第十一話 復讐殺人
午後五時。警視庁の捜査一課の一室に北条がノートパソコンを手に訪れる。
現在捜査一課では容疑者たちの写真が貼られたホワイトボードの前で唸っている。
「合田警部。幸谷平子のノートパソコンの解析が終わりました。彼女のメールを復元した所面白い物が発見されましたよ」
北条は合田に一枚の紙を手渡す。
『三好葛と女郎花仁太に、宝石店強盗事件の依頼を申し込んだ。これで二人は私たちの操り人形になる。残りは海王島の秋野進希。彼の殺害は実行犯に任せれば良い。七月十四日午前零時。同時刻に三人を処刑しましょう。ウナバラナナミ』
紙に印刷された文面はメールを印刷した物。
「殺人を唆す文面だな。ウナバラナナミと名乗る人物が主犯ということか」
「おそらく、幸谷平子はウナバラナナミと名乗る人物が立ち上げたインターネットサイト上でチャットをしていたようです。チャットの参加者は、ウナバラナナミ、コウコ、PGというユーザーネームの三人。幸谷平子はコウコというユーザーネームでログインしています。この三人はチャット上で犯行計画を話し合っていました」
「それでそのチャットには、最後の標的に関する記述はなかったのか」
「残念ながら、そのような記述はありません。チャットに記載されているのは、午前零時に殺害された三人に関する記述だけ。このサイトの管理人のサーバーは殺人予告サイト同様海外のサーバーを経由しているため、特定には時間がかかります」
「そうか。チャットで最後の標的が特定できるほど簡単ではないということだな」
合田が肩を落とす。それから一秒の間が空き北条が続けて報告を続ける。
「先程大分県警から問い合わせがありました。萩野武蔵殺害の一部始終を撮影した映像を解析した所、犯人が左手に懐中時計を持っていたことが分かったんです。その懐中時計は幸谷平子の自宅から押収した物と同一の物。ということは、犯人は同じ懐中時計を所持している可能性が高いということになります。幸谷平子の自宅から発見された懐中時計は、蛍光塗料が塗られているから、暗闇で光る。即ち暗闇の中で殺害された秋野進希殺害時にも犯人が所持していた可能性もあります。最後に殺害された萩野武蔵に遺留品の中に面白い物が隠されていました」
「面白い物」
合田が復唱し、大分県警から送られたメールを印刷した紙を彼に渡す。
「工藤瀬里香と一人の少年が一緒に映っている写真です。その少年の顔と三好健太の顔写真を照合した結果、一致しました」
北条が合田に鑑定結果を伝えていた頃、鑑識課を沖矢が訪れる。沖矢は合田の姿を見かけると、報告書を彼に渡した。
「海王島で殺害された箱辺小次郎の経歴が分かったよ。彼は九年前の豪華客船ファンタジア号人質籠城事件は不可抗力だから、責任を負う必要はないとして人質たちに一切の責任量を支払わなかった」
「なるほど。それが犯行動機かもしれないな」
合田は沖矢から知らされた事実をメールに打ち込む。
大分県警の鑑識課の一室で一人の女が電話を掛けていた。肩まで伸びた長い髪をピンク色のシュシュで結い、ポニーテールにした女。
彼女の名前は吉永マミ。大分県警鑑識課の巡査部長である。
吉永マミはノートパソコンの前で足を組みながら、電話の相手である藤井京助に鑑定の結果を伝えた。
「萩野武蔵殺害の映像を解析した所、分かったことは、犯人は左手に懐中時計を持っていること。その懐中時計は、東京で逮捕された容疑者の自宅から押収された物と同じそうよ。次に映像から導き出した犯人の身長は160センチ。プラスマイナス5センチっていう所かな。最後に犯人のカウントダウン。ボイスチェンジャーで声を変えていたみたいだけど、本来の声に復元することに成功したから。これで声紋鑑定ができるよ」
『そうか。ありがとう。吉永さん』
移動する車内の中で藤井京助が電話を切ると、後部座席に座っていたテレサが電話を受けていた。
「そう。ありがとう。すぐに送ってね」
テレサが電話の相手に感謝の意を示し、電話を切る。
「三浦刑事。夕顔テレビと交渉して、萩野武蔵の履歴書をメールで送ってもらうことになったから。これで彼の経歴が分かるよ」
萩野武蔵の殺害現場から覆面パトカーで戻るまでの車内で、テレサはノートパソコンを起ち上げる。
すると彼女のメールソフトに、夕顔テレビからのメールが届いた。
そのメールに添付された萩野武蔵の履歴書に記された事実を読み、彼女は頬を緩ませる。
「なるほど。思わぬ接点が出てきたね」
「どういうことだ」
助手席に座っていた藤井京助が尋ねると、テレサが説明を始める。
「萩野武蔵は、豪華客船の船長をやっていたってこの前話したよね。その豪華客船が九年前人質籠城事件で爆破され沈没したフフェンタジア号だった。彼は九年前、株式会社ウォーターコロニーを退社しているの。これで繋がったよね。九年前豪華客船ファンタジア号人質籠城事件絡みの復讐」
「だが分からない。秋野進希と萩野武蔵は九年前の人質籠城事件絡みの復讐で、三好葛と女郎花仁太は籠城事件同日に発生した投身自殺絡みの復讐。いずれの復讐も逆恨みの可能性があるが、箱辺小次郎はどうなんだ」
三浦が運転しながらテレサに尋ねる。
「そう。箱辺小次郎殺害に関する犯行動機は分からない。だから彼について調べた方がいいかもしれないね」
藤井京助の携帯電話が鳴り響く。藤井京助は電話に出るため携帯電話を耳に当てる。
「藤井京助だが。何か分かったのか」
『萩野武蔵殺害直後、藤袴由依の自宅を訪問した所、留守でした。現在も彼女は帰っていません』
「そうか。分かった」
藤井京助が電話を切り、内容をテレサに伝える。
「藤袴由依の所在も不明らしい」
「そう。これで工藤瀬里香と藤袴由依のどちらかが、最後の標的を殺害するために移動しえているという可能性も浮上したということだね」
それから一分後、今度は三浦の携帯電話にメールが届く。運転中の三浦はポケットから携帯電話を取り出すと、それを助手席に座る藤井京助に渡した。
「メールを読んでください」
藤井京助は三浦に促され、メールを読む。その文面は、テレサの疑問を解決させるものだった。
「テレサ。喜べ。箱辺小次郎殺害の犯行動機が分かった。箱辺小次郎と九年前の人質籠城事件には繋がりがあったんだ」
藤井京助の説明を聞き、テレサの頬が自然と緩む。
「なるほど。これで一連の事件の犯行動機は分かった。残りは現場に残された宝石の謎。あれには犯人からのメッセージが隠されているはずなんだけど」
その時テレサの携帯電話に電話が掛かってくる。
「ハロー」
『テレサちゃん。萩野が殺されたって聞いたけど本当かい? 』
「そう。今県警の刑事と一緒に事件の捜査をしている所」
『脚本はしっかりと書いているんだよね。テレサちゃんの脚本は数字が取れるからね。他よりにしているよ』
電話から漏れてきた『テレサちゃん』という呼ぶ男の声を聞き、藤井京助は握り拳を作り、怒りを抑える。
テレサが電話を切り、藤井京助がゆっくりと作り笑いする。
「テレサ。今の電話の相手は誰だ」
「夕顔テレビの名物ディレクター。私の脚本は数字が取れるからって私のことを『テレサちゃん』って馴れ馴れしく呼ぶ……」
テレサは何かを言いかける。そして彼女は突然車内でノートパソコンを起ち上げ、何かを検索し始めた。
「やっぱり。暗号の答えは数字。なんでこんな簡単な暗号に気が付かなかったんだろう。でもダイイングメッセージは……」
テレサは検索結果のページを見つめ、再びキーボードを打つ。そしてあるサイトに辿り着くと、彼女は頬を緩める。
「なるほど。かなり分かりやすいメッセージだけど、楽しかったから許す」
その頃海王島署の鑑識課の一室で、木原と神津は、鑑識課の軽部から説明を受けていた。
「秋野進希氏殺害現場に付着していたのは、RH+のAB型の物でした。被害者の血液型はB型。そしてあの館でAB型の人間は、秋野撫子と秋野桔梗のみ。館の庭に落ちていた石に付着していたのも同じくRH+のAB型」
軽部の説明を聞き木原が肩を落とす。
「あの二人は一卵性双生児でしたね。血液型も同じであれば、DNA型も同じ。犯人特定の物証は指紋しかありません」
「だがこれで分かっただろう。秋野進希を殺害したのは、秋野撫子か秋野桔梗のどちらかだってことだ」
神津が木原の肩を持つ。すると木原の携帯電話がメールを受信した。
木原は携帯電話を取り出しメールを確認する。
『工藤瀬里香と三好健太が一緒に映っている写真が発見された』
合田からのメールには二人の写真が添付されている。木原はその写真を見て、あることを思い出す。その写真の背景に映るのは、見覚えのある景色。
「神津。この背景に心当たりがありませんか」
木原は神津に携帯電話に映し出された写真を見せる。
「海王島の海岸の景色に見えるな。こういうことは地元の刑事に聞いた方が良い」
神津はそう言い、携帯電話を軽部に見せる。
「この写真の背景に映るのは、この島の海岸ではないか」
軽部は写真を凝視し、首を縦に振る。
「そうですな。この写真に映るのは、間違いなくこの島の海岸でしょう。一応この写真の背景と島の海岸の写真を照合してみますよ」
「ありがとうございます」
木原が礼を言うと、二人は鑑識課の部屋を後にし、所轄署の廊下を歩き始める。
「秋野進希を殺害したのは、あの二人のどちらか。凶器は海の底。硝煙反応は既に消されている。現場に残された血痕では犯人を特定できない。どうする」
神津が頭を掻きながら木原に尋ねる。その問いを聞き、木原が突然立ち止まった。
「犯人を自白に追い込む。それしか方法はありません」
三浦が運転する自動車は、旅館に向かい走っている。後数キロ走れば、旅館に到着する。
そんな状況にある自動車の助手席に座る藤井京助の携帯電話に電話が掛かってきたのは、午後五時二十分の頃だった。
電話の相手は吉永マミ。
『私よ。Nシステムを調べてみたら、面白いことが分かったよ。工藤瀬里香も女郎花仁太殺害現場のある竹田市に昨晩行っていた。即ち工藤瀬里香も彼を殺害することができる。Nシステムによると、彼女が昨晩高速道路の竹田インターを通過したのは、昨晩の午後十一時頃。そこから降りて犯行現場に向かえば、彼女にも十分な犯行は可能。私は引き続き防犯カメラの映像を解析して、工藤瀬里香の昨晩の足取りを特定するから』
その時覆面パトカーの無線に連絡が入る。
『大分県警から各局。Nシステムによって工藤瀬里香が運転する自動車を特定した。工藤瀬里香容疑者は現在大分市方面を逃走中。至急確保されたし。繰り返す……』
「大分市方面」
テレサが無線を聞きながら一言呟き、自動車を運転する三浦が尋ねる。
「俺たちも大分市方面に向かうか」
「いいえ。犯人グループのリーダーは秩序型の人間。だから裏を読んで、彼女の自動車は追わない方がいいよ。このまま旅館に戻って。犯人が向かうとしたら、あの場所」
午後五時五十分。海王島にある秋野進希の館のリビングに、秋野母子と秋野撫子、秋野桔梗の三人が呼び出された。
三人を呼び出したのは、警視庁捜査一課の刑事、木原と神津。
そして部屋の中には三人以外にも、多くの警察官たちが集まる。
「何ですか。事件関係者たちを集めて。主人を殺した犯人が分かったのですか? 」
秋野母子が啖呵を切ると、木原は首を縦に振る。
「そうです。この館の主人。秋野進希を殺害した犯人は、あなた方三人の中にいます」
「誰が犯人だっていうのよ」
秋野桔梗が急かすように尋ねると、神津が一歩を踏み出した。
「犯人による殺害方法は、至ってシンプルな物。まず秋野進希氏の寝室に忍び込んだ犯人は、ある仕掛けを使い、彼に的を付けた。後はその的を狙い、彼を撃ち殺し凶器を海の外へ捨てるだけ。だが犯人は幾つかのミスを犯した。その一つが、殺害現場に残された血痕」
神津の推理に続くように、木原が言葉を続ける。
「殺害直前か直後か。それは分かりかねますが、犯人は慌てて現場で転んでしまったのです。その時に犯人の血痕が現場に残されてしまった。それこそが犯人のミスだったんです。そのミスに気が付いたのは、遺体発見直前までの数時間。殺害現場に戻って血痕を消そうにも、殺害現場に出入りした所を警備員たちに目撃されてしまうのではないかと思うとできなかった。そこで犯人は、彼女に捜査を攪乱するための偽装工作を申し込むんです。秋野撫子に自分と同じような怪我をさせ、容疑者を増やすことに」
木原の推理を聞き、秋野母子が娘の顔を見る。
「そう。秋野進希を殺害した犯人は秋野桔梗。あなただ」
神津が犯人の名前を呼ぶ。その直後秋野桔梗の顔が徐々に青くなっていく。
顔面蒼白な秋野桔梗の前にして、秋野撫子が反論する。
「待って。桔梗お姉様がお父様を殺害したという明確な証拠はあるのですか? 」
「証拠は現場に残された宝石箱ですよ。あれから秋野桔梗さんの指紋が検出されたんです」
「そんなの嘘ですよ。ガーネットとターコイズが入った宝石箱からお姉様の指紋が検出されるはずが……」
刑事たちの視線が秋野撫子の元へ集まる。
「秋野撫子。なぜあなたは犯行現場から発見された宝石が、ガーネットとターコイズだと分かったのですか? 」
「私は遺体の第一発見者。だからその時に宝石箱に触ったんですよ」
秋野撫子は慌てて弁明する。だが刑事たちはその説明に納得しない。
「なるほど。態々指紋が付かないように、手袋を付けて触ったと言いたいのですか。残念ながら、あの宝石箱から指紋が検出されたというのは嘘です。あの宝石箱からは誰の指紋も検出されませんでした。しかしあなたは現場から発見された宝石は、ガーネットとターコイズということを知っている。そのことが意味することは、あなたが犯人ということですよ」
木原の推理を聞いた、秋野撫子は体の力が抜けたのか、ソファーに体を落とす。
「ごめんなさい。桔梗お姉様。態々私のために右膝を怪我してもらったのに、こんな結果になってしまって。刑事さん。私がお父様を殺しました」
実の娘の自白に秋野母子が驚く。
「どうして。まさか猥褻な行為をされたことが許せなかったから」
母子が撫子に尋ねる。すると撫子は静かに瞳を閉じた。
「これは俺の想像だが、九年前投身自殺を図った幸谷美夏は、秋野進希に強姦されたのではないのか」
神津の推理に撫子は小さく縦に頷き、瞳を開け、自供する。
「そう。お父様は私だけじゃなくて、幸谷美夏とも体の関係を持とうとした。それが許せなかったのよ」
平成十七年七月八日。早朝。一人の少女が秋野撫子の部屋のドアをノックした。
黒い髪を肩の高さまで伸ばした、二重瞼の低身長な少女。
その少女が部屋のドアを開ける。撫子は欠伸をしながら、彼女を向かい入れる。
「美夏。どうしたの」
その少女。幸谷美夏は、秋野撫子の顔を見ると大粒の涙を流しながら、彼女に抱き着く。
「どうしよう。私。あなたのお父さんに手を出された。写真も撮られてまたやろうって」
友人の言葉を聞き、秋野撫子の脳裏のあの日の光景が蘇る。睡眠薬を飲まされ、猥褻な行為をされる。挙句の果てには、その様子を写真まで撮影された。それと同じことを親友にもされたと言うのなら、撫子は父親の行為を許すことができなかった。
だが無垢な少女は父親に抗うことはできない。少女の告白から一週間。幸谷美夏は毎晩秋野進希の相手をさせられた。
悪夢の夜が終焉を迎えたのは、秋野進希が豪華客船で開催されるパーティーに参加した時だった。その夜、幸谷美夏が投身自殺を図る。
彼女の自殺からこれまで。秋野撫子は父親に対する殺意を押し殺して生きていた。
豪華客船ファンタジア号で発生した人質籠城事件が、きっかけにして株式会社ウォーターコロニーの業績は減少した。それこそが父親に与えられた罰だと彼女は信じていた。
しかしそれが間違いであることに、彼女は気が付く。それは平成二十五年の六月のころだった。
彼女が館の廊下を歩いていると、秋野進希の寝室から声が漏れてきた。その父親の言葉を聞き、彼女の殺意は爆発する。
「次はどのおもちゃにしようかな。やっぱり若い女は最高だから、今度新しく入ったメイド辺りで遊ぼうか」
親友が自分に泣きついてきたにも関わらず、秋野撫子は何もできなかった。
実の父親は女を自分のおもちゃのようにしか見ない。
秋野進希が幸谷美夏を自殺に追い込んだ。その心理が秋野撫子を捉える。
そして気が付いたら、彼女はSNSに書き込んでいた。
『やっぱり父親を殺したい』
その書き込みに返信があったのは、それから一分後のことだった。
『そんなに殺したいですか。それならば私の殺人計画で殺してみませんか』
ウナバラナナミと名乗る聞きなれないユーザーネームの書き込みにはURlが貼られている。
秋野撫子は嘘くさいと思いながらも、URlからサイトにアクセスする。
そのサイトで彼女が見たのは、秋野進希を含む三人の殺人計画を議論するチャット。
三人の標的には、同級生だった女郎花仁太や三好葛も含まれていたが、撫子はそのことが気にならなかった。
親友を自殺に追い込んだ父親を殺害するため。彼女はPGというユーザーネームでサイトに登録し、計画の議論に参加する。
その頃警視庁の取調室に合田警部が座った。彼の前には幸谷平子が座っている。
「幸谷美夏が秋野進希に猥褻な行為をされたというのは事実だな」
合田の問いに幸谷美夏は、机を叩く。
「そうよ。秋野進希は私の娘と一晩大人の遊びをして、私を脅迫した。付き合わなければ娘の恥ずかしい写真をばら撒くって。あの男は、自分の遊びで娘を追い詰め、自殺に追い込んだ。それだけじゃない。三好葛と女郎花仁太は、友人として彼女を救わなかった。特に三好葛と美夏は交際していたのに、全く力にならなかった。だから私は、ウナバラナナミの殺人計画に参加した」
幸谷平子が怒りながら供述する。彼女の怒りの声を聞き、合田は幸谷の怒りに満ちた目を見つめた。
「あの三人を恨んでいるのは分かった。だがあの三人を殺して、幸谷美夏は喜ぶと思うか」
「正論ですね。確かに三好葛と女郎花仁太は、娘の自殺から数年後に、通り魔事件で裁かれたけど、それだけでは満足できなかった」
幸谷平子は供述しながら、静かに涙を流す。
「五秒前。四。三。二。一」
「テレサと二人きりで話したいんだろう。俺はパトカーに乗る」
「やっぱり本物にはなれないということよ」
「危険な道を進もうとする人間を助けたいということですか」
「もちろんですよ」
第十二話 本物
六月二十八日午前七時投稿予定。