第十三話 仕組まれた罠
「貴方は、ニセモノの澄恋君だよね? じゃあ、貴方は誰なの?」
ニセモノの澄恋は、私の問いに冷笑を返した。
「私が誰なのかなんて、たいした問題じゃない。そうでしょ? ジョアナさん」
澄恋の顔をした何者かは、隣の女に話しかけた。ジョアナは研究員なのだろうか。彼女は試験管型の水槽を撫でながら、ニッと微笑んだ。
「ええ、そうね」
「……いや、ソフィさんと言った方が良いのかな」
澄恋は、試験管型の水槽に入っている身体を愛おしそうに見つめるジョアナに尋ねた。
「知ってたの?」
ソフィと呼ばれた女は、楽しそうに笑ってその事実を肯定した。
あまりの衝撃に呼吸が止まりそうになる。
「っ!? ソフィさんって!?」
「まさか、蟻地獄のデュラン!?」
私は不意打ちの彼の言葉に戦慄した。ジョアナは、ソフィの身体を乗っ取っているデュランということだ。
澄恋が私を庇うようにして前に出た。
ニセモノの澄恋は冷笑して、隣の女の人を窺った。
「準備ができましたよ。デュラン様」
女は水槽に設置されているプレートの上に右手を置いた。
「アハハハハハ! これで、私は無敵の身体を手に入れることができる! これで、私は美味しい魂を食べ放題だ!」
「可視編成!」
ニセモノの澄恋が、呪文を唱えた。すると、すぐにデュランはすぐに力を失い、魂の抜けた抜け殻の身体が、その場に崩れ落ちた。
「まずい! 可視編成!」
澄恋が魔法を水槽に放った。けれども、ニセモノの澄恋が、それを魔法で阻もうとした。けれど、澄恋は魔法でゴリ押しする。すると、ニセモノの澄恋は押されて、魔法をはじき飛ばされた。澄恋の魔法が水槽に直撃して水槽を粉砕した。
すると、ニセモノの澄恋は顔色を変えて怒鳴った。
「なんてことを! この魔法機器は何億ルビーすると思っているんだ! 弁償なんて、簡単には出来ないってことを分かっているのか!」
「それなら、アレクシス様に払ってもらえばいい!」
澄恋とニセモノは、言い争っているが、水槽の中まで粉砕できなかったようだ。男が水槽から降りてきた。
「可視編成!」
男は魔法であっという間に服を身に付けて身体を乾かした。
まるで魔王の様な衣装を身に付けている。自分がこの国の王であるかのような。
「ハハハハハ! 良い身体だ! 感謝するぞ!」
「いえ、デュラン様のお役にたてて光栄です」
ニセモノの澄恋は、デュランに跪いた。デュランにかけてもらった言葉を心から喜んでいるようだった。
「さて、早速、鳥居香姫の魂を頂こうか?」
「そんなことさせるか!」
デュランから私を守るように澄恋が前に出る。その姿にデュランは大笑いした。
「フハハハハ! お前たちは何も知らないのだな!」
「何のことだ?」
「この景山澄恋が用意したその鳥居香姫の身体。何か違和感を感じないか?」
「えっ!? どういうこと!?」
なにも違和感なんて感じない。良くできた身体だと思うが、何か問題があるのだろうか。
「その鳥居香姫の身体はすぐに使い物にならなくなる」
ええっ!? 使い物にならなくなるって何!? 頭の中が真っ白になる。
「う、嘘でしょ!?」
「本当だよ。デュラン様がパスワードを言えば、身体は熱せられて炭になってしまう」
そう言ったのは、ニセモノの澄恋だった。
全ては罠だったのか。もはや、ニセモノの澄恋には愛情を感じない。全ては作られていた。敵意すら覚えてニセモノの澄恋を睨んだ。
その姿が滑稽だったらしく、デュランは大笑いした。
「フハハハハ! そういうことだ!」
「させるか! 可視編成!」
澄恋が、デュランに向かって魔法弾を放った。
ニセモノの澄恋の指がデータキューブを素早く操作する。
「魔力吸収装置稼働開始!」
すると、魔法弾が吸収されてしまったではないか。
ニセモノの澄恋が冷笑を浮かべる。そして、彼は顎を上げて澄恋を冷めた目で見た。
「魔法を使われたら困るって言ったでしょ。ここには精密機械が並んでいるんですから」
再び澄恋が魔法弾を放とうとしたが、魔法は形にならず消滅してしまう。この部屋の中では魔法は使えないようだ。
「可視編成! くそっ! 魔法が!」
こうなったらもう成す術がない。私は、覚悟を決めて、デュランに向き直った。
「デュラン、最後に訊きたいことがあるの!」
「香姫!?」
全て諦めた私に、澄恋は驚愕して私を振り返った。
「最後の願いか。言ってみるがいい」
「ソフィさんの魂ってどこにあるの?」
「そんなことか。リリーシャの部屋にある机の引き出しの中だ」
えっ!? それは、澄恋が持っているはずだ。澄恋に預けたままになっているのだから。
「ぱ、パスワードは?」
「いっそのことソフィに訊いてみたらどうだ? ソフィが決めたのだからな!」
デュランが簡単に教えてくれるはずはない。でも、私が可視すれば――。
私の考えていることはデュランにも察しが付いたらしい。意地が悪そうにニヤリと微笑んだ。
「さあ、食事の時間だ。私が、お前の魂を食べてやろう!」
デュランが最後の時間を与えてくれるはずがなかった――。




