第十二話 レリック=グレイとの死闘
「もしかして、本物の魔術師レリック=グレイ!?」
「そうだ。私が最強の魔術師レリック=グレイだ。蟻地獄のデュランには隙を衝かれてしまったがな」
レリック=グレイは表情の乏しい顔で私をじっと見つめていたが、微かに驚きを表した。
「おや? 殺したはずのリリーシャ・ローランドが生きているとは……?」
「私は、リリーシャじゃないもの。リリーシャの魂はここよ! 戻してもらうんだからね!」
「可視編成!」
「っ!?」
いきなり、魔法を使われたので、私は驚愕して目をつぶった。だが、何も苦痛を感じることがないので、恐る恐る目を開ける。
「……え?」
可視しても分からなかったキーホルダーの中身が透けている。しかし、その中身は空洞だ。
「見ろ。そのキーホルダーの中身は空だ」
「嘘でしょ!?」
「そんなはずは!」
「驚くほどの事ではない。リリーシャは私が殺したのだからな」
クェンティンは感情を揺さぶられて激昂した。クェンティンはレリック=グレイとの間合いを詰めると、魔法を繰り出した。
「うわあああああああ! 可視編成!」
「可視編成!」
クェンティンが出した水の龍は高速で迫った。だが、レリック=グレイが繰り出した魔法弾に跳ね返されて、そのままクェンティンを跳ね飛ばした。
クェンティンはぐったりして、意識を失った。
「クェンティン君!」
「次はお前だ。可視編成!」
「くっ!」
レリック=グレイが繰り出した魔法弾を、私はキーホルダーを盾にしてやり過ごした。
「猪口才な! そんなキーホルダーなんて壊してやる! 可視編成!」
レリック=グレイは、更に大きな魔法弾を撃ち込んできたが、しつこく私はキーホルダーを盾にした。
だが、亀裂の入る音がして、それは粉々に弾けた。
「嘘っ!?」
「終わりだ! 可視編成!」
逃げることもままならず、腰が抜けてその場に蹲ってしまった。
「可視編成!」
「えっ?」
レリック=グレイではない声がして、弾けるように目を開ける。すると、目の前にはジュリアスが居て、レリック=グレイの魔法弾を魔法弾で相殺していた。
「ジュリアス君!? どうしてここが?」
「リリーシャの幽霊が僕をここに連れてきたんだ」
「でも、あれはデュランが作った人形なの!」
「デュランだって!?」
ジュリアスはデュランがここにいたことを知って、吃驚している。
「デュランは私が追い払ったから大丈夫だよ! でも、本物のレリック=グレイが!」
「分かった! 僕が香姫を守るから!」
ジュリアスは構えたまま呪文を唱えた。
「可視編成!」
「可視編成!」
魔法独特の二重音が響き渡り、レリック=グレイの作り出した炎の龍は、ジュリアスの水の龍が巻き付いて掻き消された。
「す、すごい……!」
ジュリアスの実力は、レリック=グレイと同等か。いや、レリック=グレイは息を切らしているが、ジュリアスは平然としている。もしかすると、ジュリアスの方が実力が上なのかもしれない。
ジュリアスがレリック=グレイと戦っているのを、私は手を組み合わせて祈るように見ていた。どう考えても、ジュリアスの圧勝だ。このまま行けば、ジュリアスはレリック=グレイに勝てる。
しかし、どう考えてもレリック=グレイが押されているのに、彼は不気味に笑みを口端に浮かべていた。嫌な予感がした。それは、ジュリアスも同じだったようだ。
「何が可笑しい?」
「いや? 香姫さんを守ると言ったが、君と彼女が引き離されていることにまだ気づかないのかと思ってね。果たして、彼女を守れるかな? 可視編成!」
レリック=グレイはくるりと向きを変えて、私に無数の魔法の矢を浴びせようとした。
私は、一目散に逃げた。
「可視編成」
しかし、レリック=グレイの魔法で私の足は草に絡め捕られ、転んでしまった。
「しまっ……!」
私は怖くて目を閉じていた。しかし、何も起こる気配がない。恐る恐る目を開けてみると、私を庇うようにジュリアスが立っていた。
「ジュリアス君、ありが――」
安堵して礼を言おうとした。だが、彼の身体が傾いて来てそのまま地面に突っ伏してしまった。
「ジュリアス君!?」