屋上にて。
屋上に繋がるドアはいつも壊れている。
みんな自由に入れるハズだが、「怖い不良が居座っていて殴られる」という変な噂によって人の気配は常にない。
僕、高島時人は購買で手に入れたパンを持ってその屋上へと来た。
太陽は真上に登っていて秋の風が少々冷たく、寂しい。
屋上の更に上へ繋がる梯子を登ると「不良」と呼ばれている高梨春人がいた。
「ハルトさんこんにちは!」
スマートフォンから顔を上げ「時人じゃん」といった。
「今日はカナちゃん来てないの?」
「ああ…来るかもしれない、校舎離れてるからお前よりつくのが遅いんだろ。」
僕の高校は一年生と二三年生で分かれている。
カナちゃんもよく毎日ここまで来るものだ。
「良かったらお昼一緒に食べたいなって」
「何だ?いつも食べる友達が休んだのか?」
遠回しにぼっちと言って来るのはやめてほしい。
まぁ、そうゆうことにしよう。
「そんなところだね…たまには外の空気にあたってご飯も食べたいし!」
「ご飯じゃなくてパンだろ、メロンパン。」
いちいち要らないところを突っ込まないでほしい。
ハルトが弁当を開けると手作り愛妻弁当…ではなく愛弟弁当臭の漂う中身がでてきた。
赤いふりかけで丁寧に「コロス」とかいてある。
「超美味そう。」
ハルトは気にしてないようだ。
日常茶飯事なのだろうか。
ハルトは一口ご飯を含むとこっちを見て口を開いた。
「で、話したい事があるんだろ?」
秋風が僕のパーカーを通り抜ける。
ハルトには何でもお見通しという訳か。
「…ハルトさん、付き合うってなんでしょうね。」
恋愛なら女の子に相談した方がいいのかもしれない、でもきっと僕はこの人に聞くべきだと思ったんだ。
「めんどくさい質問だな。」
「すみません、突然…」
ハルトは顎に手をつき、少し考えてから僕の目を見た。
「相手を恋愛対象としているのをハッキリと意思表示すること…なんじゃないか?」
「意思表示…どうにも僕にはまだ、その意思表示をする勇気がでないんです。」
勇気じゃない、きっと僕は恋愛や人を愛することに怯えているんだ。
メロンパンを食べ終え、町の景色を見る。
さすが屋上、町の奥の奥まで見える。
「無理にしなくていいんじゃないか。」
ハルトは軽い口調で言って見せる。
手を合わせ「ごちそうさま」と言うと弁当を片付けはじめた。
「無理にしない…そしたら僕は何年かかるのかたかが知れない。」
彼女にその分心の奥底で辛い思いをさせてしまう。
笑っていても満足はしていないはずなんだ。
「何年でもかかって良いだろ、アイツならきっと何年でも待ってくれるよ。お前のこと大好きなんだから…さ!」
ハルトは肩に拳をいれてニッと笑った。
全身に振動が伝わる。
気持ちがなんだか軽くなる。
「後はお前がアイツを信じれるかどうかなんじゃねぇの?」
「僕が…」
僕が、雪ちゃんを。
口を開こうとしたところ、ガチャッ、と下の方でドアが開く音がした。
「カナ、来たっぽい。」
「梯子登ってる音きこえますね。」
「ハ〜〜〜〜〜ルトさん!!!!」
カナが勢い良く上がって来ると僕に飛びかかって来た。
ハルトじゃないと確認するとえっ、と言う顔になった。
「うわ時人じゃん」
「うわって…」
カナはめげずにハルトへと飛びかかろうとしたがハルトは華麗にかわしてみせた。
そしてイチャイチャとしはじめる。
「お邪魔そうだから僕はこの辺でお暇しようかな!」
立ち上がり梯子へと足をかける。
見上げるとハルトがこっちを見ていた。
「時人、焦ることはないよ。」
「うん、ありがとう、ハルト。」
この人に相談して良かった、そう思えたのだった。
「…雪ちゃんに会いたい。」
そんな気持ちがこみ上げ、僕はいつのまにか電話をかけていた。
「あ、もしもし…?」




