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不可思議少女は今日も可視する  作者: 幻想桃瑠
◆最終章◆【鳥居香姫は不可思議な二人と共に元の身体に戻る】
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第一話 シャード先生とリリーシャ*

 宮殿に帰ってきたアレクシス王子は、室内を歩き回っていた。護衛人たちは跪いたまま、その様子を目で追っている。


「香姫さんが賞金首を二人も倒すとは思いませんでした! 私の想像以上です!」


 アレクシス王子にしては珍しく興奮している。ついにアレクシス王子の本願が遂げられる。護衛人のウィンザーも笑みを浮かべた。


「アレクシス様、時は熟したのではありませんか」

「ええ。もうそろそろ、良いかもしれませんね」




・*:..。o○☆*゜¨゜゜・*:..。o○☆*゜¨゜゜・*:..。o○☆*゜¨゜




 ジュリアスがまだ目覚めないので、私はその間魔法学の授業に出ていた。

 いつも通りにチャイムが鳴り、私は席に着く。

 シャード先生が入ってくると、ざわめきは個々の席の中に納まった。

 シャード先生の目が、私の隣の空席に留まる。


「シェイファーはどうした?」

「えっと、病欠です」

「そうか。珍しいこともあるもんだな」


 リリーシャの事を秘密にしているので、ジュリアスの事も隠すしかない。そんな私を、シャードは疑問にも思っていないようだった。

 無事に事が運んで安堵する私の横を、虹色の風がふわりと舞った。


「えっ!?」


 リリーシャの形を取って、それはアリヴィナの席の前に降り立った。私は慌てて、それを目で追う。


『アリヴィナ~』


 何してんだ、この人!

 私は焦って必死にジェスチャーして訴えていたが、リリーシャは全然気づいてくれない。

 最悪なことに、アリヴィナはリリーシャの声が聞こえたらしく、パッと顔を上げた。

 だが、私以外には見えていないらしく、アリヴィナは周りを見渡して不審がっている。


 その時、しなくていいのに、リリーシャが姿を現した。


『アリヴィナ、おひさぁ~』


 その時のアリヴィナの顔ったらない。怖気だったように髪の毛を逆立てて、絶叫した。


「ぎゃああああああああああ! 出たァ!」


 シャード先生の魔法黒板に書いていた文字が、ミミズがのたうったように歪んだ。


「ど、どうした? ロイド?」


 シャード先生も、クラスメイトの面々もギョッとして、アリヴィナに視線を集中させた。

 リリーシャの姿はそこにはなく、アリヴィナは必死で周りを窺っている。


「シャード先生! あのリリーシャが出たんです! あのおぞましいリリーシャが!」


 アリヴィナの口は恐怖で戦慄いていた。

 クラスメイト達は、一体何が起きたのか分かっていない様子で、リリーシャを名乗る私の方にも視線が集まった。


「あ、アリヴィナさん、私はここにいるよっ?」


 アリヴィナは私を見て落ち着きを取り戻した。


「あ、そうだよね……リリーシャは記憶喪失になって、性格が浄化されたはずだよね……ははっ……」

「アリヴィナ、疲れてるんじゃねぇの?」

「うん……そうかも……」


 アリヴィナの隣席のガーサイドが怪訝そうな顔をしている。

 私は、アリヴィナに愛想笑いを届けておいた。そして、隣に舞い降りている姿を消したリリーシャを見てげんなりした。

 リリーシャはそんなアリヴィナの様子を見て悦に入って笑っている。まったく良い性格をしている。


「ローランド」

「え、は、はい!」


 私は、シャード先生に呼ばれて吃驚した。シャード先生は私が虚空を見ていたことに疑問を持ったらしい。そして、アリヴィナの先ほどの騒ぎも。


「ローランド、話がある。授業が終わったら残っていなさい」


 やはり、シャード先生は鋭かった。



・*:..。o○☆*゜¨゜゜・*:..。o○☆*゜¨゜゜・*:..。o○☆*゜¨゜



 授業が終わって、クラスメイト達は私を気に懸けながら教室から出て行く。クラスメイトが廊下の端までいなくなったのを確認すると、シャード先生はドアを閉めた。


「鳥居、私は何があったのか報告を受けていないんだが」

「シャード先生、流石ですね。でも、私は授業の後で報告するつもりでした」


 オーロラのような風がふわりと舞って終結した。


『パパ! 元気してた?』

「……っ!?」


 いきなり姿を現したリリーシャに、シャードは震えて口元を手で押さえた。涙が、右目から零れた。


「リリーシャ!? 鳥居、一体どうなってるんだ?」

「私、皆と一緒に蟻地獄のデュランと魔術師レリック=グレイを倒したんです!」

「なっ!?」


 私が事の顛末を説明すると、シャード先生は驚愕の限りを尽くした表情になった。

 リリーシャは、不敵に微笑む。リリーシャは事の経緯をシャード先生に説明した。私に身体を貸すということも、私が賞金首を倒した賞金で新しい身体を作るということも。


「まったく! 無茶をするなと言ったのに……!」


 この後、私とリリーシャはシャード先生にこってりとしぼられて、お説教をさんざん聞かされた。

 シャード先生はしょうがない子供を見るような目で私を見ていた。その目から愛情が伝わってくるのは気のせいなのだろうか。すこし、シャード先生の悲観的な声が明るくなった気がした。


 これで、事態は万事解決する方向に向かっていると考えていた。

 けれど、私は忘れていたのだ。自分が可視使いであるということを――。


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