第六話 運命の出会い
私は、校舎の中を探検していた。まるで、ヨーロッパのお城の中に迷い込んだような感じだ。私はすぐに夢中になった。
私がいた学校とは廊下の広さも、校舎の規模も違う。少々派手に駆け抜けたとしても差し障りのないような、ゆったりとした造りだ。天井も高くて、声が響きそう。白い石造りの壁は複雑な模様が刻まれていて、天井で緩やかなカーブを描いている。
その壁には、アーチ形の窓が敷き詰められるように続いている。そこから日の光が差し込み、廊下の床に影を作っていた。
まだ早朝であるせいか、そんなに騒がしくない。時折、手前から吹き抜けてくる風に乗って、話し声が楽しげに通り抜ける程度だ。
リリーシャに転生してから幽霊の気配も全くしなくなった。それだけが、今の幸せかもしれない。
「困ったな……」
向こうから、低い声と足音が聞こえてきて、私は顔を上げた。
開いたデータキューブを手に歩いてくる人がいた。金髪碧眼の男子だった。年は私より頭一つ分くらい高い。リリーシャたちの年代からすれば、平均的な背格好だと思われる。
どうかしたの?
尋ねようとして、言葉を呑みこんだ。
私は、尋ねられる立場じゃない。彼の疑問には答えてあげることはできないだろう。
この魔法学校の事を何も知らない。魔法すら使えない。この異世界の事も何も知らない。中身がリリーシャならともかく、鳥居香姫ではとても無理な話だ。
無力感を感じて立ち止まっていると、彼が私に気づいて顔を上げた。
「あ、君!」
「えっ?」
彼に呼び止められて、私は瞬間凍結した。
彼は目鼻立ちのはっきりした顔をしていた。金髪の髪の毛をひっつめて後ろで結んでいる。余った髪の毛がふわふわと揺れているのは、天然パーマだからだろうか。しかし、それも良く似合っている。
彼も、私と同じような制服のローブを着ている。その下には八分丈の紺のパンツを穿いていた。これが、男子の制服なのだろう。足元は私の靴と変わらないようだ。
「君は、魔法学校の生徒だよね?」
制服はこの学校のものなのに、彼はここの生徒ではないのだろうか。
「そうだけど……」
魔法学校の生徒だけど、私は何も知らない。罰が悪そうに視線を逸らすと彼は口元に笑みを作った。
「じゃあ、リリーシャ・ローランドって知らないかな?」