第四話 接触
平成二十五年七月十四日。午前十一時。東京都内にある高層マンション。エリザベスマンションの前に黒塗りのワンボックスカーが停車している。
一方マンションの一室で一人の女がテレビを観ている。その女の髪型は茶髪の ショートカット。身長が低い彼女の名前は西村桜子。ある事情で警視庁の大野警部補と同居している女である。
大野警部補は早朝上司に呼び出されたらしく、机の上には彼の書置きが残されている。
職に就かす刑事の元に身を寄せている彼女がテレビを観ていると、突然インターフォンが鳴った。
その音を聞き西村桜子は玄関のドアを開けると、そこには見覚えのある男が立っていた。
短い黒髪に健康的な褐色の肌を持つ男。彼こそが大野達郎警部補だ。
「大野さん。結構速かったですね」
西村桜子が目の前に立つ大野警部補に声を掛けると、彼は玄関へ一歩を踏み出す。
「事件が速く片付いたから、早めに帰らせてもらったんです」
大野が玄関先で靴を脱ぎながら事情を説明する。その話を聞き西村桜子は納得する。
マンションの前に駐車した黒いワンボックスカーの中に丸坊主に強面な顔付きの男たちが座っている。
『お昼まだでしょう。今から作るから』
『少し早い気もしますが、いいでしょう』
ラジオから流れたのはリビングでの大野と西村桜子の会話。それを傍受している男は、携帯電話を取り出し、部下に連絡する。
「今すぐ大野警部補の所在を確認しろ」
たった一言を伝えた男は、車窓からマンションを睨み付ける。
一方その頃、マンションから三百ヤード離れた位置にある高層ビルの屋上に灰色のゴルフバッグを担いだ金髪スポーツ刈りの男が立った。
その男は携帯電話を取り出しながら、風向きを確認する。男が手にする携帯電話には一通のメールが届いている。
『見つけた。マンションに前に停まっている黒いワンボクッスカー』
男はメールに目を通し呟く。
「相変わらず貧相なメールしか打たないな。サマエル」
その男はジョニー・アンダーソン。テロ組織『退屈な天使たち』に所属するスナイパーである。
レミエルというコードネームで呼ばれている彼は、携帯電話に耳を当て仲間に電話する。
「ウリエルか。俺だ。標的はエリザベスマンションの前に停車している黒いワンボックスカーの中にいるらしい。そこなら俺がいる場所の狙撃圏内に入っているが、どうする。後は俺に任せて、お前は別の仕事をやったらどうだ」
『それは難しいと思いますよ。相手が何人いるのかも分からないから』
その女の声を聞き、レミエルが笑う。
「大丈夫。エンジン撃ってドカンで終わりだ」
『派手にやったら作戦に支障が生じますよ。ここは私に任せてください。あなたは足止めに徹してくださいよ』
「分かった」
レミエルが電話を切り、ゴルフバッグからH&KPSG1と呼ばれるライフルを取り出す。
そのライフルにスコープを取り付けた彼は前方をスコープで覗き込む。その先には、黒いワンボックスカーが映る。
その頃、黒いワンボックスカーの中にいる男の携帯電話に電話が入る。
『警部。大野警部補を警視庁内で確認しました』
「やっぱりな。分かった」
男が電話を切ると、ミラーにフルフェイスのヘルメットを被った女が映っているのが見えた。その女の近くにはバイクが無い。
女は通行が少ない道路上を歩き、黒いワンボックスカーに近づく。
その直後、傍受された大野と西村の会話が突然聞こえなくなる。その代りに流れたのはボイスチェンジャーで声を変えた不気味な男の声。
『ご苦労様ですね。こんな目立つところで張り込んだらダメじゃないですか。公安ってホントに無能だよね』
そしてフルフェイスの女はハンドガンを構え、後部座席の窓ガラスを撃ち抜く。
男は舌打ちし、自動車を走らせる。だが自動車のタイヤが遠くから撃たれた銃弾によって撃ち抜かれ、自動車がスリップしてしまう。
男たちは中央線を跨いで停止した自動車から脱出。リーダーと思われる強面の男は無線を取り出し、仲間たちに呼びかける。
「八嶋祐樹公安部長に伝えろ。遂に奴らがラジエル奪還のために動き始め……」
男の言葉が止まる。その直後、男の周りにいる数人の仲間の体に電撃が走る。
その男達の後ろにはフルフェイスの女。その女の手にはスタンガンが握られている。
その女、ウリエルは周囲を警戒しながら、路地裏に移動する。そして彼女はヘルメットを脱ぎ、薄汚い路地裏で素顔を晒す。 肩の高さまで伸ばした黒髪、その後ろ髪をポニーテールに結った低身長で貧乳な女。
ウリエルは路地裏に息を潜めながら、仲間に電話する。
「とりあえず正面で張り込んでいる公安を始末しました。本当は気絶させただけだけど。そっちはどう。サマエル」
『今盗聴データの送信システムにハッキングしたところだ。これで午前十一時からの盗聴データは公安に送信されない』
男の答えにウリエルは頬を緩める。
「そうですか。分かりました」
ウリエルは電話を切り、路地裏を歩き始める。
その頃西村桜子はリビングの台所で食事を作っている。一方の大野警部補は落ち着きもなく部屋中を歩き回っている。
その行動に西村桜子は違和感を覚える。彼女はリビングに戻った彼を問い詰める。
「どうしたんですか」
その質問を聞き大野警部補は無言で彼女に近づき、エプロン姿の彼女の唇に触れる。
「とりあえず盗聴器は全て破壊したので、そろそろ始めましょうかね」
その声は大野警部補の物ではない。ただ西村桜子にはその声に心当たりがあった。数か月前に夢で聞いた男の声と同じ。
大野警部補は彼女の目の前で頬を引っ張り、マスクを剥がす。すると、大野警部補とは似つかない前髪を七三分けにした優男が彼女の前に姿を現した。
「ラグエル」
西村桜子の驚いたように両手で口を覆う。その反応にラグエルは頬を緩める。
「その名前を憶えているということは、全てを思い出したということでしょうか」
ラグエルが尋ねると、西村桜子は首を横に振る。
「あなたの名前を思い出しただけ。あなたが何者で私は誰なのか。それを思い出すことができない。もしかしてあなたは今まで大野警部補に変装して私と暮らしていたのですか」
「いいえ。大野警部補に変装したのは、今回が初めてです。今まであなたが一緒に暮らしていたのは、本物の大野警部補。因みに本物の大野警部補は今頃殺人事件の捜査をしているはずです。彼には一切手を出していないので、悪しからず」
「それは良かった」
西村桜子が安堵すると、ラグエルはスマートフォンで時間を確認する。
「もうすぐ午前十一三十分ですね。そろそろあなたにお話しましょうか。なぜ僕がこのタイミングであなたの前に現れたのか。それを説明する前に、なぜ僕はあなたを必要としていたのか。それから説明しましょう」
平成十七年七月十八日のこと。その日、愛澤春樹は東京都内にある病院の病室の中にいた。
清潔感のある白い壁に覆われた空間に、ベッドが置かれている。そのベッドでは、黒いボブヘアの女が仰向けの状態で眠っている。
その女の顔を眺めながら、愛澤は丸い椅子に腰かける。すると間もなくして女が瞳を開ける。
彼女が目を覚ました瞬間、愛澤は椅子から立ち上がる。
「気が付きましたか」
見覚えのない男の声を聞き、女は目を丸くして尋ねた。
「誰ですか」
彼女が首を傾げると、愛澤は右手を差しのばす。
「初めまして。愛澤春樹です」
「ごめんなさい。あなたが誰なのかが分かりません。それどころか、私が誰なのかも思い出せない」
女が肩を落とし、暗い顔を見せる。その反応から愛澤は察する。先程医者が言っていたことは間違いないと。
「謝る必要はありません。なぜなら僕とあなたは初対面なのですから。それは嘘ではありません。だから安心してください」
「ということは、あなたは警察ですか」
女が再び尋ねると、愛澤は首を横に振る。
「いいえ。あなたの友人の友人ですよ。警察官ではありません。僕は、ある事件に巻き込まれて行方不明となった、あなたの友人を探しています。あなたはその事件に巻き込まれて、記憶を失ったんですよ」
愛澤の口から衝撃的な事実を聞いた女は、彼が言っていることが理解できない。
すると、愛澤は彼女に一枚の写真を見せる。
「僕が探しているのは彼女たち。彼女たちと僕は幼馴染なんです」
その写真には、黒髪のショートボブが特徴的な双子が映っている。だが彼女はその顔に見覚えがないのか、困惑してしまう。
「ごめんなさい。本当に何も思い出せません」
彼女が再び謝ると、愛澤は双子の写真を自分の懐に仕舞う。
「そうですか。その写真を見れば何か思い出すと思ったのですが。ということで、本題に入りましょうか。先程見せた僕の幼馴染の双子ちゃんは、死んでいるのかもしれません。生死不明なこの状況だからこそ、僕はあの事件の真実が知りたい。それこそが幼馴染の弔いになると思うから。そのためにはどうしても、生き証人が必要です。あの事件に巻き込まれてもなお、生きているあなたの証言。あなたがあの日何を見たのか。その事実から僕は真実に辿り着く。どうでしょうか。僕と一緒に友人の弔いをしませんか」
その言葉に偽りはないと、彼女は感じた。
あの双子の写真を見た瞬間、彼女の心に大きな穴が開いた。全ての記憶を失った彼女の心は空白である。その心に開いた穴。それが意味することは喪失感だろうと、彼女は感じた。
心に開けられた穴を埋めたい。そのためには記憶を失った理由を知らなければならない。女の脳に幾つもの思考が浮かぶ。
真っ白になった女は、どのような色にも染まる。漆黒の闇の色にも。鮮血の色にも。それは一種の洗脳である。
全てを覚悟した彼女は、愛澤の手を握る。
それによって彼女の心は、漆黒の闇に覆われてしまう。
それから彼女は病院を退院し、愛澤と行動を共にする。
彼女が最初に連れてこられたのは、樹海の中にある廃虚。二階建ての建物だった。
その空間は薄暗く、廊下が回廊になっている。
「この建物は元々福祉施設だったそうです。廊下は徘徊対策。出入り口が分かりにくいから、いつまでも同じところを歩き回ることができる。樹海の中にあるのも福祉施設の名残ですよ。昔の福祉施設は人目に付かない山の中に建設されることが多かったので」
愛澤が空間を見渡しながら、彼女に説明する。それから愛澤は、彼女に小さな手提げカバンを手渡す。
「それではルールを説明します。このカバンの中には、施設の地図と一丁のハンドガン。それと筆記用具とメモ用紙が入っています。それを使って、この施設を根城にしている不良たち五人を全員始末してください。球数は六発。失敗できるのは一回のみ。できますよね。あなたは……」
意味が分からないと彼女は思った。いきなり連れてこられた施設で殺し合いとは。私の友人の友人はどのような人物なのかと、彼女は疑う。
彼女は試しに手提げ袋に入れられた拳銃を握る。その瞬間、彼女の脳裏に薄らとした記憶が蘇る。拳銃を握った感触は初めてではない。
「面白い。発砲許可が下りているのなら、十分で始末する」
彼女の顔付きが戸惑った表情から、真面目な表情へと変わる。その豹変に愛澤が頬を緩ませる。
「見つかったのが君で良かった。それではお手並みを拝見します」
女は愛澤の声を聞き、人差し指を立てる。そして彼女は鞄からメモ用紙とボールペンを取り出し、何かを書き始める。
十数秒の沈黙が流れ、彼女は愛澤に紙とペンを渡す。
『標的の部屋はどこ』
このように記されたメモを読み、愛澤が紙に文字を記す。
『二階の二○六号室』
愛澤が入手した情報を伝えると、彼女は地図を読む。
そして彼女は、音を立てずに二階へと進む。
それから数分後、女はドアをキックで破り、二階の部屋の中に侵入する。だがその部屋には誰もいない。
四畳ほどの広さに、病院らしい白い壁に置覆われた空間。部屋にあるのは、木製の名が机のみ。彼女はその部屋の天井を見上げる。
そこには通気口がある。彼女は通気口の真下に机を置き、それによじ登る。
その後、女は通気口を壊す。後は机を踏み台にして通気口によじ登るだけ。
通気口の中は狭いため、這わなければ移動できない。埃で汚れた狭い道を直進すること三十秒、彼女は立ち止まる。その彼女の真下には通気口。
彼女は足で、それを壊し、真下にある部屋の中へと落ちる。拳銃を構えながら。
彼女が落ちた部屋には五人の丸坊主の男達。
男達は突然の襲撃に驚きつつ、咄嗟に拳銃を構える。
だが彼らは発砲することがなかった。なぜなら、彼女が通気口から落ちながら、正確に標的の脳幹を撃ち抜いたのだから。
一秒ほどで決着が付くと、愛澤が拍手をしながら、彼女がいる部屋に入ってくる。
「素晴らしいですね。まさか記憶を失っていても同じ芸当ができるとは。やはり手続き記憶は覚えているようですね。遺体処理はこちらで何とかします。ということでこの場から立ち去りましょうか。黒崎美穂子さん」
愛澤の言葉に彼女は首を傾げる。
「黒崎美穂子」
「失礼。あなたの偽名です。生き証人を消したいと考えている人物も空くなからずいるから、これからは偽名で呼びます」
愛澤春樹が床に転がっている射殺体を見下ろしながら、部屋から立ち去る。その後に続き黒崎美穂子も現場から去った。
こうして組織に射撃の実力を評価された彼女はラジエルというコードネームを与えられ、多くの人物を射殺してきた。
ラグエルの口から語られる驚愕の真実を聞き、彼女は茫然とするしかできなかった。
「これが真実です。本当はこのような話をしたくなかったのですが、緊急事態が発生したので、仕方なく話しました。信じますか」
「その真実を正しいと思う。だけどあなたの意図が分からない」
「僕と協力してあの人の暴走を止めてください。僕はあなたというカードが欲しいんです」
「だったらどうして私を保護しなかったんですか」
「大野警部補という刑事を信用したから。彼。いいえ。彼が所属する捜査一課三係なら彼女を救うことができる。警視庁に須田哲夫として潜入した時に感じたから。あの状況なら一度カードを警視庁に渡した方が都合がよいと思ったんです。あのままあなたを暗部の住人として暮らさせれば、いつかあなたは殺されてしまう。だから僕はあの日あなたを殺した。ヘリコプターと爆弾という九年前の事件を象徴するような小道具を使い、あなたを行動不能にし、逮捕されるよう仕向けたんです」
「あの時私が死んだらどうするつもりだったんですか」
西村桜子が疑問を口にすると、ラグエルは指を拳銃の形にして、西村桜子の頭に突きつける。
「あなたは死なない。あの現場に張り込ませたウリエルが拳銃であなたを狙っていたから。ウリエルは、銃弾の動きを瞬時に見抜く程の動体視力があります。その能力を使い、一瞬で銃弾の動きを予測。その銃弾の動きが当たれば即死な位置な場所になったら、ウリエルが手にしている拳銃を発砲して、ラジエルの銃弾を弾く。そして最後に、急所を外した位置にウリエルが銃弾を撃ち抜けば、結末を修正することができる。後は大野警部補の対応に任せたということです。でもウリエルが結末を修正しなくても良かったから、プランBは使えませんでした」
「それでラグエルの企て通り、私は大野警部補に保護された」
西村桜子が呟くと、ラグエルは首を縦に振る。
「その通りです。それでは答えを聞きましょうか。僕と一緒にあの人を救うのか。ここに残って結末を見守るのか。どちらを選びますか。タイムリミットは十ニ時間後の午前零時。その時間帯にあなたが、東京クラウドホテルの駐車場に来たら前者が答えと解釈します。来なかったら後者と解釈します。因みにどちらを選んだとしても、僕はあなたをテロ組織のメンバーとして再び招き入れるつもりはありません。それでは答えを楽しみにしています」
正午の鐘の音と共に、ラグエルはスーツのポケットから変装マスクを取り出し、自分の顔に変装を施す。
そして顔を変えたラグエルは笑顔を見せ、堂々と玄関から西村桜子の元から去った。
同時刻。何も知らない大野警部補は、捜査一課の一室に設置されたホワイトボードの前に立つ鑑識課の北条から話を聞いていた。
ホワイトボードの前には彼だけではなく、合田警部や沖矢の姿もある。
「江戸川区で殺害された三好葛ですが、彼が殺害された現場近くの防犯カメラに、不審な動きをする人物が映っていることが分かりました。午後十一時五十九分に、黒い帽子を深く被った人物が犯行現場に向かい、歩いています。残念ながら顔までは画像が荒く特定できませんでした。殺害の瞬間は防犯カメラに映っていません」
北条からの報告を聞き、合田警部が尋ねる。
「犯人の顔は顔認証システムで分からなかったのか」
「残念ながら犯人と思われる人物の顔は隠れているので、判別不能でした」
それから大野が右手を挙げる。
「合田警部。現場周辺の聞き込みの結果、現場周辺を大男がうろついていたという目撃証言が多数見つかりました。おそらくそのお男が犯人なのでしょう」
大野の報告を聞き合田が首を縦に振る。
「そうだな。大野と沖矢は現場周辺で聞き込みを続けろ。ただし午後一時には戻ってこい。前にも話したが、大分県でも同様の事件が発生したので、この事件は大分県警との合同捜査になる。県警の刑事にはキャリア警部がいるらしい。大野にはその若手キャリア警部と組んでもらうからな」
合田の発言を聞き、大野は目を丸くする。
「キャリア刑事は普通合田警部のような係長クラスの刑事が組むのが普通なのではありませんか」
「これは千間刑事部長からの命令だ。一つ年下のキャリア警部で、性別は女。その上可愛らしい美貌の持ち主らしい。だからと言って捜査中に嫌らしいことをやれば、クビにするからという伝言も千間刑事部長から受けている。それと警察は階級社会だからな。年下だからってタメグチで話な。分かったか」
「僕がタメグチで話したところを聞いたことはありますか」
大野が逆に合田に尋ねると、合田は頭を掻く。
「そうか。年下にはタメグチで話すようなイメージだったが、間違いだったか」
「当たり前ですよ」
大野が怒りを示した頃、白い客船が東京湾を進む。その船の甲板には、木原巡査部長と神津巡査部長の姿がある。
二人は千間刑事部長からの命令で第三の事件現場である海王島に向かっている。
その船の上で海風を浴びながら、神津が呟く。
「まさか三時間も船に乗ることになるとはな」
神津が呆れるようにどこまでも続く海を見つめると、木原が神津の顔を見つめる。
「事件現場のある海王島への船は一日二便しかないんです。船のチケットが取れなかったら午後九時発の船に乗ることになったことでしょう」
木原が神津に言い聞かせると、黒いサングラスを見につけた丸坊主の大男が甲板にやってきて、電話を掛けた。
「俺だ。今海王島に向かっている。大丈夫だ。ちゃんと遺言状は保管してある」
その男は一言電話で伝えると、再び船の中へ戻る。この男の電話に木原は不審に思い、彼に後を追うが時既に遅し。男は船の中に消えた。
海王島へ向かう船は残り一時間程で海王島に到着する。
「警察庁からの圧力」
「これは荒療治です。覚悟はできていますか」
「うん。ありがとうね。春くん」
「お前はあいつを救いたいんだろう」
「ということは、この三人が一連の事件に関与している可能性が高いということですね」
次回 第五話 記憶の彼方
五月十日。投稿予定。