第七話 事件解決……?*
箱の中には腕輪が入っていた。外見だけでもすごく高価な鼈甲の腕輪だ。
「この腕輪は、貴方を守るためのお守りです。いつか役に立つでしょう。私の頼みを聞いてくれたお礼に差し上げます」
「えっ!? 良いんですか?」
「はい」
アレクシス王子がそう言うのだから、間違いはないのだろう。ただでさえ可視使いという立場はリスクが大きいのだ。貰っておいて損はない。
「じゃあ、遠慮なく! ありがとうございます!」
私は喜んで左腕に付けた。右腕にはキャロルの腕輪がある。お守りが二つになった。可視使いという立場からは解放されていないが、とても気持ちが軽い。
「では、魔法学校にお送りします」
そして、私はアレクシス王子に連れられて、魔法学校の医務室に帰ってきた。
瞬間移動の風が治まる。ジュリアスはまだ食事中だったらしい。ジュリアスと目が合った。
「あ!」
「あ……」
私はジュリアスを指差したまま固まった。ジュリアスはウィンザーの手を借りるどころか、独りで黙々と料理を食べていたのだ。
「な、なんで!? ジュリアス君、独りで食べてる!」
てっきり、ウィンザーに食べさせてもらっている図を想像していた私の予想は外れた。ジュリアスはハッと吐き捨てた。
「ウィンザーに食べさせてもらうなんて嫌だね!」
「私もジュリアスの奴に食べさせるなんて嫌です」
ジュリアスは一人では食べきれないと言っていた料理をほとんど平らげていた。
ウィンザーは床で腹筋を鍛えていた。だてに筋肉隆々の肉体は保っていないようだ。
「ウィンザー帰りますよ」
アレクシスがいると分かるや否や、ウィンザーは早急に起き上がり、アレクシスの前に跪いた。
「アレクシス様、もうご用はお済になったのですか?」
ウィンザーが疑問視するのも頷ける。あれからさほど時間が経っていない。
「ええ、すべて解決しました。香姫さんのお蔭ですよ」
「お安いご用です!」
ジュリアスがナイフとフォークを休めて、こちらを見ている。
笑顔のアレクシス王子に対して、ジュリアスは怪訝そうだ。
「もしかして、レオセデス様の事が解決したんですか? キャロルが解決しなかったあの事件を?」
「ええ。さすが香姫さんとしか言いようがないですね」
ジュリアスは事情を知っていたようだ。それでも解決したと知って、ジュリアスは吃驚していた。
「解決した? 誰が犯人だったんです?」
「侍女のソフィさんです」
「ウィンザー。宮殿にすぐに戻り、ソフィを」
「かしこまりました」
ウィンザーは可視編成を唱えると、空間を渡り、宮殿に帰って行った。
「これで、アレクシス様の本懐が遂げられたわけですね。香姫の魂をリリーシャの身体に入れて可視使いにした目的が果たされた。香姫の魂を助けたのは、可視使い候補に挙がっていたから。たまたま、香姫が殺されてしまったので、アレクシス様が蟻地獄のデュランから横取りしたというわけですよね。そして、たまたま魔術師レリック=グレイに殺された可視使いにふさわしい器がリリーシャだった。そういうことですね。全部、無念の死を遂げてしまったレオセデス様の為なんですよね」
「えっ!? それで、私を!?」
「人聞きが悪いですね。何度も言いますが、蟻地獄のデュランから香姫さんの魂を救ったのは私です。魔術師レリック=グレイに殺されたリリーシャさんの死体を保存して再生させたのも私です。感謝をしてほしいぐらいですよ」
ジュリアスはハッと鼻で笑った。
「下心があったんじゃ、感謝もできないですよね」
私もジュリアスに同意だ。
「では、香姫さんには景山君に言って、最高の『鳥居香姫』の身体を作るように言っておきます。あと、十億ルビーを私のポケットマネーで追加して、素晴らしい身体を提供しますよ」
「ほ、ホントですか!? 楽しみです!」
私は、アレクシス王子と微笑み合った。ジュリアスは面白くなさそうに鼻でハッと笑った。
「……アレクシス様、ご存知ですか? 景山澄恋って、香姫の初恋の人らしいですよ?」
アレクシス王子の笑顔がぴくっと震えた。
「……へえ、そうですか」
「はい、好きなんです!」
私のすぐ横で、ジュリアスとアレクシス王子の火花が散っている。アレクシス王子は気を取り直して微笑みなおした。
「……好きなものは仕方ないですね。事件が解決したら、今度はゆっくり宮殿に遊びに来てくださいね」
「はい!」
そして、アレクシス王子は瞬間移動で宮殿に帰って行った。
すべてうまく行ったような夕暮れ時――。
私は、すっかり油断しきっていた。
まだ、事件は解決していなかったのである。




