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Soul of Clans  作者: 六魂茶
深緑の守り人~深き森の守護者たち~
4/4

-ロフ伝-

キャラクター説明


名前:ロフ(狼風)

種族:鬼

所属:深緑の守り人

クラス:ルーク

武器:掃除用具

特技:パラドックスストライク


こちら(https://twitter.com/Okujou_P/status/897259525803098112)のキャラクターを使わせていただきました!

※少し残酷な表現がありますのでご注意ください。

――ここは国中の商人たちが集う商業都市ゼニジャハーン。

 街の中に入れば前後左右どちらを向いても、店、店、店……

 飲食店から道具屋、武具屋……中には家事代行や音楽店なんてものまであり、実に多種多様である。

 その中の一つ――表向きは“愛玩動物専門店”として人気の店舗の裏。

 そこで怪しげな取引が行われていた。


「……で、どうする? これだけの上玉、そうそう降りてこないぜ?」


 取引を持ちかけている男は大出のマントで全身を隠し、フードのせいで表情も見えない。

 だが、かろうじて見えている口元だけは厭らしい笑みを湛えていた。


「ちっ……足下見やがって」


 取引相手である店のオーナーは、大きく舌打ちしつつも深く考える。

 この商品には吹っかけられた値段ほどの価値があるのか、慎重に判断を下す必要があった。

 男はいわゆる“闇ブローカー”といわれるやつで、扱う商品も違法品。

 判断を間違えれば破滅への道まっしぐらの可能性もある危険な取引なのだ。


「よーく、考えるといい。だが、あまり時間はかけないでくれよ? こっちも忙しい身でね」

「せかすんじゃねぇよ……!」


 足下にある袋の中身も当然そうで、それなりに大きな生き物が入っているらしく先ほどから激しく動いている。

 いや、それだけではない。

 

『んー! んー!』


 中から聞こえてくるのは声である。

 言葉にこそなっていないが、間違いなく知能ある生物が発している声だ。


「もう一度、見せてもらってもいいか?」

「いいぜ? ほらよ」


 男が開いた袋の中には、小さな少女が縛られて入れられていた。

 ヒューマンに比べて長く大きな耳、銀色の髪に透き通った翡翠色の瞳、目鼻立ちは整い見た者十人が十人『美少女だ』と答える美しさ。


「やっぱりちょっと、若すぎじゃねぇか? こんなガキくせぇのがホントに売れんのか?」

「馬鹿言え。こんなでも俺たち大して変わんねぇんだぞ? エルフ(・・・)ってのは見た目以上に歳食ってるってのは常識だろう?」

「実年齢の話じゃねぇっての。その……こんなチンチクリンをほしがるタマなんぞ」

「はんっ! それこそ、山のようにいるぜ? 頭の中身が腐った金持ちなんざ、そんなもんよ」


 その事は、オーナーの男もよく理解している。

 金持ちがそういう趣味に走るのか、それともそういう趣味の連中が金持ちになるのか。

 卵が先か親鳥が先か論ずる様なもので答えは出ないが、ともかく偏った趣味思考の連中が多いのは事実だ。

 なぜならこの男も”偏った趣味思考の連中”の一人なのだから。


「難癖付けて安くしようたって無駄だぜ? さっき言った額からはびた一文まけたりしねぇ」

「ちっ」


 図星であった。

 一目見て気に入ったオーナーはなんとしてもこの少女を奴隷として手に入れたいと思っているのだ。


「まぁ、あんたが買わねぇってんなら他のヤツを当たるまでさ。なーに、これだけの上玉だ。倍の額でもほいほい出してくれるような変態サマはたくさ


んいるからな」

「ま、待て! わかった、俺の負けだ。そいつがほしい」

「へへ、毎度あ――」


 交渉成立かというその瞬間、がちゃり、と店の裏口が開く。

 焦りやら怒りやらで表情を点滅させる男たちは、邪魔者の面を拝んでやろうと裏口の方を見やる。


「…………」


 裏口から出てきたのは帽子を深々と被った大柄の男だ。

 トウゴク発祥の野暮ったい紺色の服『サギョーギ』、つまり作業着を着込み、モップやホウキなどの掃除用具を持っている。

 確か少し前からある掃除請負業者の制服だったはずだ。

 自分が邪魔をしているのがわかったのか、ばつが悪そうに立っている男にオーナーが喚き散らす。


「な、なんだお前は!? 何をしに来た! 今俺は大事なとりひきの――」

「……あんたが、オーナーさん?」

「ひ、ヒィッ!?」


 男の恐ろしく低く平坦な声にオーナーはビクリと身を震わせる。

 全く感情の起伏を感じさせないその声に、途方もなく深い深淵を覗き込んでいるような気分にさせられたのだ。


「そそそそ、そうだ! おおぅお俺がこの店のオーナーだ! だったらどうしたというんだ!」


 男は何も答えない。

 代わりにただ一度だけ、ギロリと鋭い眼光でオーナーを見射抜(みいぬ)く。


「や、やめろ見るなそんな目で俺をみるなぁぁぁぁ! いいいいいいからさ、さっさとしし仕事に戻れ!」


 蛇に睨まれた蛙よろしく、その場に縫い付けられたかのように身動きができなくなるオーナー。

 せめて態度だけはと精一杯エラそうに振る舞うオーナーだったが、呂律が回っていない時点でもうお察しである。


「……その命令は聞けない」

「な、なぜだ! おおおぉおぅおオーナー命令だぞ!? お前は俺に雇われた…………? あ、あれ?」


 気づいた時にはもう遅かった。


「俺は清掃代行なんて、頼んでいな――」


 突然、オーナーの視界がぐるぐると回りだす。

 いいや違う。


「い゛?」


 呆然とした表情のまま、オーナーの頭部がゴロリ、と地面に転がったのだ。

 まるで抱えていたボールを地面に転がすように無造作に、何の前触れもなく頭が転がる。

 それにはさすがの裏社会を生きる男も腰を抜かした。

 

「ひゃ、ひゃあっ!? て、てめえ! な、なななな何をしやがった!?」

「さぁな」


 あまりに早すぎてまるで『何もしていないかのように見えた』斬撃は、得物のモップを返り血で汚すことさえ無い。

 むしろその一振りは空気との摩擦で高温を発生、傷口をきれいに焼いて止血するため現場には血の一滴も残らない。


「……パラドックスストライク」


 余りに鮮やかすぎて相手に己の死すら悟らせないその絶技を、彼の友人はそう呼んだ。


「な、なんだそれは!?」

「さぁな? 俺にもよくわからん」


 ただ、その意味を彼自身はよく分かっていなかった。


「ふ、ふざけるなぁっ!」


 ブローカーの男は懐から取り出した魔銃で不意打ち気味に掃除屋の男に二、三発発砲した。

 しかしどれだけ照準通りに狙っても、弾丸が男に命中する事はない。

 むしろ、


「ガッ!?」


 跳ね返された弾丸がブローカーの指を弾き飛ばし、男は魔銃を取りこぼす。


「……ちっ、汚しちまったか。掃除が面倒(・・・・・)だな」


 掃除屋にあるまじき発言をした大柄の男が、地面に落ちた魔銃を拾い上げようと屈む。

 と、


「むっ?」


 その拍子に掃除屋の帽子がポトリと落ちる。

 帽子に隠されていた頭部が露わになると、ブローカーの男は戦慄した。


「そ、その片方だけ折れた角……! まさかお前! ロウフウか!? “隻角の鬼神・狼風(ロウフウ)”なのか!?」

「……それを知る必要があるか?」


 ロウフウと呼ばれた掃除屋は帽子を拾い上げると再び深々と被り、モップを掃除用具を運ぶためのキャリーに戻す。

 カタン、と道具同士がぶつかって音が鳴った。

 それを合図にするかのように、


「ヴェッ!?」


 ブローカーの視界が大きくずれる。


「もう掃除(仕事)は終わっているのに?」


 中心から左右できれいに両断されたブローカーは、離れていく半身を掴もうとするが叶わず事切れた。


「やれやれ……」


 掃除屋は地面で元気にのたうち回っている袋をひょいと持ち上げると、中の少女にも聞こえるような声ではっきりと告げる。


「悪いが、もう少しそうしていろ」

「むぐー!?」


 言うやいなや掃除屋は袋をキャリーの中へ無造作に放り投げ、代わりに数本の掃除用具を取り出す。


「まだ片づけ(・・・)が残っているんだ」


 そうして、ロウは再び仕事道具を振るう。

 何がとはあえて言わないが、このままでは運び辛い(・・・・)ので細かく(・・・)する必要があったからだ。




―――――

 



「……お疲れさまです」

「………………(ペコッ)」

「あ、お疲れさまでーす……はぁ」


 店のバックヤードを回収したゴミ(・・・・・・)の入ったキャリーを押して通ると、店員たちが丁寧に頭を下げる。

 しかしその表情はどこか憂げだった。


「ったく、こんだけ働いて給料――Gって割にあわねぇよなぁ」

「馬鹿、オーナーに聞かれるぞ!」

「知るかよ。毎日毎日人のことこき使うくせに……自分は奴隷でイイコトしてんだろ? マジありえねぇわー」

「おまっ!? す、すいませんねぇ」

「……いえ、心中お察しします」


 掃除を終えた男は自暴自棄になっている店員たちに『お疲れさまでした』と一礼してその場を後にする。

 小柄な相棒(・・・・・)を一人、引き連れて。


『もういっそ死んでくれねぇかなぁ……無理か』

『殺してもしなないって、あーいう奴のコトいうんだぜ?』

『ははっ、違いねぇ……はぁ』


 男は振り返ることもなく、店を後にする。

 その後、さきほどボヤいていた店員がオーナーの失踪に『店を放っておいてどこに行きやがった!』と不満を露わにしたのは言うまでもない。




―――――




≪ご苦労だったな、狼ふ――≫


 すべての仕事を終えたロウは水晶通話先の友人の労いの言葉にいつもの調子で返す。


「その名で呼ぶな……それはもう棄てた名だ」

≪あぁ、そうだったな。すまない、ロフ(・・)


 電話向こうの友人はいつもロフをこうしてからかって遊んでいる。

 他の者に昔の名を呼ばれるのはロフの本意ではないのだが、不思議とこの男にだけはそれを許している。


「変わりないな、オウル」

≪お前もな、ロフ≫


 その程度には、ロフは友人――エルフのオウルを信頼していた。


≪さて、それで今回の掃除(しごと)だが……?≫

引っ越し(・・・・)まで終わっている」

≪さすがだな≫


 当然ここで言う“掃除”“引っ越し”というのはロフの行っている裏の仕事の隠語である。

 “掃除”は邪魔者の排除、“引っ越し”は指定物品、または人物の輸送を意味する。


「ただ、“荷物”が……」

≪何か問題があったのか?≫


 荷物、とはつまり引っ越しの荷物。

 つまり今回で言うところの“奴隷として売られかけていた少女”の事なのだが……


「ゴネた」

≪ゴネた? それはまたどうして?≫

「さぁな。ただ『責任を取れ』とか何とか」

≪そいつはまた何というか……なにをしたんだ?≫


 エルフの少女を救出した後、ロフは細かく刻んだゴミを少女もろともキャリーに入れて運び出そうとした。

 が、そこで少女が怒り出した。『コレと一緒に詰め込むとは何事か』と。

 そこでロフは自分の替えの制服に着替えさせ、清掃員に変装させて脱出した。


「顔を真っ赤にして怒っていた……俺は怒らせるような事をしたのか?」

≪お前が着替えさせたのか?≫

「そうだ。この服は着なれていないと着づらいからな」

≪……それだろう≫

「……どれだ?」

 

 大体の状況を把握した空気の読めるオウルに対し、朴念仁としても名高いロフは本当に分かっていない様子だった。


≪分からないのか?≫

「見当もつかないな」

≪間違っても本人には聞くんじゃないぞ?≫

「忠告には感謝するが、それは無理な相談だ」

≪まさか?≫


 ロフは腕の包帯をさすりながらため息をつく。


「……腕を三カ所噛まれた」

≪当たり前だろう……はぁ、お前はもう少し“デリカシー”という物を勉強すべきだ≫

「……善処はする。だが期待はするな」

≪安心しろ。“同族殺しの英雄”にそういうことは期待していない」

「ふっ、違いない」


 互いが互いをよく知るからこそ出来る悪意の無い戯れ。

 共に死線を乗り越えてきたこの二人の絆は、種族の垣根を越えた本物であった。


≪……なぁ、ロフ。そろそろ戻って来ないか?≫

「…………またその話か」


 ロフは明るい表情から一転、仕事をする時の貌|≪無表情≫に様変わりする。


≪他の奴らには俺が言って聞かせる。だから……≫

「何度も言っているだろう? 『ありえない』とな」

≪“姫”がお前に会いたがっている、と言ってもか?≫

「……ならばなおさらだ。俺は“姫”には会えない」


 断言すると、水晶の向こうで『ドン!』と大きな音がする。


「何かあったのか!?」

≪あー、いやその……心配いらない≫


 何かあったのか本気で心配するロフに、オウルは気まずそうに答える。


≪うちの“姫”様が、大層ご機嫌ナナメでいらっしゃる≫

「……そこにいたのか」


 状況を把握したロフは大きくため息をついた。

 昼間引っ越しをしたエルフの少女も中々であったが、じゃじゃ馬という点ではこの“姫”も負けていない。


≪こんの馬鹿ロフ!≫


 すぐに大音量の罵声が飛んできた。

 これには数多のゴミを掃除してきた掃除屋ロフもたじたじである。


「……姫か? 元気にしているか?」

≪元気も何もあるかこの馬鹿ロフめ! この馬鹿で阿呆で、すっとこどっこいの、えーっと……大馬鹿どっこい阿呆助のロフが!≫

「分かった、俺が馬鹿なのは認める。だからどうか怒りの矛先を沈めてくれ。あんまりまくし立てていると、逆に姫が馬鹿っぽく思われてしまう」

≪なんじゃと!? むぎぎぎぎ!≫


 ロフとしてはどうして姫が怒っているかさっぱりであったが、多分きっと自分が怒らせたのだろうと言うことは分かった。


「……すまない」

≪……ふん!≫


 ロフが素直に謝ると、姫はそれでも多少は怒りが収まったのか『まぁよい』と一人ごちる。


≪そう思うなら、さっさと帰ってこい。里の連中が何を言おうと気にすることはない。だから……≫

「無理、だな」


 ロフは鬼族である。

 ただでさえ他種族よりも排他的なエルフ族の隠れ里の中に彼の居場所は無かった。

 オウルやこの姫のようにごく一部の人間は彼を認め、友として扱ってくれている。

 だが彼の人となりを知らない里の多くの者たちは“隻角の鬼神”“同族殺し”を恐れ、敵視している。

 

「俺の背負う罪は、あまりにも大きい」


 ゆえに彼はエルフの隠れ里を離れ、それでも恩人である姫をや姫の同胞たちを守るため掃除屋になった。

 そしてその事を彼は誇りに思っている。


≪この頑固者め!≫

「主人に似たのかもな」

≪……ば、ばかロフ! もう勝手にせい!≫


 ブツン、と通話が切られるがすぐにまた水晶がつながる。


≪お前は本当に……くくく≫


 通話先の相手――オウルは大層おもしろそうに笑っている。


「何かおかしいのか?」

≪何でもないさ……くくく。この水晶に映像機能が無いのが悔やまれるな、今の姫をお前にも見せてやりた――イタタ、こら姫おやめなさい≫


 通話の向こうの姫に何があったのかはよく分からないが、二人とも息災のようでロフは安堵した。


≪さて、まあアレだ。――我らは、いつでも同胞ロフの帰還を待っている。それだけは分かってくれ、友よ≫

「……あぁ、感謝する。オウル、我が友」

≪妾もな!≫

「そうだな、姫も」

≪ついでの様に言うな馬鹿ロフ!≫

≪はははは――≫


 オウルの笑い声とともに通話は終了、水晶は完全に沈黙する。

 目を閉じれば浮かぶ緑の景色、懐かしき日々、友と主の姿……自然とロフは微笑んでいた。

 その中に、自分の姿はなくて良い。


「俺は掃除屋だ」


 静かに呟くとロフは、もう掃除屋の顔に戻っていた。


(あの場所)を汚すゴミは、何人たりとも許さない」


 かつて、自身を救ってくれた主に報いるために。


「どうせ汚い血で汚れきったこの身……これ以上汚れることに躊躇などない」


 鬼として恐れられた自身に、新たな|名≪いのち≫を与えてくれた強がりで泣き虫の|姫≪しょうじょ≫を守るために。


「俺は掃除屋だ」


 その瞳に迷いはない。

 掃除屋ロフは、今日も人知れず街のゴミを掃除していく。

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