第四話 ジュリアスの看病2
ジュリアスはぐったりしたように眉間に手をやって呻いた。また、体調が悪くなったのだろうか。無理もない。あんなに大怪我をしていたのだから。
「ジュリアス君、大丈夫……? 私のせいで迷惑かけてごめんね! でも、私、魔法を使えるコツが少し分かったから!」
私は、ジュリアスの手前のソファにちょこんと座って料理を取り分けていた。
ジュリアスは王様のようにソファに陣取っている。ソファの背に手を回して、イライラと指で叩いている。
自分の好きな物ばかりをお皿に入れて、ジュリアスに差し出す。
ジュリアスはもたれていた身体を起こしてそれを受け取る。
「質問に答えてくれる? どうして、景山澄恋が香姫の身体を作るわけ?」
ジュリアスはやけに澄恋にこだわってる。その事が、不可解だ。
ジュリアスはテーブルの上に皿を置くと、ナイフとフォークを手に持ち、それをつつきだした。
「澄恋君はね、転生した時に魔法研究所に拾われたんだって! だから、そこで勤めているらしいの!」
澄恋の事を話すと、思わず声が弾んでしまう。その事に勘付いたらしいジュリアスはナイフとフォークの手つきが荒々しくなった。鶏肉を不機嫌にフォークから口で外して食べている。
「……僕はその澄恋君とやらは信用できないと思うね。魔法研究所で簡単に人体が製造できるなら、その澄恋君はアヤシイね。中身が違ってても――」
「それはないよ!」
早口で忠告するジュリアスに反論したのは私の方だった。遮られた方のジュリアスはムッとしている。
「だって、だってね、魔法研究所で人体を製造するには、ものすごくお金がかかるもの! 国家予算の一部ぐらいあるってクレア先生が言ってたもん!」
ジュリアスは力説する私を恨めしそうに見ている。
「……そうかもしれないけど」
「それに、私は澄恋君を愛してるから、中身が違うかどうかは一目瞭然だよ! 絶対に、澄恋君だよ!」
「ははっ……」
夢見心地で語る私を呆れ返ったように見て、ジュリアスは乾いた笑みを浮かべた。彼のジト目が確実に私に何かを訴えかけている。だが、そんなこと私が分かるはずもない。
「僕はその愛とやらを疑うね……」
「失礼な! それに、澄恋君は大変なんだよ! なんてったって記憶喪失なんだからっ!」
記憶喪失を崇め奉る私をどう思ったのか、ジュリアスはナイフとフォークを持ったまま頭を押さえてしまった。どうやら、頭痛がしたらしい。
「ジュリアス君、大丈夫?」
ジュリアスの顔を覗き込むと、彼はピクッと震えた。そして、彼はナイフとフォークを投げ出して、ソファに体重を預けてぐったりした。
「あーもう、しんどい! すっかり食欲失せた!」
「だ、ダメだよ! ちゃんと食べなきゃ!」
ジュリアスは鼻でハッと笑って、私から顔を背けた。
「嫌だね!」
すっかりジュリアスの機嫌を損ねてしまったようだ。
「……せっかく持ってきたのになぁ……」
ガッカリして料理を見つめた。食べかけの料理がテーブルの上で虚しく湯気を立てている。
ふと、こちらに注がれる視線を感じた。それに気づいて顔を上げると、ジュリアスが私を見ていた。
「……食べてほしいの?」
「うん」
食べてくれるのだろうか? 思わず私の顔がほころびる。
ジュリアスはいつの間にか不機嫌から立ち直ったらしい。涼しい顔に笑みを浮かべてこちらを眺めている。
「香姫は僕の看病をしてくれるために来てくれたんだよね?」
「そうだけど……」
嫌な予感がする。この表情のジュリアスは何か企んでいる。
「じゃあ、看病するついでに僕にご飯食べさせてよ?」




