その女性、黄崎 花×(きざき はなばつ)ーー!!
夢を持つ多くの人々を魅了してやまないライブの聖地:横浜バトルアリーナ。
現在この地では新たなる伝説の始まりを目撃しようと、多くの女性ファンが詰めかけていた。
黄崎 花×と赤坂 点美というこの二人組の女性も例外ではない。
「つ、ついにこの時を迎える事が出来るなんて……!!あてくし、緊張のあまりもう死んでも良いかも!」
「ふふっ、始まる前からそんな調子でどうするの?これから始まるライブはビッグバンを超越したγ線バースト並の威力を誇る事はもはや確定済み。……果たして、アナタは演目の最後まで無事に立ち続ける事が出来るかしら?」
「しょ、しょんにゃの絶対無理ィィィィィィィィィッ!?そんな凄すぎるライブを生で見てたら、補給のためのペットボトルをカバンから取り出すために、最低2回は席に座っちゃうゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」
興奮冷めやらぬ口調で、これから始まるライブへの期待を力説する女性ファン達。
彼女達だけではなく、他の女性達も異口同音でこのライブへの熱い想いを語っていたーーそのときである!!
『大変長らくお待たせ致しました。これより超絶級アイドルユニット"エスカ☆麗奴"によるライブを開演いたします』
アナウンスと同時に会場内が突然真っ暗になる。
ファンの女性達は興奮した様子ではしゃぎながらも、各々が手慣れた様子でサイリウムを取り出していた。
そして色鮮やかな照明の光が左右に揺れながら舞台に近づいていったかと思うと、そこには眩いオーラを放つ9人の男性が各々のポーズを取りながら、スタイリッシュに佇んでいた。
彼らこそが、ノクターンプロダクションを代表する超絶級アイドルユニット『エスカ☆麗奴』であるーー!!
彼ら一人ひとりのメンバーが、まるで男性向けの過激な成人漫画や小説、PCゲームから抜け出てきたような独自の色気や魅力を持った存在であり、デビューするや否や世の女性達を瞬く間に虜にしてしまったのである!
「研ちゃんせんせー!!私にナイショの教育的指導をしてくださーい!」
「嘘ッ!!あれがマジモンのリアルのぶやんなの!?本当にいるのかいないのか分からないじゃない!」
「光一君~!!自慢のエロアプリを私に向けて~~~!スマホをこちらにかざした瞬間に、このとっておきの"リフレクミラー"で逆に光一君を支配してみせるわ!!」
現にその事を証明するかのように、会場内のファンからは押しメンに対する熱いラブコールや、エスカ☆麗奴全体に対する激励の声などがひっきりなしに響き渡っていた。
会場内を包み込む圧倒的な熱狂とファンの怒濤の声援に押し負けまいと、大声量の音楽が流れ始めるーー!!
そして、自身が担当するクラスの女生徒を相手に淫行を繰り広げるのが得意な男性教師や透明人間になれる体質を持った青年、女の子に卑猥な命令を実行させることが出来るアプリをダウンロードする事が出来た男子生徒など、ノクターンカラーに満ちたメンバーが次々とステージ上に姿を現す。
「「ヒッ、ヒッ、フー!ヒッ、ヒッ、フー!」」
ライブが始まってすぐだというのに、早くも気分が最高潮に達した花×と点美の2人は、推しメンバーとの想像妊娠から疑似出産というハードコースに突入しようとしていた。
そうしている間にも、ファンの歓声に合わせて怒涛のライブが繰り広げられていく--!!
「は~、"エスカ☆麗奴"のライブは本当に凄いわ……半年後まで待てないぞ、っと♡」
ライブの興奮冷めやらぬ花×は、平日の真昼間から居間で転がりながら感慨深い気持ちに浸っていた。
そんな夢見心地ともいえる彼女に対して、それとは真逆な声のトーンで話しかける者がいた。
「まぁ、このまま行けばアンタは半年を待たずに、ここにいられなくなるんだけどね」
「ッ!?そ、その声は……お母ちゃん!!」
花×が振り向いた先にいたのは、呆れと怒りが入り混じった表情を浮かべた花×の母親だった。
困惑する花×に構うことなく、母親が言葉を続ける。
「花×、アンタは25歳にもなって実家暮らしをしているというのに、”家事手伝い”とか言いながら家にお金を入れることもせず、かと言って家事をするでもないまま、アイドルとやらの追っかけばかりに現を抜かしている……アンタ、それで本当に良いと思ってるの!?」
「……良くないです」
この状態の母親はマジモードだ。
下手に反論すると火に油を注ぐ結果になるので、大人しく相手の言い分に従って嵐が過ぎ去るのを待つ花×。
だが、今日の母親は花×の予想を超えて本気だったらしい。
怒りのトーンを緩めることなく、花×に厳しく最後通告を突きつける--!!
「花×、アンタもいい加減イイ大人でしょ。……このままダラダラと何もしないのなら、一か月後にこの家を出ていってもらうからね!!」
「ッ!?そ、そんな……お母ちゃ~~~っん!!」
突如言い渡された厳しい判決を前に、先程までの浮かれた気分から一転、地の底まで叩き落とされた衝撃で泣き崩れる花×。
あと一カ月で、マトモな就職活動なんか出来るだろうか。
いいや、自分の考える限りでは到底無理なので諦めよう。
かと言って、現在就職以外の打開策を思いつかない花×は深い絶望の檻に囚われることとなった。
いきなり、家を追い出されそうになって絶体絶命の私:黄崎 花×。
これから一体、どうなっちゃうの〜〜〜!?
……これは、そんな私がオキナワで飛びっきりの夏を過ごす奇跡の物語であるーー!!




