-ケロツグ伝-
キャラクター説明
名前:ケロツグ
種族:小人(コビット族)
所属:旅の傭兵
クラス:ビショップ
武器:刀(止水)
特技:真鈴泰舞
こちら(https://twitter.com/kerotsugusamin/status/897238202687176704)のキャラクターを元に書かせていただきました! ケロツグさんに感謝!
――とある宿場町の宿屋。
「やってますかい?」
荒くれ者の傭兵たちが集う一階の酒場は、ガヤガヤと騒々しい。
酒場を切り盛りしているのは十歳くらいの少女とその母親の二人だけ。
そのためか酒場に集う傭兵たちは好き放題にしている。
「い、いらっしゃいませ! な、何名様で……?」
「あっし一人でさぁ」
「か、カウンターでも……?」
「構いませんぜ」
今しがたやってきた小さな旅人――名はケロツグと言い、町から町を渡り歩くコビット族の傭兵である。
背には身の丈と不釣り合いな程大きな刀を背負い、全身をマントですっぽりと覆い隠している。
「ふぃー、どっこらせっと。注文いいですかい?」
「あ、はい」
「じゃあこの、『野菜の盛り合わせ』ってぇのと、『木苺水』を」
「あ……!」
ケロツグの注文に沸く酒場のゴロツキ共。
訳もわからずキョトンとするケロツグに親切なゴロツキの一人が、エールの入ったジョッキを持って隣にやってくる。
「オイオイオイ! ボウズ、お前、ここがどこかわかってんのかい?」
かなり酔いが回っているようで、顔を真っ赤にした禿面のゴロツキは酒臭い息をまき散らしながら上機嫌に突っかかってくる。
「ここは酒場だぜぇ? それが……ブハハハ! や、野菜の盛り合わせだぁ!? ブハハハハハ! 草が食いてぇなら外で食ってこいよ! そこらじゅうに生えてるぜぇ? ブハハハハハハ!」
そしてもう一人、禿面ほどではないがコチラも相当酔っている犬顔の獣人が反対側からケロツグをおちょくる。
この宿屋を使うゴロツキの中でも特に札付きに柄が悪い傭兵コンビである。
「そ、それに……? ギャハ! な、なんだっけ? ギャハハハ! き、木苺水ぃ? ギャハハハハハハ! あー腹痛ぇ。酒の飲めねぇガキはさっさと家に帰ってションベンして寝な! ギャハハハハハハハ!」
爆笑の渦に包まれる酒場。
笑っていないのはケロツグと看板娘の少女だけである。
「あ、あの……」
「構いませんぜ? 持ってきてくだせぇ」
ケロツグは微塵も気にしていない様子で、看板娘を促す。
ゴロツキたちはそれがどうやら気にくわなかったらしい。
娘が厨房に入っていったタイミングで、案の定ケロツグへと突っかかってきた。
「オイオイ、話聞いてたかアァン!?」
「ガキはさっさと帰れってんだよォ!?」
「あっしは、もう大人でござんすが?」
コビット族という種族は他の種族に比べ格段に背が低い。
成人しても一般的なヒューマン族の五歳~十歳程度の身長までしか成長しない。
当然、そのことが分からないゴロツキではない。
「んなこたぁ分かってんだよォ! 酒場まで来て酒が飲めねぇようなヒヨッコだからガキなんだろうが!」
「ケッ、こんな似合わねぇ馬鹿でけぇ武器なんざ持ちやがって……ん?」
ケロツグの背にある刀を鞘から引き抜いた禿面の男はキョトンとする。
が、それも一瞬の事ですぐに馬鹿にしたように笑い始めた。
「ブハハハハ! んだよコレぇ! 柄しかねえじゃねえか!? ブハハハハハ!」
周囲に見せびらかすようにゴロツキが振った刀は、
派手な装飾のない質素な柄には刀身と呼ばれる物がなく、代わりに青い石のような物が嵌め込まれている。
まるで子供の玩具のようだと皆が皆、指を指して笑った。
しかしケロツグはまるで気にしていない様子だった。
「……お、この野菜炒めもなかなか旨そうで……」
「オイ」
無視をされカチンと来たのだろう。
ゴロツキは禿頭に青筋を立て腕を振り上げる。
「無視してんじゃねぇよっ!」
そしてそのままメニュー表を食い入るように見つめていたケロツグめがけ、刀の柄で殴りかかる。
「……やれやれ」
しかし、男の手は虚しく空を切った。
「は?」
「お、オイ。どうなって……?」
それどころか、握りしめていたはずの柄すらなくなっている。
先ほどまでイスに座ってメニュー表を眺めていたケロツグの姿はどこにもなく、代わりにそこにはもぬけの殻となったマントだけが落ちていた。
「飯ぐらい、静かに食いたいもんですねぇ」
気づけばケロツグは透き通った水晶の様な刀身の刀を肩に置き、ゴロツキの背後に立っていたのだ。
「な、な!? んだ、てめ!? それに、その……」
「あぁ、コイツですかい? コイツはまぁ、こーいうもんなんでさぁ?」
「ひっ!?」
犬顔のゴロツキは獣人としての本能なのか、とぼけた調子のケロツグから底知れぬ何かを感じ取る。
しかし禿げ頭の方は、まるで状況を理解していなかった。
「ちっ! 何をしやがったかわからねぇが、いけすかねぇ野郎だ! ぶっつぶしてやるっ!」
「お、おい! やめとけっ!」
「うおらぁぁぁ!」
犬顔の制止も効かず、禿げ頭の男は近くにあったジョッキで殴りかかった。
それを見たケロツグは一つ小さく嘆息し、
「『真鈴泰舞』」
言い終えた時には、既に事を終えた後であった。
リィン、と澄んだ鈴の音のような音が酒場に響きわたる。
「ア゛?」
ゴロツキは自身の身に何が起きたのか理解できなかった。
否、理解する暇もなかった。
「こいつで仕舞ですぜ」
カチン、と刀を鞘に戻す音と同時に、無数の斬撃がゴロツキの服を切り刻み、同時に意識も刈り取った。
「ガッ!?」
ドスン、とゴロツキの身体が床に倒れ込むと酒場内はしんと静まりかえった。
数秒まで囃し立てていた他のゴロツキたちも、完全に酔いが醒めて青ざめていた。
犬顔の男はゆっくりと後ずさる
「お前さん」
「ひっ!?」
もう犬顔のゴロツキは、ケロツグに声をかけられただけで既にちびりそうだった。
「お連れさんにゃあ、悪い事しちまいましたね。すいやせんが、介抱してやっておくんなせぇ」
「あ、あぁ……」
何もおとがめがなく、ほっと安堵した犬顔は完全に気を失っている相方を無理矢理抱き起こし酒場を後にしようとした。
「お待ちなせぇな」
「ひっ!?」
ケロツグの低い声に驚き、堪えきれず粗相してしまう犬顔の男。
「お代はちゃんと払ったんで? タダ飯食らいは畜生にも劣るってもんですぜ?」
「すすす、すいやせんっしたーっ!」
ゴロツキは自分の懐と相方の懐からありったけの金貨を放り投げると、一目散に逃げ出していった。
「おや? 勘定以上に金を置いていくたぁコイツはなかなか気前がいいや。まぁ迷惑かけた店への弁償料ってぇ事で手打ちといきやしょうか」
ケロツグは金貨を拾い上げカウンターに置くと、手から水の魔術を発動して汚れた床をきれいに洗い流した。
「――それで? 他にあっしにご意見があるお人はいらっしゃいやすかい?」
ケロツグの問いに、誰もが首を横にふった。
少々派手に見せているのは、先ほどのように突っかかってくる輩を減らし、面倒事に巻き込まれないようにするため。
これも上手に世を渡っていくための一つの手段なのである。
「お、おまたせいたしま……あれ?」
先ほどまでの様子から一転して、お行儀良くなっているゴロツキどもに看板娘が小首を傾げる。
「なんでもありゃしませんよ。ほほう、コイツは旨そうだ! いただきやす」
ぐびぐびと一気に木苺水を飲み干したケロツグは、満面の笑みを浮かべる。
「一仕事終えた後の一杯は、やっぱりコイツに限りやすぜ! お嬢さん、もう一杯お願いしやす」
子供のようにはしゃぐケロツグを笑う者は、もうこの酒場にはいなかった。
―――――
「へぇ……そんな事があったんだぁ」
ケロツグの大活劇から数日。
まだ昼間だというのにもかかわらずカウンターでジョッキをあおりながら看板娘と話し込む二人組がいた。
「あぁ、あんときゃさすがのオレもビビっちまってよ。もうコイツが飲めなくなるかと思っちまったぜ」
「はんっ! オレを置いて逃げ帰ろうとした奴がよく言うぜ」
「んだとっ! そもそもお前がオレの忠告を聞かずに旦那に……!」
「ちょ、ちょっと二人とも!」
禿面の男と犬顔の男が取っ組み合いのケンカをはじめようかというその最中。
「ちょいとお前さんたち。お天道さんが高いうちから何をおっぱじめてるんですかい?」
背に大きな袋包みを背負ったケロツグが呆れ顔でやってきた。
「げっ!?」
「旦那!?」
「あ、ケロさんお帰り!」
「ただいま戻りやした。コイツは土産ですぜ」
ケロツグが降ろした包みには大きな肉の塊だった。
先ほどまでケンカしていた二人の傭兵も、これには「おぉ!」と声を揃えて感嘆する。
「わぁー! いつもありがとね、ケロさん♪」
「これは……! マーダーホーンの霜降り肉じゃねぇか!」
「オイオイ……こんな田舎じゃめったにお目にかかれねぇぞ!? さすが旦那だ!」
看板娘が極上肉を奥の厨房まで運び入れるのを見届けて、ケロツグはカウンターのいつもの席に座る。
そ、両サイドに男たちが席を移してやってくる。
「旦那、ちょっと聞いてもいいか?」
「なんですかい?」
「どうしたら、あんたみたいに強くなれるんだ?」
真剣なまなざしを浮かべる傭兵たち。
あの日、ケロツグに敗れた日から男たちは何度となくケロツグに挑み、そして敗れている。
別にケロツグに恨みがあるわけではない。
むしろ傭兵として畏敬の念を抱いたらこそ、稽古をつけてもらう形で挑んでいるのだ。
ケロツグもそれを『心意気や良し』と認め、真っ向から打ちのめしている。
だが、
「そりゃぁ、無理ってもんですぜ」
さすがのケロツグもこの問いはバッサリと切り捨てた。
男たちが目に見えて落胆する。
「だって、お前さんたちは戦士でしょうに?」
ケロツグは何が可笑しいのか、ニンマリと笑う。
「戦士って……そんなん決まってんだろ?」
「俺たちが魔術師に見えるか?」
「とてもじゃないが、見えねぇなぁ」
くっくっく、と笑うケロツグがったが、男たちには何が面白いのかさっぱりだった。
「なぁ、旦那。どうして俺たちは強くなれねぇんだ?」
「や、やっぱり今更強くなろうったって、無理だってのか?」
「まぁ落ち着きなせぇって。誰もお前さんたちが強くなれねぇなんて言っちゃいねぇさ」
「は? そりゃ一体どういう……?」
「“あっしみたいに”強くなるのは無理だって言ってんでさぁ」
まったく意味がわかっていない傭兵たちに、ケロツグは自身の刀を抜いて見せる。
あの日と同じ、刀身が無い代わりに青い石が嵌った柄だけのそれは刀というより……
「コイツはね、刀じゃなくて杖なんでさぁ」
「「はっ!?」」
意味の分からない二人に、ケロツグは笑いながら空気中の水分を集めて水の刃を作って見せる。
「見ての通り、コイツは魔術で作ったもんでねぇ。『真鈴泰舞』もちょいとの剣術を足しただけの魔術なんでさぁ」
魔術により産み出された水の刃は下手な刃より切れ味で勝るため、ケロツグの刀は刃を必要とせず、代わりに触媒となる宝玉が埋め込まれている。
『真鈴泰舞』に関してもそうだ。
相手の攻撃を体表面に水で作った被膜で受け流し、かつ相手が瞬きをする間に瞬時に斬撃を加えて意識を刈り取り、周囲に目視が難しいほど薄い水の刃を張り巡らせる。
後はそれが納刀の合図で発動、対象を切り刻むという一連の魔術なのである。
「なんてこった……それじゃ」
「天地がひっくり返ったって無理じゃねえか」
「まぁ、そういう事でさぁ」
魔術を扱うには多少なりとも適正が必要である。
それが全くない二人にはどうあがいても『ケロツグのように』強くなるのは無理である。
「ケロさん、これ母さんがサービスって……あれ? なんでこの二人凹んでるの?」
「なぁに、挫折を知った方が傭兵は強くなれるってもんでさぁ」
「なにそれ?」
「さてねぇ? 木苺水、ありがたく頂戴いたしやす」
旨そうに木苺水を流し込みながら、ケロツグは笑う。
「存分に悩むといい。お前さんたちはまだ若い」
「ケロさんだってまだ若いじゃん」
「違いねぇ。くっくっく」
――とある街にある小さな宿屋。
木苺水が有名なその店には、大層剣の腕が立つ傭兵がいるという。
その傭兵が“流刀の魔術師”と呼ばれ恐れられている事を、他の常連たちはまだ知らない。
※正確に言えば武器は『杖』なのですが、刀として扱う事が多いのでネタばれ防止も兼ねて『刀』と表記してあります。