第14話 参謀さん、暗躍
「は?」
俺にしか分からない会話なのに、予想外の回答で声が出る。
てっきり、予定を変更した、ぐらいのことを大神は言ってくると思ったんだが。
『どうも側近であるプロメテウス殿に、ある程度の采配、権限を委ねていたようでな。ヘクトルの件については、彼の独断である可能性が高い。父はお怒りだったぞ』
「……」
「ぬ? どうしたネオプトレモス殿」
「あ、いや……どうもプロメテウス様が暗躍してるようで」
「なに!?」
どれだけ驚くべき事態なのか、ブリアモス王の顔つきを見れば一発で分かる。
「プロメテウス様と言えば、人類の恩人ではないか! 今は大神ゼウスの補佐を行っていると聞いたが……ヘクトルの裏切りは、大神のご意思だと?」
「いえ、独断らしいですよ。ゼウス様も、ヘクトルへの加護についてはご存知ないそうです」
「なんと……」
ブリアモス王は、開いた口が塞がらないままだった。
プロメテウスがゼウスの反感を買うのは、まあ理解できないことじゃない。彼は人類への同情から、以前にもゼウスと衝突したことがある。
それが、火に関する一件。
「太古の地球――プロメテウス様は、神々の世界から火という概念を持ち込んでくださったと聞く。人類全体の幸福を願っている方だと思っていたのじゃが……」
「敵国についたんだとすると、そっちの幸福だけを望んでるとか、ですかね?」
「それは直に尋ねるしかあるまい。再び大神と対立するほどのこととは、思えぬしな」
「まあ、確かに」
逆に、リスクを超えるほどの動機がプロメテウスにあるのか。
考えれば考えるほど疑問は尽きない。ハッキリしたのは、知恵の神が敵になっていること一点。ゼウスもお怒りだそうだし、こりゃあしばらく地球に戻れなさそうだ。
「――そういえば、この世界の文明が進んでるの、プロメテウス様が介入したからですか?」
「恐らくな。過去の資料にも、あの方の存在が示唆されておる」
「なるほど」
彼の目的は、一体何なのか。
異世界の文明に直接的な介入を行うのは、当然ながら禁止されている。プロメテウスは俺たちのいる異世界で、二度もゼウスに反旗を翻しているわけだ。
大神の恐ろしさは、彼だって身に染みているだろうに。火を人類に与えられた際、地獄に追放された上、内臓を延々と喰われたらしいじゃないか。
「とにかく、対策を急がねばな。神々にも、改めて協力を求めるとしよう」
「俺も手伝いますよ。……あの人ともう少し、話したいこともありますし」
「助かるぞ」
ブリアモスは側近を率い、通りの向こうへと消えていった。
町の様子は静かなもので、自動兵器の存在など少しも感じない。俺が外で見回りする必要は、なんだかもう無くなっていそうだ。
しかし、せっかく外に出たわけだし。もう少しぐらいは敵を探そう。
と。
「おお、ネオプトレモス様! こちらにおいででしたか!」
「? どうしたオレステス。そんなに慌てて」
「あ、慌てるのは当然です! アンドロマケ様が、お目覚めになりました!」
「ホントか!?」
まあここで冗談を言う必要もないだろうけど。
オレステスの素直な返答を見て、俺は通った道を戻り始める。
これでいろいろ、疑問を晴らすことが出来そうだ。