第八話 正体不明のジュリアス2
再び私の心臓が跳ね上がった。
おそらく、ジュリアスと、生前のリリーシャとは恐らく初対面だ。彼はリリーシャの顔を知らなかったんだから。
何故ジュリアスは、初めて出会ったリリーシャの事をこんなにも熟知しているのか。私でさえ、『可視使い』が具体的に何であるのか知り得ていないのに。
隣町から来て、しかもリリーシャとも私とも初対面。なのに、事情を私よりも把握している? 不自然じゃないか?
「まあ、いいや」
「良くない! 疑問だらけで、夜眠れなくなっちゃうよ!」
ちょっと待って?
「もしかして、私が、その……『可視使い』だということは知れ渡っていることなの……かな?」
自然と声を潜めてしまうのは、私が臆病だからなのか。知れ渡っているのなら、つじつまが合うような……。
でも、ジュリアスは笑って首を振った。
「まだ、僕ぐらいしか知らないはずだけど」
私は唖然となった。まるで謎かけのようだ。
「どうして可視使いの事を知ってるの?」
「さあな。でも、僕はリリーシャが可視使いになったことしか知らないけど」
正体不明のジュリアスに、私は疑問符を浮かべるばかりだ。
「一体何が目的なの? どうして、私が可視使いになったことを知ってるの? それに、何故私の事を探していたの……?」
「それはそのうち分かるよ。それにリリーシャは僕から離れなくなるような予感がする」
「それは絶対にない!」
ジュリアスは楽しそうに微笑んだが、思わず私は即答していた。
「それはどうかな?」
ジュリアスの目が怪しく光る。
まさか、私を脅す気……?
警戒していると、後ろから怒ったような足音が聞こえてきて、ジュリアスの興味がそちらに移った。
「ジュリアス・シェイファー!」
ジュリアスに口答えしようと思った私を誰かの声が遮った。振り返ると、シャードが後ろに立っていた。
「シャードさん」私はほっとして彼の名前を呟いた。
「寮を案内している最中にはぐれるな、シェイファー」
「すみません。面白い物を見つけたので、つい」
ジュリアスは私の方を見てくすりと笑った。
シャードの目が私の方を向く。
「リリーシャ・ローランド。こんなところで何をしているんだ?」
「えっと、探検です」
「探検も良いが寮に帰って一時限目の支度をしなさい。それと、クレアと私の事は先生と呼ぶように」
「はい、シャード先生……あの、寮はどこですか? その、記憶喪失なんで、分かりません」
シャードは疲れたように人差し指を眉間に置いて、ため息を吐いた。
ジュリアスは、いきなりむせた。
「君って、記憶喪失なの?」
ジュリアスが苦笑している。彼は、記憶喪失だと言ったことを言い訳か何かと思ったらしい。
私はむくれたまま、彼を睨んだ。私だって、記憶喪失なんて嘘つきたくないんだ。でも、リリーシャの代わりを演じるには記憶喪失しかない。その事を、ジュリアスに一から説明してあげるつもりもないけど。
顔を背けると、ジュリアスは引きつっていた。
……もしかして、本当は私と仲良くしたかったのかな?