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罪と罰  作者: 山本正純
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第八話 ミッシングリンク

 木原と神津が秋野進希の遺体が発見された現場で実況見分をしていた頃、大野警部補と須藤涼風警部は、東京クラウドホテルの前に立つ。

 二人がホテルの自動ドアから受付に向かい歩く。ホテルのフロントには大勢の報道関係者たちが集まっている。

 その光景に二人は何事かと驚くが、その謎はホテルのフロントで電話をしている女の声で解けた。

「田中ナズナ福岡県議会議員が、このホテルで開催される、新法案の決起集会に参加するのは間違いありません。そこで不倫の証拠を押さえます」

 その女の髪は足元まであろうかという程長い。前髪が中央に整えられていて、髪の色は黒。その後ろ髪を盛っている様はどこか、キャバ嬢のように見える。

彼女の腕には『カイトジャーナル』という文字が記された腕章。

 二人の刑事は、彼女の電話の声を聞き流しながら、受付で警察手帳を見せる。

「警視庁捜査一課の大野です」

「大分県警捜査一課の須藤です。田中ナズナ福岡県議会議員がこのホテルで開催されている集会に参加していると聞きました。その会場に案内してくださりませんか」

 受付の女性は突然の警察の訪問に一瞬戸惑い、マニュアル通りが言葉を口にする。

「どのようなご事情かは分かりかねますが、関係者以外入れるなという指示があります。たとえ警察官でもお通しできません。そのためマスコミ関係者の皆様はホテルのフロントで待機していただいています」

 この対応に大野が肩を落とす。一方の須藤涼風は、周囲に集まっているマスコミ関係者たちを見渡し、彼に声を掛ける。

「ホテルの駐車場で張り込みを続けた方が良いかもしれませんね」

 大野が須藤涼風の意見に同意すると、突然フロントで電話をしていたポニーテールの女が口を挟む。

「無駄ですよ。駐車場で張り込んだとしても、彼女には会えません」

 盛り髪が特徴的な女は刑事たちに歩み寄る。

「私はカイトジャーナルで記者をしている幸谷平子です。捜査一課という言葉と田中ナズナ福岡県議会議員という名前が聞こえたのですが、もしかして田中ナズナ福岡県議会議員が殺人事件の容疑者として浮上したのでしょうか」

 好奇心旺盛な記者の瞳に大野は頭を掻く。その後で須藤涼風が質問に答える。

「まだマスコミ発表されていないので、詳しい話はできません。ところで駐車場で張り込んでも無駄というのはどういうことなのでしょうか」

「田中ナズナ福岡県議会議員。このホテルに泊まっているんです。買い物は殆ど秘書に任せていて、明日ホテルをチェックアウトして、福岡県に戻るようです」

「因みにホテルの部屋までは特定されているのでしょうか」

「いいえ。それはホテル従業員の守秘義務で教えてもらえませんでした」

 二人の刑事は親切な記者に感謝しつつ、ホテルから去る。そして歩道を歩く大野は、隣を歩く須藤涼風の顔を見る。

「やはり正攻法では接触できません。今日東京クラウドホテルで開催されているのは、酒井忠義衆議院議員が主催する新法案の決起集会。ということは彼と仲の良い榊原刑事局長も参加しているはずです」


 大野の話を聞き、須藤涼風は考え込み足を止める。そして十秒後、何かを覚悟した彼女は携帯電話を取り出した。

「コネを利用します。警察庁の倉崎官房室長」

 須藤涼風の口から意外な名前を聞いた大野は驚く。

「警察庁の倉崎官房室長。僕は面識がありませんが、須藤警部は彼と面識があるのですか」

「この前事件で知り合ったんです。その時に電話番号を交換しました」

 須藤涼風が大野に説明しながら、倉崎官房室長の電話番号に電話する。

 その電話はワンコールで繋がった。

『倉崎和仁だが』

「お久しぶりです。大分県警捜査一課の須藤涼風です。警察庁にも噂が届いていると思いますが、広域同時多発殺人事件の捜査のため上京しました。それでは早速本題です。あなたのコネクションを使って、今日東京クラウドホテルに宿泊している、田中ナズナ福岡県議会議員が宿泊する部屋を特定していただけませんか」

『警察庁官房室長の権力を利用しようとしているな。娘の幼馴染が世話になっている。だから調べるよ』

「ありがとうございます」

 須藤涼風が電話を切ろうとした時、倉崎官房室長が意外な言葉を口にする。

『田中ナズナ福岡県議会議員と接触するのなら、気を付けた方が良いかもしれない。それでは電話を切る』

 電話を切った倉崎官房室長は、警察庁の官房室長室にいる。

 この部屋には現在三人の男女が集っている。

 白髪交じりの髪をオールバックにした倉崎官房室長。

 もう一人は白髪交じりの短い髪に黒いスーツを着た男。警視庁の八嶋祐樹公安部長。

 三人目は髪を腰の高さまで伸ばした女。彼女は浅野房栄公安調査庁長官。

 浅野房栄と八嶋祐樹が横に並んでソファーに座っている。一方の倉崎は二人の前に置かれたソファーに座りなおした。

「被害状況は」

 ソファーに座った倉崎が尋ねると、八嶋は報告書を机の上に置く。

「殉職者六名。重軽傷者十名。と言ったところです。一般人にまでは被害が及んでいません。まさかこのタイミングでラグエルがラジエルと接触するとは思いませんでした。あの部屋に仕掛けられた盗聴器は全て破壊されたため、改めて盗聴器を仕掛けなおす必要があると思われます。因みに西村桜子の所在は確認済みです。彼女は今も大野警部補の自宅マンションの中にいます」

 八嶋が簡潔に報告を済ませると、彼の隣にいた浅野房栄が挙手する。

「そんな必要はないと思うのよ。態々盗聴器を仕掛ける必要はない。だってラグエルがラジエルと接触したということは、そろそろ彼らが動き始めるということでしょう」

「だが理解できないな。なぜラグエルは彼女と接触したのか。盗聴器を破壊したということは、公安に聞かれたくない会話をしていたということだろう。テロ計画を伝えたというのが、一番可能性が高いが、どうしても腑に落ちない」

 倉崎官房室長が顎に手を置く。その後で浅野房栄公安調査庁長官は咳払いする。

「そろそろ本題に移ろうかしら。本日午前十一時頃、防衛省の機密データが記録されたコンピュータに何者かがハッキングしたのよ。おそらく某国の工作員の仕業よ」

「某国の工作員か。確か大物テロリストとも繋がりがある人物で、国籍及び性別、年齢全てが不明な奴だったな」

 倉崎官房室長が自分の席から立ち上がる。

「はい。その工作員が大物テロリストと近日中に接触すると言う情報を公安は得ていましたが、まさか先制攻撃で防衛省の機密データを盗まれるとは思いませんでしたよ」

 八嶋公安部長が腕を組む。それに対して浅野は足を組み直し、倉崎官房室長の顔を見る。

「多分そのデータで取引を行うつもりなのでしょうね。取引の相手が日本国政府か大物テロリストなのかは、分かりかねるけど」

「いずれにしろ某国の工作員を逮捕しなければ大変なことになるということだ」

 権力者たちはラグエルの接触について議論を重ねる。

 

 その頃警視庁捜査一課の一室で、合田たちは沖矢を含む四人の刑事たちと共に、九年前の人質籠城事件の調書を読んでいた。

 彼らの座っている椅子の前には机が置かれ、その上には電話機とノートパソコン。そして書類が置かれていた。

 その書類には、九年前の人質籠城事件で最後まで解放されなかった十人の顔写真が印刷されていた。

 彼らがデスクワークを進めていると、合田のノートパソコンに次々とメールが届く。

 合田は届いたメールに一つずつ目を通し、部下たちに報告する。

「千葉県警と神奈川県警からの報告によれば、あの三人を除外した七人の遺体が発見されたらしい。佐々木雄二と春野明の二人の遺体は東京湾に浮かんでいた。青田純子と有安直の遺体が横浜の海岸に打ち上げら、千葉県の大貫中央海水浴場では、高城真一と玉井光一の遺体が発見された。そして最後の一人、百田徳彦は、由比ヶ浜のテトラポットの上に打ち上がっていたのを、釣りにきた男が発見されたらしい」

 合田の報告を聞き、沖矢が右手を挙げる。

「ということは七人の被害者遺族が一連の事件に関与しているかもしれないのだよ」

 沖矢の意見に刑事たちが納得する。

「そうですね。次は七人の被害者遺族の所在を確認しましょうか」

 お河童頭の刑事が合田の顔色を伺いながら発言すると、彼の隣にいたスポーツ刈りの刑事が声を上げた。

「合田警部。もう一人いますよ。遺体が発見されていない人物が」

 合田たちが刑事の顔に視線を移す。

「どういうことだ」

 合田が尋ねると、刑事はノートパソコンを指さした。その画面には、当時豪華客船ファンタジア号に乗船していた乗客や従業員の名簿。

「記録によれば、豪華客船ファンタジア号の乗員乗客一千五百人。人質たちは随時ボードに緊急避難用の小舟に乗せられて解放。その後人質たちは海上保安庁に保護されたようです。しかしながら、あの十人以外にもう一人。生死不明な人物がいるんですよ。警備員の三好健太。彼だけが海上保安庁に保護されていないんです。気になりませんか」

「三好健太か。東京で殺された三好葛と同じ苗字だな」

 合田が呟くと、お河童頭の刑事が合田に資料を見せた。

「戸籍謄本によれば、三好健太は三好葛の兄のようです。一連の事件と関係あると思いますか」

「それは分からないが、一連の事件には、九年前の人質籠城事件が関わっていることは確実だ」

 合田が顎に手を置く。すると一人の刑事が手を挙げる。

「すみません。有安直さんですが、もしかしたら調べる手間が省けるかもしれませんよ。これは須藤警部に連絡してみないと確証はありませんが」

 その電話を須藤涼風が受けたのは、大野が運転する自動車の車内だった。

 電話の相手は現在警視庁でデスクワークをしている須藤涼風の部下。

『須藤警部。少しお聞きしたいことがあるのですが。有安虎太郎の母親は、有安直ではありませんか』

 有安虎太郎。その名前を聞き、須藤涼風が彼のことを思い出す。彼は高校生という身分でありながら、自分の周りで発生した殺人事件を解決している。

 須藤涼風の同級生である江角千穂が行った身辺調査によれば、彼の母親は九年前に死亡が確認されたらしい。彼の母親の名前は有安直。

「そうですよ。彼の母親は有安直です。探偵の友人が鳴滝本部長に送った身辺調査報告書には、そのように記されていました」

『そうですか。分かりました。実のところ、九年前の人質籠城事件で、有安虎太郎の母親も亡くなっているという事実が浮上しました。ということは有安虎太郎も容疑者の一人としてカウントした方が良いかもしれませんよ』

「ご忠告ありがとうございます。一応彼も容疑者の一人としてみます。しかし彼には探りを入れないでください。この殺人事件に興味を持たれてしまえば、大変なことになるでしょう。くれぐれも彼が関与していることを示す物的証拠が出るまでは、彼とは接触しないでください。このことは私から大分県警に連絡します」

 電話が切れる。それから須藤涼風は思いがけない容疑者に、唇を噛む。


 そして彼女は、この事実を鳴滝本部長に告げる。須藤涼風の意見は、すぐさま採用される。

『そうか。分かった。逮捕状が請求できるほどの物的証拠が揃うまでは有安虎太郎と接触しない。水面下で捜査を続けよう』

「ありがとうございます」

 須藤涼風が電話を切ったタイミングと同じく、大野が運転している自動車が、エリザベスマンションの駐車場に停車した。

 二人は自動車を降り、大野警部補が暮らす居室へと向かう。

 その部屋に辿り着いたのは、午後二時のことだった。

 須藤涼風がインターフォンを押すと、玄関のドアが開き、西村桜子が顔を出した。

 西村桜子の視線に大野の姿が映り、一瞬戸惑う。そんな彼女の脳裏に嫌な予感が横切り、予想外な行動に出る。

 突然西村桜子が大野の頬を引っ張った。この想定外な行動は、二人の刑事を驚かせる。

「えっと。ごめんなさい。間違いでした」

 西村桜子が彼の頬から手を離し、詫びる。

 それから彼女は首を傾げながら、言葉を

続ける。

「そちらの女性は誰ですか」

 西村桜子が尋ねると、須藤涼風が彼女に警察手帳を見せた。

「初めまして。大分県警捜査一課の須藤涼風です。詳しいお話は中でお聞きします」

 西村桜子は何のことか分からず、二人を居室へと招き入れる。

 リビングの椅子に座った西村桜子。付け卯を挟んで大野と須藤涼風が並んで座る。

 須藤涼風は早速机の上に、一枚の写真を置いた。その写真には西村桜子と瓜二つの人物が映っている。

「九年前。豪華客船ファンタジア号で人質籠城事件が発生したということは覚えていますか」

 須藤涼風の質問に西村桜子は首を横に振る。

「いいえ」

 西村桜子が簡潔に答える。その後で大野が写真の人物について説明した。

「この女性の名前は早見結。もしかしたらあなたが早見結本人ではないかと、警察は疑っています。あなたと初めて会った時にあなたは『記憶が戻るのなら仕方ない』と言っていましたね。その言葉が示すのは、あなたは二度記憶を失ったのではないかという疑惑。豪華客船ファンタジア号人質籠城事件に巻き込まれ、海に投げ出されたショックで一度記憶を失ったあなたは、僕と初めて会ったハロウィンの夜、もう一度記憶を失った。これが僕の見解なのですが、間違っていますか」

 大野の話を聞き、西村桜子は目を瞑る。

数時間前、ラグエルが彼女の前に姿を現した。あの時のラグエルの話は実態の掴めない雲のような物だった。だが大野の話を聞き、知らされた真実が彼女の脳で裏付けされていく。

 彼女の頭で一つの仮説が生まれ、西村桜子が目を開ける。

「可能性としては十分あり得そうだけど、思い出せません」

 西村桜子は思わず嘘を吐いてしまった。事件の全容までは思い出せないが、自分の正体までは思い出せた。

 ただし、具体的なことは何一つ思い出せない。

 そのことに西村桜子が悩んでいるが、須藤涼風はそれを気にせず、机の上に黒いボブヘアの双子の写真を見せる。

「この二人に見覚えがありませんか。名前は江口寿々菜さんと寿々白さんです」

「もしかしてこの二人は双子ですか」

 西村桜子が聞き返すと、須藤涼風が彼女の顔を見る。

「そうですよ。それでは質問に答えてください。この二人を知っているのか」

 双子と聞き、西村桜子はラグエルの話を思い出す。

あの時ラグエルは二人の写真を彼女に見せた。ラグエルは、早見結の友人を探している。

ラグエルの探している幼馴染は双子である。

 いくつもの事実がパズルのピースのように組み合わさり、一つの真実が西村桜子の脳に浮かぶ。

 西村桜子は真実を飲み込み淡々と答える。

「知りません」

 須藤涼風はこれ以上の尋問は無意味だと判断し、席から離れる。

「西村桜子さん。今日はありがとうございました。それと最後のもう一つお聞きします。なぜあの時あなたは大野警部補の頬を引っ張ったのか。この謎だけがどうしても分かりません」

 須藤涼風からの思いがけない質問に西村桜子は戸惑い、顔を赤くする。

「えっと。大野さんが知らない女の人といたから」

 その答えを聞き、須藤涼風が察する。この女は大野警部補のことが好きではないかと。

「なるほど。そうですか。それでは私たちは警視庁に戻ります」

 須藤涼風が頭を下げ、リビングから出て行く。その後を追い、大野警部補も玄関へと向かう。

 そうして一人になった西村桜子は、ため息を吐く。

「やっぱり彼を巻き込むわけにはいかない」

 

 大野警部補と須藤涼風がマンションの駐車場まで足を進めると、大野のスーツのポケットの中で携帯電話が振動した。

 大野がスーツから携帯電話を取り出すと、合田警部から電話がかかってきたことが分かった。

「もしもし」

 大野が携帯電話に耳を当てると、合田は早速彼に報告する。

『俺だ。先程海王島で発生した殺人事件の捜査を行っている木原たちから連絡があった。彼らの捜査によって、三好葛に殺意のある人物が浮上した。名前は幸谷平子。幸谷平子の娘、幸谷美夏と三好葛と女郎花仁太は、中学校の同級生。そして彼女の娘は豪華客船ファンタジア号で人質籠城事件が発生した日に、島にある崖から転落死した。その遺体の第一発見者は女郎花仁太と三好葛』

 幸谷平子という名前に大野は聞き覚えがあった。彼女は東京クラウドホテルで出会った雑誌記者。

「幸谷平子ですか。実は彼女とは、田中ナズナと接触するため向かった東京クラウドホテルで会いました。その九年前自殺した幸谷美夏との繋がりは分かりませんが、彼女には三好葛を殺害する動機があるということですね」

『ああ、そうだろう。幸谷平子と接触していたのなら、話を聞きやすいな。お前らは再び彼女と接触して、任意の事情聴取を申し込んでこい』

 電話が一方的に切れ、大野は隣を歩く須藤涼風に報告する。

「三好葛殺人事件の第一容疑者が特定されました。覚えていますよね。幸谷平子」

「覚えています。あの親切な記者さんが、容疑者ですか」

「はい。九年前。豪華客船ファンタジア号人質籠城事件と同日に、海王島で一人の女子中学生が投身自殺を図ったそうです。自殺したのは、彼女の娘。遺体の第一発見者は、女郎花仁太と三好葛」

 大野が報告を済ませた頃、二人は駐車場に到着する。それから二人は自動車に乗り込む。

 須藤涼風は隣でエンジンを掛ける大野の顔を見る。

「これで一連の事件の全体像がはっきりと見えてきましたね。東京で三好葛を殺害したのは、幸谷平子の可能性が高い。大分県で女郎花仁太を殺害したのは、藤袴由依か萩野武蔵のどちらか。容疑者が浮上すれば、事件解決は時間の問題と言いたいところですが、何か違和感を覚えます」

「違和感」

 大野が自動車を走らせながら聞き返すと、須藤涼風は額に手を置く。

「仮に幸谷平子が犯人だとしましょう。この場合三好葛を殺害した動機は九年前自殺した幸谷美夏に関する復讐というのが妥当ですね。萩の武蔵が女郎花仁太を殺害する動機として一番妥当なのは、五年前の通り魔事件に関する復讐。藤袴由依が女郎花仁太を殺害する動機は、交際の果てに生まれたトラブルとしましょうか。そして海王島で発生した殺人事件。その犯行動機は現在不明です」

「何が言いたいのですか」

 大野がハンドルを握りながら聞き返すと、須藤涼風は冷静に答える。

「異なる犯行動機を持つ犯人が、同一の犯行手口で同日同時刻に殺人を実行した。この事実が理解できないんです。即ち一連の殺人事件は、単純な物ではない」

 その頃、藤袴由依は自宅マンションの前に一台のタクシーを呼び出す。

彼女は大きなキャリーバッグをトランクに詰め、後部座席に乗り込んだ。

「熊本空港まで」

 藤袴由依が運転手に行き先を伝えると、タクシーは走り始めた。


「我が名は、ウナバラナナミ。九年前の復讐のため、六人を処刑する」


「これは殺人予告ですよね」


「それほどではない」


「合田警部。物的証拠が見つかりました」


「誰ですか。誰を殺すのですか!」


第九話 殺人予告サイト


六月七日。午前七時。投稿予定

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