第七話 正体不明のジュリアス
唯一答えられる質問を的を射たように訊かれて驚いた。確実に私の事だ。中身は『鳥居香姫』だが、外見は『リリーシャ・ローランド』なのだから。
この人は、リリーシャの事を確実に探している。
私の事です!
私は素直に答えようと思った。
でも、待ってほしい。この人が、味方だと決まったわけじゃない。平和に慣れていた私の脳みそが、現実を思い出して警戒し始める。そう、ここは平和な日本ではない。危険極まりない異世界なのだ。
だとすると、結論は一つ。
「えっと、知りません……。ごめんなさい……」
私は、素知らぬ顔をして通り過ぎようとした。だが、彼に腕を掴まれてしまった。
「えっ!?」
驚いていると、彼はフッと笑った。青い瞳の奥に意地悪そうな光が宿っている。
「嘘だな」
「なんで! 私は本当に」
しどろもどろになっている私に、彼は持っていたデータキューブを見せる。
絶句もいいところだった。
光の画面に画像がホログラムのように立体的に浮かんでいて、その画像こそが、リリーシャ・ローランドの写真だったからだ。つまり、最初からこの男子は私の事をリリーシャだと知って話しかけていたのだ。
「不可視編成」
彼は呪文らしき低音と高音の言葉を同時に呟いた。すると、データキューブは力を失い小さな立方体に戻る。それを、易々とポケットの中に仕舞った。
「僕は、ジュリアス・シェイファー。ジュリアスって呼んで」
「ジュリアス君……?」
露骨に困った表情を返す私のことを、彼は何も気に懸けていない様子だ。
「よろしく!」
「う、よろしく……」
彼は、改めて手を差し出してきた。私は、その手を握り返す。
彼の右の袖下にクラシックな金色の腕輪が覗いていた。男子が付けるには少し女っぽい腕輪だ。その時は、そのことを特に感じ入ることもなく、追求しようとも思わなかった。
しかし、この出会いが私とジュリアス・シェイファーとの長い付き合いの始まりだったのである。
「えっと……私に何か用があるの?」
「ああ、僕はリリーシャ・ローランドに付きまといに王都から来たんだ」
「そうなの……って、ええっ!?」
リリーシャに付きまといに来た? しかも、王都からわざわざ? リリーシャはフランス人形のように色白で美人だし、付きまとわれるのは分からないでもないけど……。現在のリリーシャ・ローランドは私、鳥居香姫なのだ。冗談じゃない。ジュリアスは私に視線を合わせたまま、口端に笑みを浮かべている。
「……リリーシャ、目に不調はないか?」
「えっ? 目に不調? ないよ?」
何を聞かれると思ったら。私の体調でも心配してくれているのか。私の答えに満足したのか、ジュリアスは離れていく。
だが、彼は眉をひそめていた。
「おかしいな。君は、『可視使い』になったんだよね?」
「えっ!?」