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英雄=掠奪者、あるいは欲望に従う者  作者: 軌跡
第一章 二度目のトロイア
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第18話 ヘクトルの決定

「ど、どういうことだよ、これは……」


「見ての通り、プロメテウス様が行っている実験だよ。ほら、奥」


「……!」


 巨大なビーカーの中で眠る、一人の少女。

 白衣を着たその姿を、見間違えることなど出来なかった。


「アンドロマケ――!」


「ここは彼女の量産工場だ。君とついさっきまで行動していたアンドロマケも、ここで作られたアンドロイドの一体だよ」


「……アンタ、こんなことに協力してたのか!? 恥ずかしくないのかよ!?」


「ああ、屈辱さ」


 ヘクトルはいつの間にか、俺との戦いで使った剣を手にしていた。

 何をするのか、俺は俺なりの解釈しか出来ない。なので、


「ど、どうする気だ?」


「この工場を破壊する」


 さっぱりと。

 プロメテウスに対する裏切りを、ヘクトルは口にした。


「あの巨大ビーカーには、プロメテウス様が色々と細工を施していてね。工場の機能自体を落とさないと、壊せない仕組みになってるんだ」


「……それを、俺に手伝えと?」


「そうなるね。といっても、大部分は私がやる。しかし私は死ぬだろうから、アンドロマケのことを頼みたい」


「!? な、何で俺が!? 普通はアンタの仕事だろ!」


「いや、君の仕事だ」


 ヘクトルは言い切った。

 そんな反応をされると、俺も言い返す気にはなれない。彼ほどの男が決めたことだ、訂正なんてあってたまるもんか。


「正直、私は彼女の伴侶として釣り合っていない。死後にまで一緒になろうとは思わないさ」


「……理由を聞いてもいいか?」


「どうして? 君にとっては、好都合なことだろう?」


「つまんねえ理由だったら、断ろうと思って」


「――」


 は、とヘクトルは笑う。俺にはその意味が分からなくって、目の色を変えることも出来ない。

 しかし肝心の部分は通じたようで、彼は量産される妻を見ながら語りだした。


「私はトロイア戦争で君の父に討たれ、彼女は一人身となった。その後トロイアは君たちに敗北。……アンドロマケの人生は、ここで終っていたとしても不思議じゃない」


 でも、とヘクトルは言葉を足す。


「君がいたおかげで、彼女はもう一度機会を得た。生きるチャンスを、確かに手に入れたんだ」


「……そのお礼だってことか? なら――」


「いや違う。私はね、彼女を縛り付けたことを悔いているんだよ」


「――」


「アンドロマケは、君の愛情を受け入れようとしなかった。私に立てた誓いを守って、君を拒絶しようとした」


「嫌なのか? それが」


 むしろ良い話だと思う。死んだ後も自分を想い続けてくれる人なんて、めったに巡り合えるもんじゃない。

 しかしヘクトルの横顔は、苦悩しか映さなかった。


「確かに光栄ではある。……だがどちらにせよ、私はアンドロマケを拘束した。彼女が手にした筈の新しい幸福を、私一人の存在で奪ったんだ」


「……贅沢な悩みだな」


「まったくだね。でも、私自身が納得できないんだからどうしようもない」


 ヘクトルは剣を構える。

 その動きに反応したのは、俺じゃなく工場だった。警報音が鳴り響き、次々に自動人形が現れる。


「こいつらに後れを取るのか? 知将ヘクトルは」


「まさか、問題は後に構えているやつらだよ。――警報が鳴った段階で、プロメテウス様も動くだろう。時間がないし、雑兵の相手は任せても?」


「ああ」


 頷いた直後、アテナが前もって回収していたケイローンが転送される。

 正面から突っ込むヘクトル。

 彼になだれ込む自動人形へ、俺は即座に狙いをつけた。

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