第二話 イザベラの供述
医務室の中に入ると、アリヴィナとイザベラは既に目覚めていた。クレア先生の可視編成が良く効いたようだ。
イザベラはカヴァドール、アリヴィナはガーサイドとクェンティンで雑談していた。
「みんな元気になってよかったけど、一体何があったの?」
「私は、イザベラに可視編成をかけられて、目覚めたらここに」
「そんなの私知りませんわ!」
「すっとぼける気?」
アリヴィナはイザベラに不意打ちされたことを根に持っているようだった。ジト目をして、ハモンドを睨んでいる。
「ホントなの! もっと言えば、私はロイドさんに魔法勝負で負けてから記憶がないの!」
「どういうこと?」と、クレア先生が訊いた。
「ロイドさんに魔法勝負で負けて泣いていたら、女の人に声をかけられて」
「女の人?」
「クレア先生と同い年くらいの女の人」
「知ってる人?」と、私は突っ込んで尋ねた。
「全然、知らない人よ。その人が紺の傘をさしかけてくれたの。『大丈夫?』って訊かれて、慰めてくれるのかなって思ったら、いきなり呪文唱えられて、私、眠っちゃって」
「ええっ!?」
あまりのことに、一同は驚愕した。
「詳しいことは、ジュリアス様がご存じだと思うんですけど……」
イザベラは頬を染めてジュリアスに話を振った。しかし、ジュリアスはそっけない。
「……君は、地下室でロイドと一緒に眠っていたんだよ」
「そ、それだけですか?」
「そう。それだけ。それをたまたま先生の用事を言い使った僕らが見つけたというわけ」
「でも、ジュリアス様がおんぶしてくださったんですよね?」
「言っておくけど僕は、友達のふりして人を陥れようとする子は好きじゃない。まずは、リリーシャに謝るべきだと思うけど」
イザベラはワッと泣いて、医務室の外に走り去った。
「イザベラ!」
メリル・カヴァドールがそれを追いかけて行った。
「ジュリアス君、でも、イザベラさんは何もしてなかったじゃない」
「忘れたのか? ハモンドは君を止めれたのにワザと止めなかったんだ」
「あ……でも、油断してフォーネに魅せられた私も悪かったから」
そんな私をどう思ったのか分からないが、ジュリアスは口元を綻ばせた。
「全く……君は甘すぎるよね」
「そ、そうかな……?」
微笑んだジュリアスに目が釘付けになった。甘い私に呆れているのだろうか。けれども、いつもの意地悪な微笑ではない。
「そうそう。以前のリリーシャだったら考えられないわよ」
アリヴィナの声が割り込んできて、私はぎくりとなった。まさか、私の正体がバレたのか。
「リリーシャが記憶喪失になってから、あんたの性格も浄化されたみたいだよね」
「う、うん」
アリヴィナは勘付いていなかった。全身から力が抜けていく。アリヴィナに正体がバレたらと、恐怖してしまう。コテンパンに魔法で叩きのめされて、ずっと敵視されるかもしれない。それだけは、避けたい。
「イザベラに眠らされたのは一生の不覚だったけど。まあ、魔法勝負に負けたわけじゃないから良いわ」
「そうだね。アリヴィナさん強いもんね」
「あんたがそれ言う?」
そうだった。本物のリリーシャは強いんだった。私は誤魔化すように笑った。
「アリヴィナ食堂に行こうぜ。まだ、何も食べてないんだろ?」ガーサイドがアリヴィナに言った。
「あ、そうだった」
アリヴィナは、ベッドから降りると、靴を履きだした。
ガーサイドは隙を見て、私の耳元でささやく。
「黙っててやるから、魔法勝負よろしくな!」
「ちょ!?」
「じゃあな~!」
用件だけはしっかりと言い残すと、アリヴィナと一緒に退室してしまった。どうしよう。まさか、本当に魔法勝負をしないといけないのだろうか。
クェンティンがそれに気づいてにこにこしながら声をかけた。
「大活躍だったもんな、リリーシャ」
「大活躍?」
それを聞いたクレア先生が怪訝そうに私たちを見ている。
「あ!」
「ノースブルッグ!」
私とジュリアスは大慌てになった。
「えっ? 言ったらダメだったのか?」
ここから、誤魔化すことは容易ではないだろう。クレア先生の半眼から放たれた鋭い視線が私たちに突き刺さる。
「大活躍ってどういうことかな? 先生に分かるように説明しなさい!」
最後には、クレア先生は怒鳴っていた。鬼のようになっているクレア先生に私たちは恐れをなしてビクッと飛び上がった。もはや、言い逃れはできなかった。