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兄妹(きょうだい)

作者: まるお

闇を抱えた兄弟の話を書きました

あるところに兄妹がいた。

兄は仕事で大きな成果を上げるような立派な人間。

妹は兄を尊敬していた。昔からやると決めたら最後までやり通す人だった。

そんな兄を見て、自分もそうなりたいと本気で思っていた。

妹は兄をよく慕っていた。そんな妹はある日気づいてしまった。


妹は学校に行ってはサボって帰ってきていた。でもそんな妹を見ても兄は悲しくはなかった。

もちろん心配はした。


この兄妹には親がいなかった。

兄の卒業旅行の途中に事故死してしまった。

兄はひどく悲しんだ。

“自分のせいなのでは”

そんな兄を救ったのは妹だった。

苦しむ兄を励まし、社会人になるまでは中学生の妹が家事をこなし兄を手助けした。

兄は家が嫌いだった。

帰っても誰もいない家

ただいまを言っても帰ってこない家。

しかし今は妹がいた。

夕方家に帰っても家には妹がいた。

学校をサボるのは悪いことだとわかっていても家に妹がいてくれる、兄の帰りを待っている妹がいる。それだけで大変な仕事もこなすことが出来た。

ここまで支えてくれた妹を、今度は兄がしっかり面倒を見て、妹の成長を見守っていくのだ。


高校に上がる少し前に妹が風邪を引いた。

兄は必死に看病した。

ただの風邪だというのに必死に看病した。

もう二度と家族がいなくなるのが嫌だったから。

そんな兄の姿を見ているうちに、妹は自分の兄に対する感情が変化していくのに気づいた。

絶対にあってはならない感情。

妹が兄に抱くべきではない感情。

その感情を持っていると気づいた妹はそれを押し殺すかのごとく自分を偽った。

だらしない妹になれば兄は嫌うはず。そう考えて学校もサボった。だらしない格好もした。

兄は家に返ってくると必ずただいまを言ってくれる。家に一人でいるのはあまり好きではない。でも必ず帰ってきてくれる家族がいる。そう思うだけで寂しさも紛れた。


妹は高校入学から一月、殆どを午前でサボっていた。

ある日、兄に聞かれた。

「学校は楽しいか」

その言葉に妹は答えることはできなかった。

別につまらなくはない。

そう答えるだけでも良かった。

だけど、妹はそれどころではなかった。

これほど堕落しているのに気にしてくれる兄の心遣いが嬉しかった。

妹は質問に答えない。

「辛いことがあったら、なんでも言えよ。俺は兄なんだから」

そう言ってくれる兄の優しさがまた胸に響く。

今度は兄に聞こえないくらいの声で返した。

「お兄ちゃんのせいだよ…」

と。

妹は心の叫びを打ち明けたかった。

言ってしまったら今の関係は壊れるかもしれない。

そう考えると…

兄は妹には恩返しがしたいと考えていた。

自分を助けてくれた妹に。

あの時、妹がいなかったら自分はだめになっていたかもしれない。

妹がいつか話してくれると信じてその日はもう何も言わなかった。

翌日、兄は考えた末、妹に提案した。

「どこかに遊びに行かないか?」

妹は心に何かを抱えているのかも。

自分はまだ信用されてないのかも。

そう考えて、妹と一緒になれる時間を作ろうとした。

そんな兄の考えは知らずに妹はまた心臓が爆発するかと思うほどにドキドキした。

兄妹の仲は悪くはないが二人で何処かに出かけることなどはなかった。

妹は満面の笑みで返した。

「いきたい」

その笑みを見た兄は一瞬ドキッとした。

今までに感じたこともない感情が湧き上がってきた。

兄はすぐそれを振り払うと、

「じゃあ明日の朝9時には出れるよう準備しておいて」

とだけ返して、妹の前から立ち上がった。

妹は自室に戻ると、内心ウキウキしながら明日の服を選び始めた。


「あんな顔初めて見た。」

妹が自室に行ったのを確認して呟いた。

最近、妹といると落ち着く。

そんなことを考えていた。

その晩は少し早めに横になることにした。


暗い場所にいた。

何もない空間。

誰もいない場所。

これが夢なのは分かる。

それでも嫌な気分になってしまう。

父と母がすぐそこにいる。

どれだけ手を伸ばしても届かない。

しかしすぐそこにいる。


最近はこんな夢見なかったのに。

目を覚ますと朝になっていた。

あまり良い寝付きとは言えない。

時計を見ると7時。

リビングからは妹の鼻歌が聞こえる。

今でも家事は妹がやってくれている。

「おはよう。今日も早いな」

兄がリビングに向かうと、

「おはよー」

と、いつもより少し上機嫌な声が返ってきた。

妹はいつもより多めに料理を作っていた。

どうやら今日の昼の分も作っているようだ。

「いつもありがとうな」

唐突に兄が呟く。

兄にまた不意を突かれた。

思わずにやけてしまう。

「うん」

と、小声で返す。

兄には届かない。

妹はいつもよりドキドキしている。

兄の一言一言に胸が高まる。

「お兄ちゃん、今日はどこに連れてってくれるの?」

ずっと気になっていた。

兄は“内緒”と無邪気な顔でいうと携帯をいじり始めた。

なんでだろう。

兄の言動全てが愛おしくて、それが妹に向けられているものだと知っていて更に嬉しくなる。

兄の車に乗り、家を出た。

一時間ほど乗っていたらしいがもっと短く感じた。

妹が隣りにいる。

それだけで安心できる。

兄の隣りにいる。

それだけで鼓動が早くなる。

車内では他愛のない会話が続いていた。

「目的地に着いたぞ」

兄のその声で気がついた。

周りをまったく見ていなかったから何処に向っているのかは知らなかった。

着いたのは水族館だった。

その日はゴールデンウィークで混んでいた。

水族館はそんなに面白くない場所だと思っていた。

ただ魚を見るだけの何が楽しいのか。

そう思っていた。

だけど今日は違った。

好きな人と来る。

ただそれだけで幸せだった。

でもなぜ兄はここに連れてきてくれたのだろう。

その理由はすぐにわかった。

サメを見ていた兄はゆっくりと、妹に向けたのか、ただの独り言なのかわからないような声で話し始めた

「昔、俺はサメなんだと思っていた。一人だと。そう思っていた。でも妹が気づかせてくれた。俺はこっちの大群の方の小魚なんだって。一人じゃない。みんな助け合って、支え合って生きているんだと。だから俺はがんばれた。だけどな、いつまでも小魚じゃいられない。立派に成長できた俺は誰かを守るサメになった。たった一人の妹を守れるサメに。だからさ、何かあったときは兄に任せな。どんな奴にだって妹を傷つかせたりしないからさ」

そういうと、ニッと笑ってみせた。

「小魚はサメになれないでしょ」

と笑いながら妹は答えた。

昼になると沢山の家族や団体が来ている公園に移動して昼食を食べることにした。

「このサンドイッチ美味しいな」

兄が美味しそうに食べてくれる、それだけど嬉しかった。

この関係を壊したくない。

その思いと、兄に心配をかけたくない。

両方の思いが妹を悩ませた。

「お兄ちゃん。大事な相談があるの」

妹が口を開いた。

「好きな人がいるの」

兄は目を見開いた。

今までは自分が一番妹を見てきていたと思ってた。

それなのにこんな簡単なことにすら気づけ──

「友達の友達がね…」

あ、友達のことか

兄は自分でも気づかない間にホッとしていた。

「その友達はね、その人のことを好きになっちゃダメっていうの。」

兄は疑問に思った。

人生で恋なんて一回しかしたこと無い兄は…

あれ?初恋の相手は誰だっけ?

「好きになっちゃいけないのにその気持ちに気づいた“自分”は悪い子なのかなって。ずっと悩んでるの。」

妹は泣いていた。

兄は少し間を置いてから慎重に言葉を選びながら話し始めた。

「その子は、きっととても素直な子なんだね。好きになっちゃいけない恋なんてうまくわからないけど…自分の気持ちにそう向き合えるのはとてもいいことだと思う。でもな、きっと好きになっちゃいけない恋なんて無いと思うんだ。」

一呼吸おいて

「その子が相手を好きになることはいけないことなのかもしれない。でも好きになっちゃったならしょうがない。それはもう立派な恋なんだから。もしそのことを抱え込んでつらそうにしてたら相手もそれを見て辛くなると思う。それだったらいっそ、その思いを相手にぶつけるのがいいと思う。きっと素直になれば相手は真剣に答えてくれる。」

妹はびっくりしていた。

予想とは違う回答が返ってきたらだ。

兄は笑いながら話を続けた、

「そのことを相談されてずっと悩んでいた妹も相当の素直さだな。相手のことをいろいろ考えてつらそうにしていたのか。“自慢の妹”だよ。」

少し考えて妹は、

「考えてみる」

と一言言ってまた笑顔に戻った。

妹の笑顔が見えた兄は少しホッとするのと、動機が早くなるのを感じた。


昼食を終えると兄は、少し寄りたいところがあると言って車を走らせた。

車に乗ると色々話したせいか妹はすぐに眠ってしまった。

1時間位車を走らせたところで、妹を起こそうとした。

「おーい。おき──」

思わず言葉をつまらせた。

普段自分より早く起きるから見たことがなかった。

妹の寝顔を見た瞬間何かに魂を吸い取られた感覚に陥った。

気づくと妹の唇に吸い込まれるように口を近づけ…

「うぅん、おはよぅ」

妹が突然目を開けて我に返った。

(危なかった。まさかあんなことしようとするなんて)

兄は平静を保ち一言、

「着いたぞ、」

といい、車から降りた。

妹もそれに応じ車から降りるとそこは街の高台だった。

街の一つ一つの輝きが見て取れるようにわかり思わず目を奪われるような光景だった。

「この夜景を見せたかったんだ」

綺麗だろ。兄は自慢気に言った。

すると、

妹は無意識に泣いていた。

「お兄ちゃん…」

消え入りそうな声で必死に振り絞る妹を見て兄の鼓動は更に早くなった。

「そ、そんなにきれいな夜景だったのか。頑張って探したかいがあったよ」

必死に平静を保とうとした。

そうでもしないと口が滑りそうだった。


妹は夜景を見たとき何を考えて涙を流したのかわからなかった。

ただ無意識に口が開いていた。

「お兄ちゃん…」

「好き」

と、

兄は何かを言ったみたいだったけどまったく耳に入ってこなかった。

気づいたときには言ってしまっていた。


兄は唐突に告げられた妹の告白の意味がよくわからなかった。

むしろ聞き間違いだとすら思った。

「俺も」

ただ、涙を流す妹がとても綺麗で、愛おしくて。

本当に告白されたのかもわからずに思わず呟くように言った。


兄の予想もしなかった返事に妹は言葉を失っていた。


((間違えた))

兄はすぐに訂正しようとした。


涙を流した妹は夜の光に照らせれて光っているようにも見えて、手が届くとこにいるのにすぐに消えそうな。まるで夢で見た父と母のように─


気づくと妹は自分の腕の中にいた。

我に返ったはずなのに離せない。

離したらまた、どこかへ行ってしまう。


兄に抱きしめられてもちろんびっくりした。

ただそれ以上に嬉しかった。

兄もまた“好きだ”と言ってくれたことが。


二人は互いに抱きしめあった。

兄妹という関係ではなく、ただ普通の恋人のように…


少し経つと、ゆっくりと兄は妹を離した。

見つめ合い、互いに笑った。

そんな(兄・妹)を愛おしく思い、

二人は唇を重ねた。

それはたった数秒だったのかもしれない、

それでも二人には永遠にも思えるほどの時間に感じた。

互いの気持ちを確かめ合うかのごとく何度も重ねた。


帰りの車で兄は妹に聞いた。

「昼の質問は何だったんだ?」

妹は笑いながら、

「友達の友達って自分のことなんだよ」

兄は思わず笑ってしまった。


家に帰ると二人は遅くまで話し合った。

これからどうするのか。

このままの関係でいいのか。

この恋は悪いことではないのか。


最後に、兄は思い出した。

初恋は、きっと妹だったんだ─

書いてみて、自分でうまく評価できなかったので投稿させてもらいました。テンプレ感満載な感じはしますが満足できました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 初々しさがいいですね。
[一言] いい感じの雰囲気だと思います
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