いつか見た夢
〝愛ってなんだと思う?〟
唐突に思い出した記憶。
いつの頃からか世界はがらりと色を変えてしまったように見えた。
あれは、なんだっけかな。
そう、彼女が唐突に俺に聞いてきた言葉だったな。
当時、同じクラスとはいえ全く話した事はなかったのに、俺を呼び止めて言った言葉だ。
〝可愛い女の子から声をかけられて喜びを感じるこれもまた愛なのかな〟
そうなんじゃないか?
だが俺にはよくわからない、愛なんて…そんなものは誰からももらえなかったからな…
〝愛を知りたい、私もあなたと同じだから〟
なぜ俺がお前と同じなんだ?
まぁたとえ、俺とお前が同じでも俺はお前になれないしお前は俺にはなれっこない
〝でもあなたを深く知る事は出来る〟
彼女はクラスの中で突出して可愛いわけでも無かったが俺が愛を知るきっかけを作ってくれた人に違いはない。
〝私はあなたが知りたい、あなたに私を見て欲しい〟
その時、愛の告白というものを俺は、生まれて初めて、見ることができた。
あいにく俺は誰も愛せない、愛がわからないからな、それに…
〝私にそんな事は関係ない、ただ私はあなたを知りたいしあなたに私を見て欲しいだけ〟
そこに愛は無くてもか?
〝そこに愛が無かろうと、死が二人を分かつまで一緒に寄り添って生きることは出来る〟
面白いことを言うじゃないか。
その話、乗った。
〝そう来なくては〟
ただし条件がある。
〝君の望むことなら何でもしよう、何なら私を絞め殺してくれても構わない〟
それはお前の愛情表現かなにかか?
〝そうかもね〟
くふふと笑う彼女は俺の目を見る事は無かった。
あの言葉は今思うと照れ隠しだったのだろうか
最も、今となっては知る由もないが…
〝何故に愛を求めるか〟
おお神よ、愛を求める迷える子羊達に愛をお教えください、なんて
〝あなたはいつまでたってもまだ見ぬ愛を求める子羊だ〟
それはお前もだろう…
廃墟の教会でひっそりとやった結婚式、お前は笑顔を絶やさなかったな
いつもそうだ、俺とお前はとても似ていて、かなり違う…
お前は俺の4歩5歩先を行ってたっけ
〝なぁ、あれがやりたい〟
あれじゃあわからんぞ
〝子作り〟
百万年早い
〝いいじゃないか、これくらいの夢は見ていたって〟
神様は本当に気紛れだよな、何も俺らに愛とは何かという課題を与えつつ、難しくなるように仕向けやがる
〝あぁ、いつも思うんだ…あなたと娘と私で、三人一緒に暮らせたらとね〟
まず娘がいないから無理だな。
また、来る…
〝いつでも…いつまでも待ってる〟
お前は愛が何か、途中からわかっていたんじゃないのか?
なんて思ったりもした。
出来ることならお前に沢山触れたかった。
これもまた愛かな。
お前ならどう答えるんだろうな。
〝やぁ…〟
おいおい、いつもの憎たらしいまでの言葉はどうした?
〝あぁ…〟
…元気だせよ、またいつもみたいに、馬鹿みたいに愛について話そう。
〝あぁ…〟
この間な、お前の親に会ってきたんだよ、あのろくでなしにな?
んで、言ってやったよ、お前らのせいで俺らは出会う事になったんだ、責任を取れってな…そしたら…なんて…言ったと…思う…
〝あぁ…〟
娘なんていないってさ…
さっさと…元気になって…二人で殴りに行こう…
そして…娘と俺とお前の三人で楽しく暮らそう…
お願いだ…だから…返事を…してくれよ…
〝死が二人を分かつまで…今が…その時さ〟
最後は笑顔だったっけ、泣いてたっけ…
ぐじゃぐじゃになって全然最後のお前の顔を見てやれなかった、悪い。
お前が居なくなってからは退屈だった、でも、愛が何か、わかった気がする。
だからもうすぐそっちに行く、またいつもみたいに愛について話そうか。
いつか見た夢、娘と俺とお前の三人で幸せに暮らせる世界で出会えたらいいな。