第十五話 四章完結 培養*
クレア先生はブレッツのスムージーをみんなに配っている。ブレッツのスムージーを飲むと心が安らぐ。魔法学校の医務室に帰ってきた安堵感がある。
クェンティンはベッドにもたれている。私はもう一つのベッドに視線を走らせた。ジュリアスはまだ眠っていた。クレア先生はもうすぐ目を覚ますというが、心配なことこの上ない。
「と、言うわけなんです!」
私は、アレクシス王子とクレア先生、意識が戻ったクェンティンに、これまでの経緯を説明した。
クレア先生もアレクシス王子もその事実に驚いていた。
リリーシャの事に触れたとき、クェンティンの瞳が揺らいだ。彼はリリーシャは殺されたと思っているので、生きていることが信じられないようだ。
「じゃあ、リリーシャはこの近くにいるのか……? だってそこにいるのは、香姫で……」
七色の風が私に舞い降りた。
「可視言霊!」
アレクシスが王族しか使えない呪文を唱えた。
途端に、リリーシャの身体が光を帯びて可視化する。『彼女』はクェンティンの傍まで来て、彼を小突いた。
『クェンティン、しっかりしなさい! それでもあんた、私の彼氏なの!?』
いきなり戻ったリリーシャを目の当たりにして、クェンティンの目から涙が零れた。
「り、リリーシャ! リリーシャ!」
クェンティンは、リリーシャを泣きながら抱きしめた。リリーシャは、クェンティンの頭を撫でている。
『あんたにしちゃ、よく頑張ったわ。褒めてあげる。いいこと? 私、可視使いの香姫に私の身体を貸すわ。そして、私は傍からサポートするの。だから、もう少し待って』
「分かった!」
クェンティンはリリーシャのワガママに付き合うようだ。だが、私は納得いかなかった。
「でも、私はリリーシャに身体を返すよ!」
『ダメよ! そんなの面白くないじゃない!』
「一つ私に提案があるのですが」
軽く手を上げているのはアレクシス王子だ。
「アレクシス様……!」
『提案って何? 言って御覧なさい!』
リリーシャをアレクシス王子は面白そうに見て、フフッと笑った。
「私が運営している王立の魔法研究所があるのですが、そこで香姫さんの身体を作ってみませんか?」
「えっ!? 私の身体をですか……!?」
「費用は五億ルビーかかるのですが……」
「五億ルビーって、私がどれだけ働いたら払えますか?」
「普通に働いたら一生かかっても無理よ」
クレア先生が渋い顔をして言った。
「そんなの無理じゃないですかっ……!」
私が泣きそうになると、リリーシャが私の前に舞い降りた。
『香姫、良く考えなさい! 無理じゃないわよ!』
「そうだ、無理じゃない! だって、香姫は賞金首を二人も倒したんだから!」
クェンティンの言葉に気づかされ、私は希望の光で照らされた。
「そっか……!」
「そう言うことです。ウィンザー、彼を呼んでください」
アレクシス王子が護衛人のウィンザーに指示を出す。ウィンザーは跪いて、神妙に返事した。
「かしこまりました! 可視編成!」
ウィンザーが瞬間移動の魔術で消えた。そして、しばらくすると、誰かを連れて瞬間移動の魔術で帰ってきた。
「アレクシス様、お呼びでしょうか?」
黒髪と白衣がふわりと揺れた。彼はそのまま、アレクシスに跪く。
「澄恋君……!?」
それは、景山澄恋だった。
「彼女に『鳥居香姫』の身体をお作りして」
「かしこまりました。数日かかりますが、宜しいですか?」
「は、はい!」
私は、夢見心地で返事した。まさか、私の身体を澄恋が作ってくれるとは。
「よろしくね、香姫さん」
「こちらこそっ!」
澄恋は、ベッドの方に視線を走らせた。
そして、横たわっているジュリアスに気づいて目を細めた。
そして、私に視線を戻すと、クスリと微笑んだ。
「では、またご連絡いたします」
「はい! よろしくお願いしますっ……!」
そして、澄恋は魔法研究所に帰って行った。
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┃四┃┃章┃┃完┃┃結┃┃!┃
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◆◇◆――……第五章に続く……!――◆◇◆




