第十三話 香姫とリリーシャ
確実に勝てる戦いだったはずだ。それなのに、私のせいで逆転負けになってしまった。
「ジュリアス君!? ジュリアス君!?」
パニックになった私は、むやみやたらにジュリアスの身体に突き刺さっている矢を抜こうとした。
私が矢に触れると、それは光の粒になって霧散した。
矢は消えたが、ジュリアスの身体はボロボロだった。彼の服に付いた血を見て私の手が震えた。
「あ……あ……!」
このままだと、ジュリアスを失ってしまう。
ジュリアスは私の事をいつも守ってくれた。窮地に陥った時は、必ず私を助けてくれたというのに。それなのに、私はなんて無力なのだろう。それどころか、ジュリアスの敗因になってしまうだなんて。
「彼に構っている暇なんてないんじゃないかな?」
気が付くと、レリック=グレイは私のすぐそばまで来ていた。
恐怖で視界が揺れる。レリック=グレイの手が私の首に伸びる。
嗚呼、私はまた殺されてしまうのか。
「可視編成!」
その時、二重音が高らかに響き、魔法弾がレリック=グレイを跳ね飛ばした。
「クェンティン君……!」
クェンティンが空を閃光のように飛び、レリック=グレイの懐に飛び込んだ。
「リリーシャの仇!」
クェンティンはレリック=グレイの髪の毛をむしり取った。その事が、更にレリック=グレイの怒りを買った。
「ウザいんだよ! 可視編成!」
近距離で魔法弾を叩きこまれ、クェンティンは地面に叩きつけられた。
あまりの事に、ショックで涙が止まった。
「クェンティン君!」
もつれそうになりながら、私はクェンティンの元に駆けよった。
「香姫……! これを……!」
クェンティンは、私にレリック=グレイの髪の毛を手渡した。クェンティンの意図していることは、私にも伝わった。私は、頷いて見せる。
クェンティンは、そのまま気を失ってしまった。
「クェンティン君!?」
「次はお前の番だ!」
私は後ずさりしながら、レリック=グレイの髪の毛を見た。
レリック=グレイの弱点はどこ!?
疑問を持つと、自然に私は可視出来た。思った通りレリック=グレイの髪の毛には、残留思念があった。
レリック=グレイがデュランによって窮地に立たされた場面が見える。デュランは彼の弱点を狙って、レリック=グレイの身体を手に入れたのだ。
「……っ!?」
足が滑って、私はその場に転んでしまった。
レリック=グレイが私に馬乗りになる。彼の手が伸びてきた。
「お前は、魔法を使えないんだろう? なら、私が魔法を使うまでもない」
このまま、私は死んでしまうのか。シャード先生にリリーシャを返すと約束したのに。その約束を破るだけならまだしも、私のせいでジュリアスもクェンティンも道連れにしてしまうのか。
「や……だ……」
私の目の可視力が強くなる。
その時、虹色の風が私の身体に舞い降りた。
意志とは関係なく、私の手はとんでもない力でレリック=グレイの身体を突き飛ばしていた。
「なっ!?」
レリック=グレイはいきなりの事に驚愕している。
『香姫、真似しなさい!』
リリーシャの声が頭の中で響いた。
どうやら、私とリリーシャは同化しているようだ。リリーシャが私に教える様に呼吸をする。そして、それは私に伝わっている。
『レリック=グレイの弱点は?』
左の目だよ!
「可視編成!」
私の声はちゃんと二重音になっていた。
そして、リリーシャが無数の矢をイメージした。それはちゃんと私にも感じ取ることができた。
レリック=グレイの手を掴んでいない左手をサッと薙ぐと、無数の矢が生まれる。そして、それはレリック=グレイの弱点――『左の目』に吸い込まれて行った。
「ぎゃあああああああああああ!」