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海童がいる海

作者: 戸荻 春樹

 いつの頃だろう……。あの海から、子供の声が聞こえなくなったのは、

「おーい。 久しぶりだな…… すまんな。 待たせたようだ。」

「ああ。 いや、今来たばかりだよ。」

そんなことを、考えていると待ち人がきたようだ。若い頃にはなかった皺を目尻に刻んで笑いかけてくる友人にそう答えると、私は彼と握手をした。

 ここは、とある島の海岸。私と友人に取っては思い出深い、田舎の風景が広がっている場所であった。

「いやはや、やっぱり暑いな。 年寄りにはこたえるよ。」

そう言って、友人は首にかけたタオルで額に浮いた汗を拭った。それを見ながら私もタオルでも持ってくれば良かったかと思いながら、友人に向かって笑いながら言う。

「それは、お前が太ったからだろ? 全く、ビールばかり飲んでるらしいじゃないか……」

「ははは! それを言われると、弱いなぁ……」

そうして、二人で世間話をしながら視線を広がる海に移す。そこには、綺麗な海が広がっている。

「あれから、何年になるか?」

「確か、今年でちょうど五十年になるな。」

そう言って二人で、海を眺める。町の方からは、祭りの太鼓が聞こえてきた。


 私は、五十年前を思い出していた。


「おーい! はよこんね! 潮ん冷とうして気持ちよかばぃ!」

「ちょっと、待たんかなぁ! わぃは、落ちつきんなかけん転けて怪我ばすっばぃ!」

「ふたっとも、おっに荷物ば持たせんと自分で持たんかなぁ!」

3人の男の子が、海岸で遊んでいる。その一人が、私だった。

確か、あの日も今日のように町は祭りで参加したくない私達三人は海に遊びに来ていた。

雲一つ無い青空。透き通るようなエメラルドグリーンの海。そして、うだるような夏の暑さ。

こういう日は、うみで泳ぐのが一番だ。

「そがんいえば、ばっさまが、海にゃー行ったらダメばぃってゆっとったなー」

「そげんゆって、わっやきとっやかね!」

と2人の友人が話している。それを聞いた私はふと嫌な予感がしたのだが、その時はすぐ気にならなくなり会話に混ざった。

「わっげーのばっさま。まだ生きとったとか……」

「わっも、ひとんげーのばっさまば殺さんでくるっかな……」

「この前、おっにばっさまの葬式やけんってゆーたやろ……」

と言って、3人で腹を抱えて笑った。そして、私達は岩場の方へ歩いて行く。

この奥にいくと、大きな岩があってそこから飛び込んで遊ぶのがいつものパターンだった。

岩場の上には、山があり木が栄えていてそこからロープが垂れている。私達三人が岩場をスムーズに渡っていくために付けたものだ。

「わったちや、海童様にお参り行った?」

と友人のひとりが上を向いて聞いてきたので、わたしともう一人がこたえる。

「おっやいったばぃ」

「おっやいっとらん」

この上の山には、海童様という神様が祀ってあり今日はその祭りなのだった。

なんでも、今から遡ること大昔…… 江戸時代に、このあたりの海で子供の海難事故が多発したらしい。

伝承では、子供の手が足を引っ張って泳いでいる子供を溺れさせていたのだという。

そして、その時の村長の枕元に龍神様が立ち。「私を拝んでくれるのなら事故を無くしてやろう」と言ったそうだ。

そこで、村長はこの山に祠をたて毎年この日に祭りを行うようになって事故は無くなったのだという。

その友人は、私にニヤリとした笑顔を向けて言ってくる

「わっや信心深かねぇ」

「うっさい! おっがほうがふつーたぃ」

そう言い返して、先に岩に辿り着いた。そして、いつもの様に3人で飛び込んだり潜ったりして遊び始めたのだった。


 ふと、気がつくとまだ夕方でもないのに周りが薄暗くなり始めた。私達3人は、顔を見合わせて

「おかしかねぇ…… まだ、日のくるっとや早かとに……」

といった直後だろうか…… 足に何かが絡みついた気がして手で払う。

私の手には、海藻が絡まってきた。その様子を見ていた友人1人は大笑いして言ってきた。

「お前なんばしよっと、まさか海童様から引っ張られたっち思たっか!」

「んなことないけん! なぁ…… あれ?」

そこでもう1人の友人に声をかけると、その友人は消えていた。

私達が、声を上げて呼んで探し回ってもその友人は帰ってこなかったのだった。

その後、大人たちが探しても死体すら上がらず私達は家族含めて海童様の罰があたったのだと村八分にされ仕方なく島を離れることになったのだった。


 それから、五十年私ともう一人の友人はふとしたことがきっかけで出会い。

こうして、いなくなった友人の弔いにあの日海難事故があったあたりにいってみるかと言うことになったのであった。

「……あいつはどこにいってしまったんだろうな」

そう、友人が切り出し。私は御神酒を海に注ぎながら答える。

「さぁ、あの時の話でだと海童様に連れられていかれたんじゃないか……」

しかし、それで納得するほど私達は子供じゃなくなっていて……

それを確かめようという気力もうはない。

友人が何を思ったのか靴を脱ぎ始めたので私はびっくりして尋ねる。

「お前なにしてるんだ?」

「いや、海に浸かればあいつの気持ちが分かるような気がしてな……」

そういって、彼は海に足を入れた。


 それから、私達は昔の話をして日が落ちて来るぐらいに別れて帰路についた。

私と彼の親戚類は、まだこの島にいたので二人とも自分の親戚に世話になる。

お盆も近いので今年の夏は、この島にいるつもりだと彼もいっていた。

親戚の家につき、年が同じくらいの親族達とお酒を飲みながら話をする。

話が今日の祭りの事に移ったので私は、ふと思い海童様のことについて聞くことにした。

「海童様って龍神様なんですよね?」

しかし、それを聞いた親族達は一斉に口を噤んでしまった。私は不思議に思い最年長のいとこに目を向ける。

「仕方ないな……」

そう言って、いとこは話し始めた。


 龍神様と海童様は実は全くの別物だったのらしい。龍神様は、世間的に知られている水の神様でもともと今は陸続きになっている島の祠に祭られていたのだそうだ。

しかし、子供の海難事故が増えるにつれ海で子供の幽霊が現れるようになった。

この子供の幽霊が、海童様と言うらしい。あまりにも子供の海難事故が多くなったので、龍神様の祠に祀るようになったらしい。


 その話が終わったくらいには、親族達は明日があるからと何かを怖がるように家に帰って行った。


 あてがわれた部屋で寝ようとしていると、今日会った友人から電話がかかってきた。

ボタンを押して、電話にでるすると……

「……あはは」

遠い場所で子供が笑っている声とぺたりぺたりと裸足で板間を歩いているような音がする。

私は、不審に思い少し躊躇しながら声をだす。

「もしもし……?」

その瞬間に、電話の向こうの音が消え全くなんの音もしなくなった。

私は、恐ろしくなって声も出せずに音を聞こうとする事しかできなくなっていた。

頭の中では、早く電話を切れとサイレンが鳴り響いていたが私は耳に電話を当て続けた。

冷や汗が全身から流れ出ていて、不快感がこみ上げてくる。

しばらくすると、ずる…ずる…と何かを引きずるような音がしはじめ子供のくすくすという笑い声が聞こえて唐突に電話が切られてしまった。

私は、額にかいた冷や汗を手の甲で拭った。そして、早まった鼓動を沈めようと目をつぶったそのとき……。

「……くすくす」

という子供の笑い声が後ろで聞こえ、身体がガチと音をたてて固まった気がした。

その次に、頬に冷たい子供の手が触れ……。

私が、恐る恐る目を開けると

「迎えにきたよ。ほら、海に行こう……?」

そこには、あの日居なくなった友人が子供の姿のまま立っていたのだった。

書いたのは良いですが、あまり納得のいくできではないですね

ホラー初挑戦だったので、よい勉強になったかとあとで手直しが入るかもしれません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 田舎感を出す演出で方言を使ったのだと思いますが方言を使っていた筈の少年の最後に言った言葉が標準語というのに少し違和感を感じました。かと言って最後が方言だと締まらない気もするので途中の会話も標…
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