第四話 シャード先生の特別授業
チャイムが鳴り終わる。暫くするとシャード先生が魔法学の教室のドアを開けて入ってきた。
私は、慌てて席に着く。すると、隣の席のジュリアスが「あ!」と声を上げた。
「ジュリアス君、どうしたの?」
「いや……すっかり忘れていたと思って……」
「何を?」
まったく、見当もつかなかった。けれど、答えは私の目の前にいた。シャード先生が、自分に気づかせるように名簿で机を叩いていていた。
「リリーシャ・ローランド。課題はやってきただろうな?」
「あっ!」
鈍い私は、その事にやっと気が付いた。イザベラの事でごたごたしていて、すっかり課題の事を失念していた。私の返答を聞いたシャード先生の顔つきが険しくなった。私の思わず上げた私の声が何を意味しているのか、シャード先生が気付かないはずがない。
「あっとはなんだ? まさか、一ページもやってきてないのか?」
「すみません……一ページもしてません……」
シャード先生は、フッと笑った。私も引きつりながら愛想笑いを浮かべる。
だが、シャードの笑い顔は、いきなり般若のごとく変貌した。
「いい度胸だ。放課後、みっちり補習してやる」
「ええーっ!」
「話したいこともあるし、いい機会だ。楽しみにしていろ」
難解な魔法学の授業と、得体のしれないシャード先生。百歩譲っても楽しみにできるはずなどない。
そして、今日の授業に身が入らないまま、ついにその時がやってきたのだった。
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放課後。魔法学の教室の付近は、生徒の声もあまりしなくて閑散としている。
ジュリアスとクェンティンが、魔法学の教室まで私を送ってくれた。彼らの言うことには、私から目を離すと、いつも事件に巻き込まれるかららしい。
「ジュリアス君、クェンティン君、もう行っちゃうの?」
「ああ。今日は、特に用がないからね」
「そっか、今日は補習だったな」
「う、うん」
こんなにひっそりとしている魔法学の教室で、シャード先生と二人きりで補習とは、果たして本当に無事で帰れるのだろうか。シャード先生は私が倒れた時にずっと付き添ってくれていたけれど。あの厳しい指導がどうにも私には合わないのだ。
「まあ、取って食われないって」
クェンティンが私の緊張を解こうとした。
ジュリアスもクェンティンも、シャード先生の事はちっとも警戒していないらしい。暢気に笑っている。私にとっては笑い事じゃないけど。
「でも、シャード先生は私の事恨んでるかもしれないから……」
「そうだね、もしかしたら煮て食われるかもしれないけどね」
「ええっ!?」
ジュリアスが、意地悪くおどけた。ちっとも冗談に聞こえない。
その後ろで、咳ばらいが聞こえた。私は振り向いて泣きそうになった。
最悪なことに、開いたドアの向こうにはシャード先生が立っていたのだ。
「誰が、煮て食うんだ?」
「なんでもありません……っ!」
「ウワサをすれば影だ。じゃあね」
ジュリアスは余計な事を言い残して手を振った。
「またな、リリーシャ」
クェンティンもサッと手を上げると、二人は魔法学の教室から退室した。
そんな……!
私は二人の残像にすがるように手を伸ばしたまま固まっていた。
「席に着きなさい」
シャードの声に震えて、私はぎこちない仕草で席に着く。シャード先生も椅子を持って来ると、私の前に腰かけた。
「データキューブは?」
「あ、そうだった……!」
データキューブを取り出すと、シャード先生が呪文を唱えて開いてくれた。私は、ノートとペンをスタンバイする。
「鳥居、今日は、お前のために特別授業をしてやろう」
シャード先生は、フッと笑った。特別授業。その言葉を深読みしてしまう私は疲れているのか。