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不可思議少女は今日も可視する  作者: 幻想桃瑠
◆第二部♚第一章◆【鳥居香姫は不可思議な転校生に手を焼く】
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第六話 失恋……?、

「バージル君だよね?」


 一歩近づいた私をどう思ったのか、バージルは吃驚したように飛び上がった。


『な、なんで、俺様の事が見えてんだよ……!』


 バージルらしき少年は、空中に浮かんだまま方向転換した。半透明なので幽霊なのか呪われているからか分からないが、ふわふわと頼りなげに浮かびながら、バージルは廊下を引き返していく。


「待ってよ、バージル君!」

『何者なんだよ、お前……!』

「ま、待って! 私はフツーの一般国民だよ!」

『どこがだよ!』


 飛び掛かって捕まえようとした私の手を、バージルは身をよじって避け、更に浮かび上がって天井をすり抜けた。そして、バージル少年は何処かに行ってしまったのだった。

 私はというと、バージルに逃げられたので、その場に転んでしまった。


「いたた……見張るなんて無理だよ……」


 向こうから話し声が近づいてくる。それは、若い男女の話し声だった。軽やかに弾んだ調子は、話が盛り上がっていることを表している。


「っ!?」


 顔を上げると、この国では目立つ黒髪に目が留まる。彼は他の誰でもない景山澄恋だった。彼はこちらに気づいていない。


「澄恋く……!?」


 すぐに声をかければ済むことだが、その元気はすぐに吹き飛んでしまった。

 澄恋の横にいる人物に驚いたからだ。制服は来ていないので、この魔法学校の生徒ではないのかもしれない。彼女はフリルを沢山使った水玉のワンピースを着ている。それも手伝って、可愛らしいフランス人形のように見えた。リリーシャと張り合っても可笑しくないぐらいの整った容貌だ。

 私と同い年ぐらいの背格好で、朝陽を受けて金色に輝く艶やかなウェーブヘアを肩の上で揺らしながら、澄恋の話を楽しそうに聞いていた。


 声はこちらまで聞こえてこない。彼女が何事か澄恋に言った。すると、澄恋は彼女に向き直った。そして、澄恋は彼女の頭を優しく撫でた。


 瞬間、私の時間が確かに止まった。


 あの少女は澄恋のなんなのだろうか。澄恋の隣は私の居場所のはずなのに。

 澄恋は、私に気づかない。そのままその少女と別れ、何処かに歩いて行った。


 代わりに私の前でローファーを履いた足が止まった。私の絶望に満ちた視線が、彼の足からそろりと見上げていく。するとその先に、同情に満ちた視線と目が合った。彼は、ジュリアス・シェイファーだった。


「……香姫さんに腕輪を返してもらいたくて、探していたんだけど……」

「えっ……腕輪……?」


 いきなり話を切り出されたので、慌てて制服の袖で涙をぬぐった。

 ジュリアスは、頷いている。そして、私に手を差し出した。私は彼の手を取って起き上がる。


「その腕輪は、キャロルにあげたものだから……」

「で、でも、これは私のお守りで……」


 私は慌ててジュリアスの手を離し、その腕輪を取られないように片方の手で握った。

 それに、これは初めて澄恋が私にくれたプレゼントだ。思い出がたくさん詰まっている。これを返してしまったら、私には何もなくなるような気がした。


「……じゃあ、返さなくていいよ」

「えっ? いいの?」

「その代り、放課後行きたい場所があるんだ。付き合ってくれないかな?」


 行きたい場所とはどこなのだろう。

 腕輪を返さなくていいというので、戸惑ったものの最終的には了承してしまった。


 けれど、失恋したのか気になって、放課後まで勉強に全然身が入らなかった。お蔭で、魔法学と古代魔法学の補習をハシゴする羽目になってしまった。

 魔法学のジェラルド・シャード先生は事情を話すと笑って解放してくれたが、古代魔法学のアンディ・ビートン先生のお小言は嫌というほど聞かされた。ビートン先生は同じことを執拗に何度も繰り返し話すので、私が日本で死んだ時に聴いたお経よりも長い時間に感じられた。


 ぐったりして古代魔法学の教室から出てくると、ジュリアス・シェイファーが壁にもたれて待っていた。


「あ、ジュリアス君……」


 クスッと笑って、ジュリアスは私の傍まで歩いてきた。


「お疲れ。じゃあ、約束通り付き合ってもらうよ?」

「良いけど、どこに行くの?」

「着いてからのお楽しみ……かな?」


 中身が違うせいか、以前の意地悪なジュリアスは優しい少年に取って代わっていた。ほんのりと以前の澄恋を彷彿とさせる。

 戸惑ってジュリアスを見ていると、彼は私の手を取って歩き出した。


「ちょ、ちょっと、ジュリアス君!?」

「景山君の代わりは嫌だったけど、許してあげるよ」

「えっ?」


 一体それはどういう意味……?


「さあ、行こうか」


 私は目を白黒させながら、ジュリアスに手を引かれて歩き出した。ジュリアスの考えがさっぱり分からない。しかし、彼のお蔭でひとときの間、胸の痛みを忘れるのだった。

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