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不可思議少女は今日も可視する  作者: 幻想桃瑠
◆最終章◆【鳥居香姫は不可思議な二人と共に元の身体に戻る】
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第五話 アレクシスの参入*

 私のフォークから野菜が外れて、お皿の上に落ちた。私はジュリアスを凝視したまま固まっていた。

 つまり、ジュリアスは『はい、あーん』『あーん』という恋人のアレをしてほしいと言っているのだ。

 私の顔が急激に熱くなった。

 私が戸惑っていると、ジュリアスがクスッと笑った。


「嫌なら食べないよ?」

「分かったよ!」


 それもこれも、すべてジュリアスのためだ!

 覚悟を決めてジュリアスの方に席を移動した。ふてぶてしく座っているジュリアスは、本当に怪我人なのだろうかと疑ってしまう。躊躇したまま仏頂面で見ていると、ジュリアスが距離を詰めてきた。

 ジュリアスのシャンプーの微かな香りまで分かってしまう距離に、私の心拍数は上がりっぱなしだ。

 ジュリアスの食べかけていた料理の皿を取って、スプーンを手に持つ。

 スープを掬って、ジュリアスの口にスプーンを運ぶ。


「どう? 食べれるかな?」

「香姫に食べさせてもらうと美味しいよ」

「っ!?」


 ジュリアスの笑みを間近で見てしまい、私の顔は余計に熱せられる。

 ジュリアスの機嫌はすっかり良くなっていた。それどころかジュリアスはやけに素直だった。いつもの意地悪な調子ではない。その事が余計に調子を狂わせる。


「あーん」


 ジュリアスはひな鳥のように口を開けている。この位置がすっかり気に入ったらしい。私はせっせとジュリアスにスプーンを運ぶ。


「美味しい?」

「とっても」


 これは、恋人同士がすることだ。私は澄恋が好きなはずなのに、どうしてこんなに――。


「どうしたの?」

「ううん……! なんでもない!」


 突如、医務室の中で風が巻き起こった。


「えっ!? なんなのっ!?」


 風が治まると、アレクシス王子とウィンザーが現れた。


「あ……アレクシス様……?」


 私はお皿を持ち、ジュリアスにスプーンを差し出した格好で固まっていた。

 それを見たアレクシス王子の表情が強張った。


「……取り込み中だったかな?」


 ジュリアスは私が差し出したスプーンからサラダを食べる。その行為をわざとアレクシス王子に見せつけているようだった。


「そうですね。取り込み中です。お帰り下さい」


 ジュリアスがそっけなく告げると、アレクシス王子は微かに気色ばんだ。こんなことで怒るなんて、二人は本当に仲が悪い。私は一歩引いた気持ちで二人を眺めていた。


「取り込み中の所を失礼しましたね」


 アレクシス王子の口調は穏やかだったが、どこか攻撃的なのは気のせいなのだろうか。


「失礼ついでに香姫さんをお借りしますね」

「えっ!? ええっ!?」


 驚いている私の横にアレクシス王子が来て、食器を奪い取った。

 そして、アレクシス王子は私の前で跪き、手を差し伸べた。


「香姫さん、少し宮殿に遊びに来てくださいませんか?」

「ダメ! ジュリアス君にご飯を食べさせなくちゃならないから!」


 私はふんぞり返って、きっぱりと断った。

 私にはジュリアスを元気にさせるという使命があるのだ。ご飯を食べさせるのも、看病するのも私の仕事。それが、命の恩人に対しての精一杯の気持ちだと思ったからだ。


 頑として動こうとしない私を、アレクシス王子は穏やかに見ていた。


「へえ? そうなんですか……ウィンザー?」


 声に少しいら立ちが見え隠れしているような気がした。何故不機嫌なのかと戸惑っているうちに、護衛人のウィンザーが私の前で跪いた。


「香姫様。わたくしめがジュリアスにご飯を食べさせますので、ご安心ください」

「分かりました! よろしくお願いします!」


 私は食器をウィンザーに手渡して、ぺこりとお辞儀した。ジュリアスは私が了解するとは思わなかったのだろう。それまで、勝ち誇って聴いていたジュリアスの表情が一変した。


「っ!? 香姫!?」

「ジュリアス君、早く良くなってね」


 ジュリアスは焦って私を止めようとしていたが、体格の良いウィンザーに襟首を引っ掴まれていた。


「では、参りましょうか」

「はい!」

「可視言霊!」


 そして、私とアレクシス王子は空間を超えて、あっという間に宮殿にたどり着いたのだった。


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