんかにはなれないけれど、頑張ることによって、世界でたった一人だけの”ハナバツ娘”になっちゃるけんね!)


 人生において積み上げてきた実績や経験・知識などではなく、”個性”という曖昧な価値観で自身の正当性を誇る黄崎きざき 花×はなばつ、25歳。


 自身の正義になんの曇りもない、と言わんばかりの爽やかな笑みを浮かべながら、とてつもない狂気を内に秘めた花×が、最後の選手として高らかに名乗りを上げる--!!









「今、このオキナワの地に!四人の女神が美の饗宴のために降り立った!!……勝利の栄冠をつかむのは、一体誰なのか!?続きが目を離せないぜ!!」


 高いテンションと共に一気にまくしたてるよう喋りながら、朱里香がバッ!と右腕を後ろに振るい上げる--!!


「それでは!これより、”プリティー・サマーレース”の開幕だぁ~~~!!」


 朱里香の宣言と共に、レースの火蓋が切って落とされた。


 4名ともに様々な思惑を胸にしながら。


 今、オキナワの地でとびっきりの夏が始まる--!!


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