第十七話 三章完結 邂逅
ガーサイドは保護色のごとく、私たちに溶け込んでいた。だから、気付くのが遅れたのだ。そうだ。ガーサイドは、色々と私の可視使いを目撃していた。私の事を香姫と呼んでいた黒幕の事や、私が可視したことも。
困ったまま言いあぐねていると、ガーサイドが嘆息した。
「まあいいよ。お前らの事情は突っ込んで聞かないことにする。アリヴィナもイザベラも眠ってるから勘付いていないだろうし」
「ホント!? ガーサイド君、ありがとう!」
ガーサイドは考え方が男前だ。初めて出会った時の印象は最悪だったが、仲良くやっている今は結果オーライなのかもしれない。
「でも、どうして、ガーサイドは僕たちが地下室にいるってことが分かったんだ?」と、ジュリアスが尋ねた。
「ああ、マクファーソン先生が、地下室にいるかもしれないから行ってみろって仰って」
「えっ……? マクファーソン先生が?」
それは変な話だ。思わず私たちは顔を見合わせた。
「どうして、マクファーソン先生が、私たちがいる場所を知っていたんだろ?」
「そんな細かいことまでしらねーよ。魔法で調べたんじゃねえの?」と、ガーサイド。
「魔法……」
魔法はそんなことまでできるのだろうか。魔法で私たちがどうしているのか分かるのであれば、マクファーソン先生が助けに来てくれてもおかしくないのに。どことなく、釈然としない。
「リリーシャ!」
「な、何?」
考え事をしているときに、ガーサイドに大声で呼ばれてビクッと震えあがった。
「今日の古代魔法凄かったぜ! また俺と魔法勝負しろよな!」
「えっ!? 困るよ! 私、魔法使えないんだって!」
「謙遜すんなよな! じゃあな~!」
「ねぇ! ちょっと……!」
ガーサイドは、笑いながら手を振る。そして、アリヴィナを背負ったまま階段を上って行った。本当にまた勝負を挑まれたらどうしよう。
徐にジュリアスが私の肩に手を乗せた。
「まあまあ……今度勝負挑まれたら古代魔法でぶっ飛ばせばいいだろ?」
「リリーシャさんは無敵だからな?」
クェンティンまでからかうようにウインクしている。すっかり二人に祭り上げられて焦った。
「私、古代魔法なんか使えないんだって!」
「さあ、イザベラを背負って医務室に行くか」
「そうだね」
「ねえ、ちょっと、聞いてる? 私、魔法なんて……ねぇ!」
イザベラを背負ったジュリアスとクェンティンの後に続きながら、私は必死に訴えるのだった。
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ジュリアスが、眠っているイザベラを背負って歩いて行く。現在、私たちは医務室に向かっていた。
「今、イザベラさんが起きたら喜ぶんじゃないかな?」
イザベラの幸せそうな寝顔を見ながら階段を上がっていく。
「そんな面倒なことは嫌だよ」
ジュリアスは面倒臭そうに呻いている。しかし、クェンティンは上の空だった。
「……どうしたの? クェンティン君」
「いや、蟻地獄のデュランがリリーシャを殺したんじゃないとしたら、一体誰がそうしたんだろうと思って」
「そうだね……一体誰が……」
蟻地獄のデュランの言っていることは真実なのだろうか。もしかすると、自分がやっていてすっとぼけている可能性もある。今回も、気が付けばデュランを取り逃がしてしまった。また、彼は仕掛けてくるのだろうか。今回は、みんな無事で良かったけれど――。
魔法灯の点いた廊下を私たちは歩いていた。暫くすると医務室に着いて、ジュリアスがドアを開けた。
「失礼します。クレア先生、ハモンドを診てもらえませんか?」
ジュリアスを先頭に入って行く。中では、クレア先生が驚いて何事か話している。
後ろから足音が聞こえて何気なく振り向くと、視界の隅に黒髪と黒目を捕えた。思わず目を見張る。私の横を初恋の人――景山澄恋が通り過ぎたからだ。
「あ……!」
「どうしたんだ?」
ドアを開けて待っていたクェンティンが不思議そうに声をかけた。
「ちょっと、先に入ってて。知り合いがいたから」
「分かった」
クェンティンは微笑んで、ドアを閉めた。私は、そのまま澄恋を追いかけた。
「澄恋君!」
声を張り上げると、彼は歩みを止めた。そして、振り返ってくれた。
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┃三┃┃章┃┃完┃┃結┃┃!┃
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◆◇◆――……第四章に続く……!――◆◇◆




