第十五話 事件解決!*
事件が終わった。
マクファーソン先生の奥さんの魂は、私がソフィの身体を可視したことで、パスワードを言い当てることができた。どうやら、魂の抜けた身体を可視することはできるようだった。この時になって、私は新しい身体なのに、可視出来ることに気づいたのだった。
「鳥居君、景山君、心から感謝をするぞ。迷惑をかけてすまなかったな」
「本当にありがとうございました」
マクファーソン先生とソフィは、私たちにお礼を言って、頭を下げた。
そして、ホンモノのソフィと見つめ合った。
「バルドさん、手を繋ぎましょうよ」
「そうだな、たまには良いか」
マクファーソン先生とソフィは離れていた時間を埋める様に、手を繋いで何事か喋りながら帰って行った。二人の歩く距離はゼロセンチ。帰って行く後姿を見ていても、仲睦まじくてあてられるぐらいだった。
「良かったね」
「ああ、本当に良かった、香姫が無事で」
私は、ホンモノの澄恋と微笑み合った。
それを遮るように、ワザとらしい咳ばらいが聞こえてきた。
それは、冷めた様子でこちらを見ているホンモノのジュリアスだった。
「何、ジュリアス君?」
「ベタベタしすぎじゃないかな? ちょっと、離れたらどう?」
私とホンモノの澄恋は慌てて繋いでいた手を離した。
「な、何か暑いね!」
「そう?」
再び微笑み合う私とホンモノの澄恋に、何故かホンモノのジュリアスは不機嫌になった。
「ねぇ、知ってるかな? 景山君。ここにいる、香姫さんは僕に可視酔いしたらしいんだけど」
その事に大慌てしたのは、私の方だった。
「ち、違うの! 私は、ジュリアス君のことを澄恋君だと思っていたから!」
言い訳すると、今度はホンモノの澄恋の方から冷たい視線が私に返ってきた。
「ああ、そうだね。『私は澄恋君を愛してるから、中身が違うかどうかは一目瞭然だよ! 絶対に、澄恋君だよ!』って言ってたもんねぇ」
「あああああ!」
過去のセリフを思い出して悶絶する私に、ホンモノのジュリアスが吹き出した。
「本当は、僕の事が好きだったんじゃないのかな?」
そう言って、ホンモノのジュリアスは涼しい顔で笑った。
「違うの! ジュリアス君、じゃない澄恋君!」
本気で、ジュリアスと澄恋を間違えた私は、墓穴を掘りまくりだ。
説得力ゼロの私に一番イラついたのは、澄恋とジュリアスの方だったようだ。
「ああ、もう! ややこしい!」
「そうだな! 景山澄恋、さっさと、身体を交換しよう!」
そういう経緯で、澄恋とジュリアスはお互いの身体を交換することになったのだった。ホンモノのジュリアスが私に機械の操作を教えて、無事、彼らは元の身体に戻ることができた。澄恋とジュリアスが身体を交換して、やっと魂と身体が一致した姿になった。
「これで、間違えられることはないよね?」
澄恋の身体に戻ったホンモノの澄恋は、元の自分の身体を満足そうに確かめている。
「香姫さん、飴食べる?」
「いいの? ジュリアス君、ありがとう!」
「って、おい! 香姫、何ジュリアスと仲良くなってるんだよ!」
「だ、だって、澄恋君。その顔だと落ち着かなくて!」
私は、柑橘系の飴を口の中でもごもごさせながら、喋った。
澄恋は何から何まで格好良すぎるのだ。完璧すぎるのだ。
もじもじしている私に、澄恋はイラッとしたように片眉を跳ね上げた。
「へえ、僕の顔のどこが落ち着かないっていうの?」
「景山君は、意地悪だから、僕の方が良いんだって」
ジュリアスが横から茶々を入れた。
「ええっ!? 違うよ! でも、確かに澄恋君は意地悪だけど。だから、私、澄恋君だって気が付かなかったんだもん」
「……それは、そっちに責任があるんじゃないかな? 日本にいた頃の香姫はウリ坊みたいで可愛かったのに、その可愛い性格にリリーシャの容姿端麗な顔だろ? 苛めたくなってくるだろ、普通は」
ガーン! ウリ坊!?
「何よそれ! 澄恋君のバカ!」
言い争っている私たちに、ジュリアスが呆れたようにため息を吐いた。
「痴話喧嘩なら他所でやってくれないかな?」
「ち、痴話喧嘩!?」
顔が熱せられて湯気が出そうになった。澄恋の顔が全然見ることができない。だから、澄恋がどんな顔をしているのか確認できない。
「何をやっているんですか、貴方たちは?」
「アレクシス様!」
いきなり研究室に入ってきたアレクシスに私たちは驚いた。
ウィンザーをはじめとする護衛人たちを脇に従えて、私たちの前に立つ。
私たちは慌てて跪く。
「その様子だと、無事解決できたようですね?」
「はい、アレクシス様。無事、キャロルの敵を討つことができました!」
ジュリアスは、嬉々としてアレクシスに報告した。
「では、賞金はジュリアスに渡しましょう」
「ありがとうございます!」
「それで、景山君が、ここの装置を破壊してしまったのですが……」
すっかり忘れていた。澄恋が思わず壊してしまった精密機械は今でも無残な姿を見せている。私と澄恋はばつが悪そうに顔を見合わせた。
「では、香姫さんと澄恋君は、その新しい身体の代金と、ここの設備の弁償代を、暫く働いてもらうことで返してもらいますね?」
私と澄恋は弾かれたようにアレクシスの方を振り向いた。
「はい? 僕の身体はタダじゃないんですか!?」
「ええ、タダではありませんよ? そんなわけがない」
アレクシス王子は優しそうな顔で鬼のようなことを言っている。
「ええっ!? この身体って、魔術師レリック=グレイを倒した賞金で賄えるんじゃないんですか?」
「香姫さんの身体はタダですけどね。ここの設備、何兆ルビーすると思ってます?」
すっかり血の気が失せた。澄恋の顔も青ざめている。
「二人とも、借金を明日からコツコツと返してくださいね?」
私は、目の前のアレクシスを鬼だと思った。
「あう……」
何となく、私も澄恋もアレクシス王子の手のひらでコロコロと転がされているような気がするのだった。