表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

プリティー・サマーレース、参加表明

「と、いうわけで……このままだと私が家を追い出されちゃうんだけど、点美ちゃん!どうしたら良いの~~~!?」


 このまま家でダラダラ寄生するだけなら、あと一か月後には家から追い出す。


 母親にそう宣告された花×はなばつは、親友である赤坂あかさか 点美てんみに泣きつくことにした。


 点美は苦笑しながら、花×に答える。


「おば様の仰られる通り、まずはバイトでも良いから働き始めたら良いじゃない。それじゃ、駄目なの?」


 そんな点美の質問に対しても、何を馬鹿な、といった様子で花×が答える。


「……う~ん、でも働くためにはハロワとかいうところに平日の真っ昼間から行かなきゃいけないんでしょ?周りから『あの人、無職!!』って思われたりしないかな?」


 ……ならば、花×はどうやって職を探すつもりなのか。


 第一、思われるも何も花×は勝手に家事手伝いを名乗っているだけであり、平日の真っ昼間からアニメ関係のショップに入り浸ることを日課にしているような名実ともに立派な無職である。


 今の時代ハロワに頼らずともネットや直接電話する、という手段もあるのに、それを微塵もする気がないあたり、疑問形を用いながらも花×が働くつもりは毛頭なく、またハロワに対する意固地な認識も一切変えるつもりがない、と点美は長年の付き合いから判断していた。


 そんな親友の心境を慮ることもなく、花×はだらしなく顎をテーブルの上に乗せながら唇を尖らせる。


「点美ちゃんは良いよね~……働きながら気ままに一人暮らし出来る環境があって、さらにはドルオタ趣味にも理解があるイケメンの婚約者までいるんだから!……私は、分からず屋のお母ちゃん達と一緒に暮らさなきゃならないんだから、本当に不幸だわさ~」


 冗談交じりながらも心の底からそれが真実である、と確信している花×に対して、点美が苦笑を浮かべながら返答する。


「もぅ、私は花×ちゃんと違ってキチンと働いたりやることをやった上で、点二郎さんとのデートや”エスカ☆隷奴レイド”のライブに行ってるんです~!!……花×ちゃんも、夢中になれるモノがあるのは素晴らしい事だけど、そこらへんはキチンと大人にならなきゃダメだよ?」


「……だって、私は点美ちゃんみたいになんでも上手くなんて出来ないもん……」


 親友のためを思って向けられた点美の助言だったが、花×にとっては受け入れがたい現状を突きつけられる宣告でしかなかったようである。


 すっかりしょげてしまった花×を見ながら、さて、これからどうしようかと点美が思案していたそのとき--彼女はふと、あることを思い出していた。


「あっ、そうだ!今、オキナワで”プリティー・サマーレース”っていう企画への、参加者を募集してるんだって!」


「プリティー・サマーレース……?何なの、それ?」


 きょとん……と呆けた様子の花×に対して、点美が答える。


「うん、何でも今のオキナワでは”アカテン時空”っていう特異点と繋がった影響によって、大変な事になってるみたいなの」


「”アカテン時空”……あぁ、それって確か三年前の”聖戦”によって、この世界で発生するようになった現象の一つだよね?」


「この世界……っていうか、現在この日本に集中している現象、って言った方がいいかもしれないけどね」


 ”聖戦”。


 それは、3年前に行われた三名の超越者たちによる次元を超えた勝者不明の三つ巴の頂上決戦のことである。


 この世界を地獄に塗り替えようとしていた元凶的存在を、”創造神”としての権能に覚醒することによって討ち果たした山賊なろう作家の”世界の根幹アカシック・に到達する者テンプレート”は、この世界の行く末を決めるために、”破壊神”としての能力を持つネコ耳を生やした中卒無職の少年:立花たちばな モミ、”平定神”としての資質を有する風光明媚な天上貴族の青年:藤原(ふじわら) 啓泉けいせんを相手に、立て続けとなる形で三つ巴の闘争に身を投じることとなった。


 闘争の場はこの世界とは次元を隔てた領域で行われたにも関わらず、その余波は凄まじいモノがあり、現行世界にまで強い影響を及ぼすこととなった。


 とくにその影響が顕著に表れたのが、3名もの超越者を輩出した故郷であり、花×達が暮らす場所でもあるこの日本という国であった。


 現在の日本では、"創造神アカテン"の結びつける力、世界各国を渡り歩き数多の英傑の魂と理を取り込んできた”平定神ケイセン”の多彩さ、そして、”破壊神モミヤ”の既存の存在を塗りつぶすほどの凄まじさ……これら三柱の超越神の性質が色濃く反映された”神気”とでもいうべきモノが、彼らと馴染み深い日本という地で様々な人々の想念と融合を果たした結果、既存の文明社会を塗りつぶすような強大な存在:”神獣しんじゅう”を生み出すこととなったのである。


 ”神獣”達はそれぞれ独自の強大な権能で、既存の物理法則を大きく塗り替えながら、日本国内でそれぞれの生存領域を広げるための”縄張り争い”に明け暮れていた。


 ”神獣”達の生存領域を広げようとする本能が新たな領土を求めたのか、あるいは、形は違えど他者を受け入れながら高みを目指した”超越神”達の在り方に呼応したのか--。


 ”神獣”の登場と時期を同じくして、日本各地では物語の中に出てくるような幻想的な”異世界”や”、花×達が暮らしている社会とは少しだけ何かが違う”平行世界”や"別の時代"、そして、現在点美が口にしたような出鱈目な現象を引き起こす特異点:”アカテン時空”といったこれまでの人類史では観測されなかった未知の領域が次々と現界し始めていたのだ。


 これら”神獣”やそれに呼応して出現し始めた”眷族”と形容するほかないような自然界には存在しない謎の生物達、そして頻発する”特異点”の発生により、今の日本はまさに混沌とした様相を呈していた。


 閑話休題。


 社会情勢どころか一般常識に疎いながらも、何とかそれらの知識を思い出した花×は、再び点美に問いかける。


「……ふ~ん、でもさ、そんな特異点が繋がっているところで、その”プリティー・サマーレース”とかいうのをするのって危なくない?流石に命に勝る宝はないでしょ?」


「コンサートに向かう途中の新幹線に地竜の軍勢が押し寄せてきたときに、サイリウム両手に威嚇しながら怒鳴り散らしていた花×ちゃんが言ってもな~……なんでも、その”アカテン時空”っていう特異点を塞ぐためには、女の子達の想いが真剣にぶつかりあう”レース”っていう形式で奉納の祈りを捧げるのが効果的らしくて、それで今出場者を集めているらしいの」


「なるほどね~……でも、オキナワで発生した特異点なんだから、現地の子達でやったら良いじゃない」


 言外に「わざわざ地方で暮らす私が、一日一便の半端な時間にしか出発しない飛行機に乗って、オキナワに行く必要ある?」という意味を含ませて、花×が尋ねる。


 それに対して、点美が想定内だと言わんばかりにニッコリ笑みを浮かべながら返答する。


「それなんだけどね、現地では”そこまで甚大な被害は出ないけど、放置したままだと鬱陶しい……でも、あんまり関わりたくないな~……”くらいの認識らしい上に、この特異点の物珍しさでむしろ観光客もそこそこ増えてるみたい。だから、このレース自体もボランティア感覚で人員を募集しているからロクに人員は集まらないし、出場したところで何の景品も出ない上に、交通費も自腹だよ♪」


 信じられない、といった表情で絶句しながら、笑顔の点美を見やる。


 嘘だろ……長年の親友のはずなのに、何故そんなド糞ブラック企業(ネット知識)も裸足で逃げ出すようなハイバーボリア案件を笑顔のままで自分に勧められるのか……信じられない……推しメンと婚約者を股に掛けた今世紀最強のビッチ……つまり、あと80年以上は、皺くちゃの老婆になっても不動の地位を築き上げること確定のビッチ……親友だと思っていたけど、本当は私の事、嫌いなの?……嘘、今心の中で全部思ったこと、全部嘘だから!!……だから、許して!!……ね、ね?などといった、様々な想念が忙しなく花×の心をよぎる。


 そんな花×の心情を知ってか知らずか、点美が答える。


「だからね、花×ちゃん。ロクな強敵がいないはずのこの競技で、特異点を防ぐという『人々の役に立つ』レースで良い成績を残せば、おば様もきっと花×ちゃんの事を許してくれるはずだよ!」


「ッ!?て、点美どの!!」


 やはり、点美は自分を裏切ってなどいなかった。


 何故なら--彼女こそが、自分の一番大事な親友であり、救いの女神に他ならないからである!!


 花×の25年の人生の中で、ライブ関連と母親に早く風呂に入るように急かされて「あぁ、もう!分かったって!!」と怒鳴り返すとき以外に全く発揮されることのなかった闘志の炎が激しく燃え盛る--!!


「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!こうなりゃ、とことんやったるぜぇェェェェェェッ!!」


「その意気だよ、花×ちゃん!私はその日は普通に彼とのデートがあるから応援に行けないけど、頑張ってね♡」


 花×の中で「やっぱり、コイツは本当に親友なのだろうか」という疑念が浮かび上がったが、すぐにそれを振り払い、これからの未来に想いを馳せる。


 輝かしい未来を考えようとしたところで、花×はふと、すぐ先のことに思い至った。


「そういえば、交通費は自腹、って事らしいけど……私、この前の遠征ライブで資金が底を尽きたんだけど点美ちゃん……貸してくれない?」


「もぅ、駄目だよ花×ちゃん!『お金の貸し借りとルームシェアは友人同士で絶対にやったらアカン!親しい者同士ほど、見たくもない上に許容出来へん嫌な部分が見えたり、そういう細かいのを返した、返してない!ってやり取りから人間関係が破綻するから、やらんに越したことはない!』って、担任の辻谷つじや先生も言ってたでしょ!」


「いっけね、忘れてた!……それにしても、これって地味に良い格言だよね~。そう言えば、つじやんって今どうしてるのかね?」


「何か聞いた話だと、生意気な論破気取りの学生に我慢ならなくて、この前とうとう怒ったみたい。それ以外にも、色々教育の形式が変わったりして、結構苦労してるみたいだよ?」


「そっか~……つじやん、間違いなく人柄は良いけど、年の割に純真すぎてどうにも頭硬そうなところがあったもんな~。自分が学生時代に分刻みでデートプランを考えていた友人が何故かモテなかったっていうのを不思議がってたけど、いやいや、そりゃ普通に面倒くさいヤツでしょ!っていうね!」


「あぁ!授業中にそんな話してたね!……でも、滅多な事では怒らない人だったから、怒鳴った件に関してはやっぱり生徒さんの方が生意気だったんじゃないの?って、私は思うな」


「それは間違いないわ。キッズは一発派手にガツン!と言ってやらなアカン!じゃないと、つけあがるからね!」


「もぅ!おば様達の庇護のもとで甘えながら、お金をロクに家に入れず、それどころか遠征資金をせびるような花×ちゃんが言っても説得力ありません!……そういえば、私もつい最近知ったんだけど、春から学校で転送術式が導入され始めたんだって!」


「えっ、マジで!?……けど驚いてみたモノの、転送術式じゃなくてもエレベーターとか導入すれば良くない!?」


「確かに!……でも、やっぱり時代の変化に対応できるように、”聖戦”以降の技術も身近に取り入れよう!っていう試みなんじゃないかな?」


「はぁ~!みんな、何だかんだで色々考えてんだな~!……っていうか」


 そこまで話してから、クワッ!と目を見開く花×。


「話がなげーわ!!本筋に関係ない話が長すぎる!!なんぞ、これ?ぬらりひょん!……そうじゃなくて、今は学生時代の思い出話に花を咲かせる場面じゃなくて、私のオキナワ行きの資金をどう稼ぐか?って事でしょうが!?」


 あまりの剣幕を前に、ここに来て点美が初めてたじろいだ表情を見せる。


「ゴ、ゴメン……でも、私が貸せない以上、やっぱりお金に関しては今まで通りおば様に”相談”してみるしかないんじゃないかな?」


「……何か含みと言うか、ひっかかりを感じるな~。でも、この前の遠征ライブでも”相談”したばっかだし……最後通告をされた状態でそんな事口にしたら、流石に一カ月を待たずに家を追い出されるのでは……?」


 不安そうに上目遣いで尋ねる花×。


 そんな彼女の問いかけに対して、考える素振りを見せていた点美だったが、真剣な顔つきのまま花×に向き合う。


「……確かに、今までの花×ちゃんの行動があんまりなだけに、交渉するのは難しいかもしれない。だけど、今回のレースに対する意気込みと、新しい出発を目指す気持ちが本気である事を根気よく熱意を持って説明すれば、おば様もきっと分かってくれるはずだよ!」


 そんな点美の言葉に感じ入るモノがあったのか、瞳を大きく見開きながら、花×が力強く頷く。


「そうだよね……分かった!私、点美ちゃんの言う通りお母ちゃんに熱意を持って説得してみるよ!!」


「……ッ!!あ、あの花×ちゃんが……ここまで、やる気を出してくれるなんて……!!」


 本気を出す事を誓った花×を目の当たりにして、点美が感極まったように静かに瞳に涙を浮かべる。


 そんな点美とは対照的に、光り輝く未来を目指すかのように花×は顔を上げ、決意を示すかのように拳を強く掲げていた--。









 そうして、点美のもとから自宅へと戻った花×は、即座に母親のもとへと向かった。


 目的はもちろん……”プリティーサマーレース”に出場するための、遠征資金の説得をすることである!!


 花×はいつにない真剣な表情で、母親に向き合う。





「お母ちゃん!私、一念発起してトウキョウで就職するつもりだから、これを最後と思ってトウキョウに行くための資金をください!!」









 誠意の皮を纏った最悪の欺瞞の形が、今この場にて顕現する--!!









 それに気づく様子もなく、母親が呆気にとられた様子でポカン、と口を開く。


「花×、アンタ……!!」


「……私も既に25歳。都会に行ったところで、いきなり正社員として働くのは難しいかもしれない。……でも、このままお母ちゃんのもとで甘えたままじゃ、変われないって気づけたんだ……!!」


 そこでガバッ!と頭を下げる花×。


「だから、バイトや派遣社員をすることになっても構わない!!……どんな形になっても、この先自分の生き方っていうのを真剣に見つけるためにも、どうか!私に最後のチャンスをください!!」


「は、花×……今まで、嫌なことからは逃げてばかりだったアンタが、まさか、そこまでの覚悟で就職活動に向き合う事を決意するだなんて……!!まさに夢みたいだよ、アタシは!!」


 点美と同じように感極まった様子で、されどそれ以上に感情が籠った様子で涙する母親。


 そこからは「辛かったらすぐに帰ってきても良いんだからね……!!」と励まされながら、花×は当面の就職資金として15万円を獲得することに成功した。


 その夜は帰宅した父親を交えて、高級な牛肉をふんだんに使った豪勢なすき焼き大会となった。


 それらを何ら悪びれることなく、卵を盛大に消費しながら平らげていく花×。


「ハフッ、ハフッ!これヤッベ!高級すき焼きマジヤッベ♡」


「はっはっはっ!どんどん食えよ、花×!志は強く、高く持つんだぞ!!」


「あらあら、お父さんったら気が早いんだから……でも、花×。本当に難しくなったら、無理せず帰ってきてくれて良いのよ?お母ちゃんはアンタが働く意思を持ってくれただけでも十分嬉しいんだからね?」


「大丈夫、任せてよお母ちゃん!!私はなんたって、黄崎きざき家が誇る自慢の”ハナバツ娘”なんだからね!」


「はははっ!よく分からないが、大きく出たもんだな~花×!」


「まったく、この娘ときたら……!!」


 そうして、楽し気な時間は過ぎていく--。



 






 そうして、迎えたレース当日。


 快晴のオキナワと、そんな天気に相応しいレースの開催場所。


 そしてそこには、飛行機で前日入りした後にオキナワ料理を堪能し、国際通りを楽し気にぶらつき満喫しながら、快適な睡眠の果てに爽やかな朝日を迎えた花×の姿があった。


 実の肉親を欺いた人間とは思えない心身ともに万全のコンディションの花×。


 彼女の表情からは、疚しさや罪悪感といったモノがごっそりと抜け落ちており、その健全さは事情を知る者が見れば却って狂気を感じさせるモノであった。


 だが、花×は常人には分かり得ぬ心境を胸に、堂々と前を見据えながら新たな一歩を踏み出す。





 ”プリティー・サマーレース”。


 特異点が出現したこのオキナワという地を舞台に、一世一代の勝負の幕が上がる--!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ