第22話 彼女の告白
「――で、アテナ様。応援ってのは彼女のことですか?」
「ああ。どうしても同行したいそうでな。蘇生処置を取ろうとも思ったんだが、手続きが面倒くさいのでやめにした。頑張れ」
「あとでちゃんとやっといてくださいね……」
「やだ」
きっぱり断って、アテナは部屋を去っていった。
残された俺とヘルミオネは、何気ない空気のまま話を始める。
「どういう風の吹き回しだ? 俺がこれからやろうとしてること、分かってるんだろ?」
「そりゃもちろん。アンドロマケさん、助けるんでしょ?」
「にも関わらず協力するって? お前にとっちゃ憎い相手じゃないのか?」
「……そりゃあ、ネオに言寄る女は好きになれないけどさ」
いや、言寄ったのは俺なんだけど。
そんな心の叫びは呑み込んで、俺は彼女の返答を待つ。
「アテナ様から聞いたの。アンドロマケさんのこと、ヘクトルさんに返そうとしてるって」
「む……」
「何よ、アンタらしくない。欲しいものを欲しいって言って、手に入れるのが英雄ってもんでしょ? 諦めてどうすんのよ」
「嬉しくないのか? 俺の元婚約者さん」
「あったりまえでしょ。傲慢で乱暴で、ガサツなのがアタシの王子様よ。他人に何かを譲るなんて信じらんない」
などと。
ワリかし不機嫌そうな顔で、ヘルミオネは言い切った。
「……そこまでの信頼があったとはな。俺、お前のお陰で死んだようなもんなんだが?」
「うっ」
「オレステスを唆して、自分の手を汚さないってのは、お姫様らしいよなあ」
「ううっ」
一言ごとに表情をしかめるヘルミオネ。ああ、面白い。
もちろん、俺は彼女の行いなんて、コレッぽっちも気にしちゃいなかった。
結果は結果でしかない。俺はヘルミオネという爆弾を抱えたまま別の女に夢中になり、爆弾を爆発させた。それだけだ。
「何よ、こっそり笑って」
「ん? いやそりゃあ、どうして俺がお前に好かれてんのかな、って思ってさ。だって――」
「……そりゃあ私、最初はオレステスの婚約者だったわよ?」
彼女は幼くして両親と離れ離れになってしまい、叔母であるオレステスの母に育てられることとなった。
その過程で二人は、婚約者という関係に落ち着くこととなる。
しかし俺の存在がそれを壊した。トロイア戦争に出陣することとの引き換えに、ヘルミオネとの婚約を求めたのだ。
結果、オレステスとの仲は引き裂かれることになる。
――で、もっと耳の痛いことに。
ヘルミオネはどうも、俺のことをすっかり気に入ってしまったらしいんだ。
「アイツに悪いとは思わなかったのか?」
「思ったに決まってるでしょ。家族同然に育ってきたんだから、罪悪感の一つもなかったらおかしいじゃない。オレステス、良い人だし……」
「それでもお眼鏡には適わなかったのか?」
「家族、って認識が強かったからね。男性として見てたかどうかは、ちょっと自信ないかな」