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不可思議少女は今日も可視する  作者: 幻想桃瑠
◆第三章◆【鳥居香姫は不可思議な景山澄恋との出会いを楽観視する】
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第十六話 窮地からの脱出

 パスワードは元から存在しない? 途方に暮れた私は、暫くの間ウォーグの魂が身体に入っているアリヴィナを見つめていた。

 ガーサイドは、悪い冗談だとばかりに顔をしかめる。


「おい、パスワードがないってどういうことなんだ?」

「分からないよ。でも、デュランがそう言ってる……」

「えっ……?」


 私の発言が可視使いのものとは知らずに、ガーサイドは眉間のしわを深くした。

 本当にパスワードがないとしたら、何か打つ手はないのだろうか。私は、やみくもに辺りを可視しようとした。

 その時、デュランと戦っているジュリアスとクェンティンに進展があった。


「可視編成!」

「可視編成! スキあり!」


 クェンティンの魔法を避けたデュランは、彼の背後に回り込んでデータキューブのキーホルダーを開いた。


「うわあああ!」


 クェンティンの魂はキーホルダーに吸い込まれてしまった。抜け殻になった彼の身体は地面に倒れてピクリともしない。


「ノースブルッグ!」


 ジュリアスが叫んで、クェンティンに駆け寄った。私も慌てて駆け付ける。


「クェンティン君!?」

「じゃーん、人質に取っちゃった」


 デュランはキーホルダーのチェーンを持って、それを私たちに見せつけた。


「さあ、ジュリアス。もう、お前は何もできないだろ。クェンティンと香姫の命を助けてほしければ、お前の魂を差し出せ」

「くっ……分かった」


 ジュリアスは、すぐに了解してしまった。私は慌ててジュリアスを止める。


「ダメだよ! そんなの嘘に決まってるじゃない!」

「じゃあ、香姫、今すぐにパスワードを言うんだな! もっとも、パスワードなんて最初から存在しないんだが!」

「どうすれば……!」


 可視した目で辺りを見回した。打つ手は本当にないのだろうか。このままでは本当に私も皆も――。

 その時、私の目の前を何かがサッと横切った。私はぎくりとして、横切った何かを目で追いかける。

 私の横に女の幽霊が浮かんでいた。あれは、古代魔法学の野外授業で可視してしまったあの幽霊だ。


「っ!?」


 私は、その幽霊に戸惑った。この内部がフォーネの遺跡の一部だから出てきてしまったのだろうか。また、この幽霊に魅入られてしまったら。私は慌てて、目をそらした。


『すべてを見通す者よ。詠唱せよ』

「えっ?」


 この女の幽霊が言ったのか。私は揺れる瞳でその幽霊を再び認めた。

 そして、私はまた、魅せられてしまった。


「エサディヒス・アレトヲノ・モ・ン・エテべス(全てのものを照らし出せ)」


 私はぼんやりしたまま、詠唱していた。口が勝手に動いていたと言った方が正しいか。詠唱の発音は可視編成よりも難しい。高音中音低音が入り混じって複雑だった。一人で詠唱するとなると、とてもできはしないだろう。今の私が、魅入られているからできることなのかもしれない。

 詠唱が終わると、遺跡の魔法陣が輝きだした。

 魔法陣は私の胸のあたりまで浮かび上がって光を放ちながら回り始める。

 そして、その魔法陣を潜り抜けた女の幽霊が実体化した。


「なっ!?」


 ジュリアスもガーサイドもそれを目の当たりにして絶句している。その女の幽霊は光を放ちながら私の目の前に降り立った。


「ま、まさか! これは! 導きの女神フォーネ!?」


 ジュリアスの言葉に、やっとデュランも我に返った。


「フォーネだと!?」

「オエスオ・ヒアック・オヲチホ……」

「やめろ……」


 構わず、詠唱している私を止めるべく、デュランが動いた。


「ネテブ・セティソス(そして、全ての者を解放せよ)」

「止めろと言っているんだこの野郎!」

「ロ・オ・ディス・コルン・ウ!(解錠!)」

「うがあああああ――――ッッッ!」


 デュランが牙をむいて襲い掛かってくる。私は、構わず魅入られたまま手を上げる。

 フォーネがサッと手を振りおろすと、まばゆい光が一面を覆い明滅した。

 そして、カチ、カチカチッと音がした。私たちが持っていたキーホルダーが開いたのだ。


 そして、キーホルダーに入っていた魂が元の器に帰って行く。ウォーグの魂とデュランの魂が追い出され、排水溝に吸い込まれて消えて行った。

 フォーネが手を振ると、光が一面を包み込んだ。


 気が付くと、フォーネは消えて、辺りはまた元の地下室に戻っていた。本や、本棚までちゃんと元の場所に戻っている。

 私はその場で膝を折って脱力した。


「リリーシャ!」


 ジュリアスに支えられて、私はハッと我に返った。


「あっ! 私……!?」


 どうやら、私も無事に生還できたようだ。


「どうなってるんだ? なんで、フォーネが……」

「私が洞窟で見た幽霊がフォーネだったんだね。もしかして、迷わせたお詫びに助けてくれたのかな?」

「うう……っ」


 うめき声が聞こえて、私たちは意識を取り戻したクェンティンに気づいた。


「クェンティン君! 大丈夫!?」


 私は、クェンティンに駆け寄る。クェンティンの体を起こすと、彼は恨めしそうに私を見た。


「いつもリリーシャは俺の事を驚かしてくれるよな」

「ホントに、リリーシャは意表をついてくれるよ」

「私だってびっくりだよ」


 クェンティンも、ジュリアスも笑っている。魔法の使えない私が、まさか古代魔法の方を使ってしまうだなんて。


「あれ? だとすると、あれがフォーネだということは、遺跡でイザベラが私に何かしたって言うわけじゃなかったんだ」

「彼女が止めなかったのは悪いと思うけどね」


 フォーネにしてみれば、自分の姿が見える私の事が面白かったのかもしれない。だから、私を魅せたのだろうか。

 イザベラもアリヴィナも眠りの魔法がまだかかっているのか、すやすやと寝息を立てて眠っていた。


「まあ、一件落着だね」

「うん!」

「何が一件落着なわけ?」

「が、ガーサイド君……!」


 私たちはすっかり、ガーサイドの事を忘れていたのだった。

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