第15話 こちらも再会
「アンドロマケ!」
俺がその姿を見つけた時、彼女は外に出てきたばかりだった。
声に反応して振り向いた彼女は、驚きと困惑が混じったような顔をしている。
「え……」
どうしてか、アンドロマケは目を見開いて動かない。
そんな反応をされると、困惑するのは俺も同じだ。だって、そういう表情をされる理由がない。まさか死んだとでも思われてたのか?
「大丈夫か?」
茫然としている彼女に、俺はそのまま声をかける。
「え、ええ、まあ」
「そうか、良かった。ああ、怪我とかしてないか? 体調は? 大神の一撃だったんだ、少しでも違和感があるなら――」
「ね、ネオプトレモス様」
アンドロマケは凛として、しかし不安げに顔をあげる。
「私は大丈夫です。ちょっとまだ混乱してますので、一人にさせてもらっても宜しいでしょうか……?」
「あ、ああ。思慮が足りんかったな、スマン」
「いえ……」
小さな背中をいつも以上に小さくして、アンドロマケは住宅街の中へ入っていく。
俺も、追いついたオレステスも、彼女を追うことはしなかった。そりゃあ話はしたいけれど、本人の意思を無視するわけにもいかない。
『フられたな。今夜はご馳走だ』
「どうしてそうなるんですかねえ!? 女神だったら慰めるとかしてくださいよ!」
『いやいや、私は処女神だぞ? 男の失恋には、胴上げして喜びを共有するに決まってるだろうが。貴公も付き合え』
「絶対に嫌です」
『遠慮するな。童貞神として祭り上げられるかもしれんぞ?』
「なんですか、その不名誉な神は……そもそも大神が女性に手を出しまくってる時点で、神様として認められなさそうな気がするんですけど?」
『父上は孫にさえ手をだすからなあ……』
感心しているのやら、呆れているのやら。いまいちハッキリしない抑揚だった。
俺はオレステスと合流し、地下の方へと戻っていく。
「どうなされたんですか? アンドロマケ様は」
「さあ? 調子が悪いだけじゃないのか?」
「だといいのですが……どうも、僕の顔を見て驚いていたようで」
「オレステスもか?」
「ネオプトレモス様も?」
奇妙な一致があったものだが、これは何を意味するんだろう?
男二人で無い知恵を絞ってみるが、肩を竦めるぐらいしかやることはなかった。やっぱり、直に聞くしかないんだろう。まあ無理に聞きだすのはどうかと思うが。
「……ん?」
そのときだった。
住宅の陰に、ヘクトルの姿を見つけたのは。