第13話 意外と知らないそうな
不幸中の幸い、あるいはヘクトルが加減をしたのか。
襲撃された町は、全滅という最悪の結末を迎えたわけではない。
避難用に作られた地下空間。町にはいくつか用意されているらしく、俺のいる場所には三十人ほどが逃げ込んでいた。
「どういうことでしょう……」
眠っているアンドロマケを覗きながら、オレステスが腕を組む。
彼女は本当に無傷で、今は穏やかな寝息を立てていた。表情に苦痛の色は一つとしてなく、子供のように安心しきった顔で寝ている。
生きていてくれて、嬉しいのは事実だった。
しかしこうも無事だと、疑問は尽きない。あの状況で、一体誰が助けたのだろう?
「アンドロマケって、神の加護とかはついてたのか?」
「いえ、少しも。そもそも加護は、ネオプトレモス様のような運営局の局員限定と聞きましたよ? 僕らのような転生組にはつかない筈です。せいぜい記憶が継承されるぐらいで」
「そうか……」
ますます疑問は深まっていく。
だが今の段階では情報が少なすぎだ。俺は頭を切り替えて、アンドロマケが眠っているベッドに背を向ける。
「あの、どちらへ?」
「外の様子を見てくる。自動人形がうろついてたら、みんな戻るに戻れないだろ?」
「ど、どうも済みません……」
「気にすんなって」
壁に立てかけていたケイローンを手に、外に通じる扉を開ける。
青空の下に出てみれば、周囲は意外と平穏だった。
自動人形なんて物騒なモノが出てきたわりに、町の被害はほとんど出なかったらしい。俺たちの戦闘で出した被害の方が、よっぽど危険だったとか何とか。
「……後で謝った方がいいのかね」
独り言をぼやきながら、俺は無人の街並みを歩き始めた。
「おお、ネオプトレモス」
「ブリアモス王?」
角を曲がったところで、側近を従える王の姿を見る。
彼らは一様に警戒するが、王本人はその流行に乗らなかった。側近を制しながら前に出て、分厚い手を差し出してくる。
「ヘクトルを撃退してくれたそうじゃな。お陰で町の被害が抑えられたぞ」
「ああいえ、そんな大したことでは」
「……あやつは、何か言っておったか?」
「いえ」
かぶりを振る俺に、ブリアモスは落胆の息を零す。
「せめて理由だけでも話してくれればのう……あやつが私情だけで動くとは思えん。真面目な男じゃからな」
「……そういえば、大神ゼウスの加護を得ているようでしたよ。武器まで持ち出してきて」
「なに、ゼウス様の?」
「はい。おかしな話ではあると思うんですが……」
「それについてアテナ様は?」
「いま確認中だそうです」
地下にアンドロマケを運んで辺りで、女神は父の元へと向かった。
もう十分ぐらいは経過してるんだが、まだだろうか? 大神ゼウスの目論みについて知ることが出来れば、今後の指針にもなりそうだが。
『父上に確認を取ってきたぞ』
噂をすれば何とやら。少し呼吸を乱れさせて、アテナが声を寄越してくる。
『結論から言って、父上はご存知なかったそうだ』