第六話 魔導師アルテミス……?*
女子寮の自分の部屋に帰ってきた私は、早速リリーシャの机の引き出しを開けた。シャード先生から、リリーシャが魔術師アルテミスに会った時に身に着けていたものを聞き出したのだ。
それは、四つ葉のクローバーのペンダントだ。早速、リリーシャの机の引き出しからペンダントを取り出した。
私は、目の前にペンダントをぶら下げて、呼吸を落ち着けた。時間が経ったものを可視するのは、ひどく疲れるが仕方がない。
目に力を込めてそれを可視する。録画の映像を巻き戻すように、早回しで残留思念が動いて行く。
「くっ……!」
流石に、一ヵ月も前の事を可視するのはきつい。力を使いすぎて汗だくになっていた。
その直後、リリーシャが見知らぬ人と喋っている姿を目撃できた。早回ししていた残留思念を再生させる。
リリーシャと喋っている彼は、世界的な魔術師だけあって、威厳のある顔つきをしていた。釣り目にかぎ鼻そして、笑うと右端が上がる口元。そして、値段が高そうな黒いローブにマント。普通の魔法使いとは一線を画していた。
『あんた、もしかして! 魔導師のアルテミスじゃない!?』
『よく御存じですね、お嬢さん』
『ベルカ王国に住んでたらそりゃ知ってるわよ!』
リリーシャは憧れからか目をキラキラさせて、彼と親しそうにしゃべっている。世界的な魔導師が、こんなに簡単に世間に現れるのだろうか? 本当に、彼は世界的な魔法使い……?
私は知らないうちに彼を可視していた。
まずい、彼の裸が――。あれ?
彼の裸は見えた。だが、今回はお決まりの展開とは少し違っていた。
彼の顔まで別人に変わってしまったからだ。
涼しげな目元に筋の通った鼻。笑うとそれなりに見栄えがすると思われるが、彼は表情が乏しかった。
「この人は一体……?」
私は、彼の顔を記憶した。
そして可視するのを止めて、そのままベッドの上に飛び乗って大の字になる。これで、シャード先生とリリーシャが騙されていたという説が濃厚になった。おそらく、私が可視したときに見た別人の顔が、リリーシャを殺した黒幕なのだ。
「明日、誰かに相談しなきゃ……」
可視した疲労で眠くなり、私はそのまま眠ってしまった。
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翌朝。食堂で朝食を済ませた私は、クレア先生に相談しに医務室の前まで来ていた。
校舎の中は静かで私の足音しかしない。新しい朝日が窓から降り注ぐのを、歩きながら眺めていた。
ふと、前から足音が聞こえて顔を上げる。
「えっ、澄恋君……っ!」
景山澄恋が目の先にいたので、心臓がひときわ大きく高鳴った。
吃驚して立ち止まると、澄恋も私に気づいて柔らかく微笑んだ。
自然と私の顔が紅潮する。
「やあ、香姫さん。ちょっとお話しない?」
「え、う、うん!」
私は、笑顔で澄恋の元に駆け寄る。
医務室の前の窓枠にもたれながら、私と澄恋は背中に柔らかな太陽の光を浴びていた。
こうして二人で寄り添うと、日本に戻った時の思い出が花咲く。
「澄恋君は、どうしてベルカ王国にいるの?」
「……ある人に拾われて、気が付いたらここに」
「そうなんだ。私とおんなじだね」
「でも……僕は記憶がなくてね」
「えっ!?」
記憶がない? 私の事を知らないというのはそういうことなのか。
「困っていたら王立の魔法研究所に拾われたんだよ」
「澄恋君も苦労したんだね……」
「ところで、香姫さん……」
『香姫さん』か。少し寂しい気持ちになった。澄恋は『香姫』と呼んでいたのに。これも澄恋が記憶喪失だからなのか。
「その腕輪、どこで手に入れたの?」
澄恋の視線が腕輪に留まる。そういえば、彼は初めて出会った時も腕輪の事を気にしていた。何故なのだろう。
「この腕輪は友達がくれたの! 良いでしょ~!」
「ふーん……友達って男?」
「う、うん……」
明らかに、澄恋は不機嫌になった。
腕輪の事を気にしているのは、もしかして嫉妬してくれているのだろうか。澄恋は私の事をどう思っているのだろう?
疑問を持ってしまったがために、澄恋の服の下が透けて見えた。
「っ……!?」
「どうしたの? 大丈夫?」
澄恋の筋肉は、無駄がなく引き締まっている。それに加えて優しそうなその甘い表情。
「わああああ……!」
「香姫さん、本当にどうしたの?」
澄恋がクスッと笑って私に迫ってきた。私の視界はぐるぐる回って、その場に倒れてしまったのだった。




