第十話 香姫VS蟻地獄のデュラン*
あんなに魔力の高い賞金首の身体を乗っ取るだなんて。このままだとコテンパンにやられてしまう。
「知ってるわ。魔術師レリック=グレイでしょ」
とにかく、話を繋いで時間稼ぎするしかない。震える唇で言葉をなんとか紡ぎだすと、デュランも話に乗ってきた。
「そう! これが、魔術師レリック=グレイの魂……」
デュランは魂をキーホルダーからつまみ出すと、口の中に放り込み、咀嚼してそれを呑みこんだ。
「げふっ! 流石、四億ルビーの魂……うまかった!」
満足したようなその表情に私はゾッとした。デュランはゲーム好きの愉快犯だと勘違いしていた。彼の目的はやはり魂を食べることなのだ。
体が震えて冷や汗が頬から垂れる。恐怖でどうにかなってしまいそうだ。けれども、私は話を繋がないといけない。デュランの話が終わりを告げた時、私は魂を食われてしまうだろう。
「もしかして、リリーシャの魂も食べたの……?」
「もしかして、こいつがリリーシャの魂を奪ったのも知ってるってわけか?」
「可視したから……」
「おれは、特別に上手い魂しか食わねぇ。香姫のような特別な魂しかな。リリーシャの魂はそのキーホルダーの中に入ってるぜ。そう言ったら、あいつは必死でそれを奪いに来たよ。パスワードはないから開かないけどな?」
クェンティン君……!
彼は、リリーシャの魂を守るために必死だったのだ。クェンティンの気持ちを考えると、目から涙が零れた。
「じゃあ、私が見たリリーシャの幽霊は……?」
「くくく! 良くできてるだろ? 俺が魔法で出した人形は! 流石、四億ルビーの身体だぜ!」
「人形ですって!? あのリリーシャは、貴方が作り出した人形だっていうの?」
まさか、クェンティンは人形のリリーシャに倒されたのだろうか。なんて、残酷なことをするのだろう! 私の心の中を怒りの感情が渦巻いた。
どうにもならない怒りのせいで、つい押し黙ってデュランを睨んでいた。
デュランは、レリック=グレイの身体でクッと笑った。
「香姫の魂もこのキーホルダーの中に吸い込ませようと試みたことがあるんだが、無理だった。だから、勝負を挑むのでとっとと負けろ」
「えっ!?」
「レリックグレイの身体だと、こーんなこともできるぜ? 可視編成!」
「く……クェンティン君……?」
クェンティンがむくりと起き上がった。
しまった! デュランの話を終わらせてしまった。そのせいで、デュランに魔法を使わせてしまった。
「嗚呼、可哀相! だから、傷を治してやろう。可視編成!」
デュランの魔法を受けて、クェンティンの傷が治っていく。
「なんて優しい俺!」
「クェンティン君……?」
クェンティンは、不気味に目を閉じたまま、だらんと手を垂れ下げて佇んでいる。
万が一にも間違って、デュランがクェンティンを素直に助けてくれないだろうか。
そんな甘い考えが脳裏をよぎった時、クェンティンがカッと目を見開いた。
「ひっ!?」
「可視編成!」
クェンティンは魔法を使い、私を風で吹き飛ばした。
「きゃああああああ!」
私は数メートル吹き飛ばされて、地面にバウンドした。擦り傷を負った私は、咳き込みながら上体を起こす。全身がズキズキと痛む。
「ううぁ……あっ、そうだ……!」
我に返った私は、手に握りしめていたものを確かめた。
よかった! リリーシャの魂の入ったキーホルダーは手放さずにちゃんと持っていた。
「さあ、クェンティン、やってしまえ!」
クェンティンがぎろりと赤い目で私を睨む。
次に呪文を唱えられたら、私は無事ではいられない。
「可視編成!」
けれども、無情にもクェンティンが魔法を唱えて、私に魔法弾を放った。
避けることもままならない。考えに考えた私は――!




