第五話 デートの約束と景山澄恋(かげやますみれ)
教会のような建物が魔法学校の大食堂だ。食べながら話そうということになり、私と澄恋は建物の中に入った。
朝早いせいか人はまばらだ。外の明るい光が、壁一面の窓から降り注いでいる。歴史のありそうなこの白い建物は、千人ほどの生徒の数を収容できる。中に入ると、丸い柱が所々ある天井の高くて広い空間になっている。白いテーブルクロスのかかった四人が座れる四角いテーブルが、等間隔に並んでいる。壁は白く清潔で、掃除も行き届いていた。
正面に位置するガラス張りのケースにはいろいろな料理が皿に入って陳列しているし、焼きたてのパンはケースの上に大きなかごに入って並んでいた。教員や生徒が、好きな料理を取ってテーブルで食べるというシステムなのだ。
私は、チーズとクリームのパスタと、コールスローのようなサラダを。澄恋は、緑の野菜を練り込んだベーグルのようなパンと、コーンのをすりつぶしたような白いスープを選んだ。
窓際の明るい席を選んで、向かい合って座る。しばしの間、食べながら雑談を楽しんだ。
「澄恋君、ほうきなんて乗れるんだね! すっごいね!」
「そう? 簡単だから、香姫もそのうち乗れるようになるよ」
澄恋は、褒められてまんざらでもなさそうだ。以前ならここで嫌味が入るのだけれど、彼はそれを口にしなかった。
「……なんか、澄恋君、優しくなったよね?」
「うーん、香姫が元の身体に戻ってホッとしたからかな?」
「でも、リリーシャさんの身体だったから苛めたくなったっていうのはどうしてなの?」
「大した理由じゃないよ。それに、香姫はそっちの方が可愛いと思うよ」
「えへへ、ありがと」
その心理がよく分からないのだが、ともかくは元の私が良いということなのか。私は褒められて気分良くなっていた。
けれど、澄恋と私は特に付き合っているというわけではない。私が澄恋を好きなのは彼に伝わっているはずなのだが。澄恋はというと、少し優しくなった以外に変化はない。私はというと、この付かず離れずという微妙な関係が心地いいので、今のこの関係を気に入っているというわけだ。
「そう言えば、知ってる?」
澄恋が、冷たいコーヒーのような飲み物にミルクを入れながら話を振ってきた。
「何が?」
「商店街に新しく『マジックショップ』ができたんだよ」
それは、澄恋の魔法研究所の途中にある商店街のことを言っているのだ。以前通りかかったことがあるが、露店が沢山並んでいた。その奥にあるお店の中にはまだ行ったことはないが――。
「マジックショップって何? 手品のお店?」
「魔法のアイテムを売っているお店だよ。今度一緒に行ってみる?」
「う、うん! 行く!」
デートの約束だ!
アレクシス王子の心配事で重くなっていた胃は、澄恋のお蔭ですっかり軽くなっていたのだった。
「じゃあ、僕はマクファーソン先生に用があるから」
「うん、じゃあまたね! 遊びに行ける日が決まったらお知らせしてね!」
「分かったよ。じゃあね」
私と澄恋は手を振って別れた。
満腹でしかも夢見心地になった私は、スキップしながら廊下を飛び跳ねていた。日本にいる時は、澄恋とお店を回るなんてことはあまりなかった。あの時はいつも幽霊に怯えていたので、そんな余裕はなかったのだ。強いて言えば、澄恋に守ってもらっているときがデートだった。
良く考えると、着ていく服が何もない。せっかくだから、制服じゃなくておめかししていきたいところだ。
「よし! またアレクシス王子に条件をふっかけよう!」
知らぬ間に考え事が口を突いて出ていた。すると、すぐ傍から『クックック』という笑い声が聞こえてきた。
「えっ? えっ?」
辺りを見回すが、誰もいない。早朝なので、生徒たちはまだ登校していないようだった。空耳なのだろうか。
『あのアレクシスに条件をふっかけるなんて、とんでもない女だ……』
「えっ!?」
『もしかして、俺様の声が聞こえるのか……?』
疑問に思った私は、自然に可視していた。
目の前に半透明の少年が立っているのが分かった。可視しているから半透明に見えるのであって、でなければ幽霊と同じだろう。
彼は、中学生くらいに見える。もしかすると、私と同い年なのかもしれない。
彼は周りに溶け込むように魔法学校の制服を着ていたが、すぐに見覚えがあることに気が付いた。
釣り目で、物おじしなさそうな顔が特に印象的だったので、覚えていたのだ。
「も、もしかして、バージル君!?」
目の前の彼を指差して問うと、彼はギョッとしたまま目を瞬かせていた。




