第19話 知神
「ふ――!」
まずは一機、ぶち壊す。
無論、敵は怯むことを知らなかった。俺との実力差を顧みず、ただ自分の役割を果たすために突撃する。
「つまんねえな、まったく!」
群がろうと雑魚は雑魚。鎧袖一触で壊していく。
ヘクトルの方は、順調にアンドロマケの元へ近づきつつあった。妨害が新たに出る様子もなく、俺の胸に安堵が広がる。
『貴公はこれでいいのか?』
お、アテナ様復活。まだ調子が悪そうだが気にしないでおこう。
『そこは気にしろ。……で、貴公は彼の犠牲を良しとするのか?』
「本人は決めてるっぽいですし、茶々を入れるのは良くないでしょ。それともアテナ様、シナリオ的にまずいんですか?」
『そんなことはない。トロイア王国は隣国との戦争に勝つ必要があるから、ヘクトルの死は好都合だ。さっきも首切れって言ったろう?』
「本気だったんですか……」
自動兵器の群れが一段落したところで、俺はヘクトルの元に移動する。彼の言が正しければ、これの次がある筈だし。
『警告する』
改めて響く、機械越しの音声。
今までと違うのは、それが威厳に満ちていたということだ。
「プロメテウス様……!」
『ネオプトレモス、ヘクトル、二名の侵入者に警告する。この工場は、余の実験に必要な道具である。破壊行為を続行するのであれば、相応の対処を取らせてもらう』
「っ――」
敵に回すのは面倒だろうが、俺は走る足を止めなかった。
神の声は、短い前置きのあとに結論を下す。
『反逆は続行されたものと判断する。これより、試作五型の運用を開始する』
「試作五型……?」
首を傾げる俺と、焦燥に駆らたようなヘクトル。
直後だった。
工場の床が大きく抜け、俺とヘクトルは真っ逆さまに落下する。
無事に着地した先で見たのは、巨大な闘技場のような空間だった。
広さ自体は工場の倍以上ある。天井の高さも同じで、数十メートルの巨人がいても暴れまわれそうな規模があった。
「ネオプトレモス君、大丈夫かい?」
「見ての通り五体満足だ。……で、これから俺達は試作五型ってのと戦えばいいのか? お決まりだろ、こういうの」
「ああ、そうなんだが……」
ヘクトルは浮かない表情だ。まるで、相手を知っているかのような。
次に起こったのは、目が眩むほどの光だった。
肌を焼く日差しのような光。俺は本体を直視することが出来ず、腕で日陰を作りながら状況を見守る。
光が落ち着いたころ、視界が捉えたのは火の車輪を持つ戦車。
そこには。
神々しいオーラをまとった、金髪の青年が立っていた。
「プロメテウス様……!」
「ごっ、ご本人!?」
「ああ。――これは私でも、どうしようもないね」
さっそく諦めムードのヘクトル。
俺だって気持ちは同じだ。プロメテウスの駆る戦車がどれほど危険な代物かも、直感的に理解できる。
あれなるは、太陽神の戦車。
地上の光輝を操る、光の化身。
その乱れがあれば地上を焼き尽くし、あらゆる水を奪い、世界を干上がらせる絶火の車輪……!