第12話 一瞬の再開
「ヘクトル――!」
休んでいる暇なんてなかった。俺は即座に立ち上がり、実力の違いを踏まえず飛びかかる。
彼の表情は冷たい。一度は愛した妻だろうに、何の感慨も湧かないのか?
それが俺の激情を駆り立てた。いつも以上に荒々しく、力任せの連撃を叩き込む。次の神雷を撃たせる暇など与えるものか。
腹に目がけて、一閃を叩き込む。
「ぬっ!」
入った。
鎧すら引き裂いて、綺麗に一撃が入っている。よろめくヘクトル。滴る血も、俺に手ごたえを感じさせた。
なんだ、呆気ない。もともと頭脳系の武将だとは聞いていたが、この程度とは。
しかし。
「げっ、治るのかよ……」
裂かれた肌も、流れていた血も元通り。鎧の破損だけが残っている。
「加護のお陰でね。……しかし、初戦で突破されるとは驚きだな。さすがはアキレウスの息子といったところか」
「そりゃどうも!」
俺は奴の腹部を狙って、槍の一撃を走らせる。
しかし成果に結びつくことはなく、一進一退の攻防がしばらく続いた。ゼウスの雷は落ちてこない。回数に限度があるのか、今は準備中なのか。
突然聞こえた太い笛の音が、戦いを切り上げる合図だった。
「っ、時間か。悪いがここで失礼させてもらう」
「待ちやがれ……!」
だが、自動人形どもがここぞとばかりに割り込んでくる。
ぶち撒けられる銃弾を躱し、俺は次々に残骸を生み出していった。ヘクトルの気配だけが遠くなる。
一通り片付いた頃には、彼の姿などどこにもなかった。
「……くそっ」
苛立ちを口にする中で、視界に入るのは痛ましい戦火の痕跡。
「?」
何か物音が聞こえて、俺は自然と意識を向けた。
真っ先に湧くのは警戒心だ。残った自動兵器が、俺たちを狙っているのかもしれないし。
しかし、倒れるように出てきたのは人影で。
「あ、アンドロマケ!?」
ゼウスの雷撃を受けた筈の彼女が。
完全な無傷で、俺の目の前に現れた。
「っ、く……」
「お、おい!」
がっくりと倒れる彼女。
安心感で胸を撫で下ろしたい一方、驚く気持ちも捨てられなかった。