表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不可思議少女は今日も可視する  作者: 幻想桃瑠
◆第四章◆【鳥居香姫は不可思議な魔導師との対決で復讐に燃える】
55/226

第一話 可視酔いと初恋の人の異変

 彼は、私の声に気づいて振り返ってくれた。


「……何かな?」


 高い背も、低い声質も、艶やかな黒髪と漆黒の瞳も。何もかもが澄恋そのものだ。


 何故、澄恋はこの世界にいるのだろう。彼は元居た世界で交通事故に遭い、亡くなったはずではないのか。今は、この世界で何をしているのか。元気で暮らしているのだろうか。色々な質問がいっしょくたになって、口から飛び出そうになる。

 だが、再会を喜ぶ私に対して、澄恋の反応は乏しい。


「君……僕の事、知ってるの? 君とは初対面だよね?」

「えっ……?」


 澄恋の返答に狼狽えてしまう。しかし、すぐに私の姿がリリーシャだから分からないのだと自覚した。


「じゃあ、香姫の事なら知ってるよね? 私、鳥居香姫なの!」

「鳥居香姫……?」


 澄恋は怪訝そうな顔をするばかりだ。ついには、澄恋の苦笑が返ってきた。


「ごめん、その人も知らないんだ」

「えっ……」


 頭の中が疑問で埋め尽くされる。目の前の彼は、景山澄恋じゃなかったのか。いや、私の問いに返事をしたから確かに彼だ。だとしたら――。だとしたら、どうして私の事を知らない?

 あまりに衝撃的な出来事を体験してしまい、自分が可視使いであることをすっかり忘れていた。


「っ!?」


 澄恋に疑問を持った為、例によって私は澄恋の服の下を可視してしまったのだ。無駄のない筋肉に、細身の身体が視覚に訴えてくる。あまりの衝撃に眩暈を覚えた。澄恋の裸なんて一度も見たことがないというのに。


「おっと!」


 倒れそうになる私を澄恋は支えてくれた。


「大丈夫か?」

「うん……大丈夫……」


 間近で裸を見てしまい、あまり大丈夫ではなかった。私は澄恋に抱きとめられて、どぎまぎするばかりだ。

 澄恋が、一瞬驚いたような顔つきになった。


「香姫さん、可愛い腕輪してるんだね……」

「うん……」

「僕はちょくちょくこの魔法学校に来るから、また会おう」

「うん……」


 私の視界はぐるぐると回って、収まりがつかなくなった。澄恋に再会して有頂天になったからかもしれない。

 医務室のドアが開く音がした。


「リリーシャ、さっきから何やって……。リリーシャ!?」

「ふにゃ……」


 ふやけたセンベイのようになって壁にもたれている私に、ジュリアスが駆け寄って来た。彼は、私がデレデレになっている理由を知らない。


「一体、何があった!?」


 ジュリアスの表情は、心配と疑問が大半を占めている。彼の心配をよそに、私はヘラリと締まりなく笑っていた。


「えへへ、初恋の人に会っちゃった!」

「えっ……?」


 ジュリアスの表情が険しくなった。


「なんで、君の初恋の人がこっちにいるんだ? どう考えても変じゃないか!」


 ジュリアスの言葉が妄言に聞こえる。私は初恋の人の裸を見たせいで自分の視野に酔っていた。

 ジュリアスの裸を初めて見た時と同じ症状だった。視界がピンク色になって花びらが舞っている。


「ふにゃ……」

「まったく! 何を見たのか知らないけど、『可視酔い』するだなんて!」


 ジュリアスが呆れ返っている。でも、私の恋心は歯止めが効かないので、仕方がないのだ。

 ジュリアスが医務室のドアを開けて声を上げた。


「クレア先生! ちょっとこっちも診てくれませんか!」

「今日は忙しいわね」


 ドアの中から明るい声が近づいて来る。クレア先生はドアを閉めると、私の傍にしゃがんだ。

 私の頬を軽く手のひらで叩くと、頷いて診断を出した。


「可視酔いね! 一体、何を見たのかしら?」

「えへへ。初恋の人に再会しました~」


 私は酔っぱらったまま、両手でピースサインした。


「あら~、良かったわね~」


 クレア先生はジュリアスを見てニヤッと笑った。彼女は私たちの関係を完全に面白がっている。ジュリアスはジュリアスで、クレア先生のその視線にカチンと来たらしい。


「……クレア先生、完全に楽しんでますよね?」

「あら、シェイファー。そんなことないわよ? 私はただ、ローランドが初恋の人に再会しても別に変じゃないと思っただけよ?」

「変でしょ、だって……」

「全然変じゃないわ。だって、ローランドも転生したんだもの。彼も転生したのかもしれないじゃない」


 ついに、ジュリアスは黙ってしまった。


「怒らせちゃったかしら?」


 クレア先生は肩をすくめた。そして、私に可視編成をかけてくれた。やっと私は酔いから冷めて、元の気分に立ち返ることができた。


「クレア先生、ありがとうございます!」

「良いのよ~。シェイファーを怒らせちゃったけど、ごめんね?」

「ジュリアス君、あの……」

「僕は、変だって分かってるから。気を付けた方が良いよ」

「う、うん……」


 どことなく、ジュリアスはイラついていた。私の事を心配してくれているから、虫の居所が悪いのだろうか。


 それでも私は、澄恋にまた会いたいと思ってしまう。でも、もし蟻地獄のデュランのような罠だとしたら――。ジュリアスの言うとおり、用心に越したことはない。けれども、澄恋がそうであってほしくないとも願ってしまう。


 私の心の中では、期待が大半を占めていた。

 澄恋との出会いが、やっかいな事件の幕開けになるとも知らずに。


 ジュリアスとクレア先生が医務室の中に入って行く。廊下の端に目をやると、薄闇が襲い掛かってきそうだった。怯えた私は、ジュリアスの後に続いて入り、医務室のドアを閉めたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご感想・評価をお待ちしております。ポチッとお願いします→小説家になろう 勝手にランキングcont_access.php?citi_cont_id=186029793&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ