第十四話 蟻地獄のデュラン
目の前にいるイザベラは、外見と中身が違う。彼女の中にいるのは、恐らく妖魔の賞金首だ。
「蟻地獄のデュラン! アレクシス王子の真似はもうやめたら?」
「あれ?」
鎌をかけると、デュランは面食らったように目を瞬いた。そして、肩をすくめて残念がった。
「なんだ、バレてたのか。香姫がここにいるってことは、腕輪の事もうまくいかなかったのか……」
「そうよ! あんたのせいで、拷問されるところだったんだから!」
観念したようで、デュランは口調まで替えた。やはり、アレクシス王子の真似も、腕輪の罠も、デュランの企みだったのか。
「失敗か……チッ……処刑されたら、香姫の魂を食べてやろうと思ったんだが……」
デュランは、舌打ちして悔しそうだ。外見はイザベラなのにすっかり別人だ。でも、デュランのセリフのお蔭で、アレクシス王子の言っていたことが立証された。やはりアレクシス王子は、私を蟻地獄のデュランから守ってくれていたのだ。
「お前が、俺のリリーシャを殺したのか!?」と、クェンティンが怒鳴った。
「人聞き悪いことを言ってんじゃねーぞ? お前のリリーシャなんて知らない。恐らく、他の妖魔がやったんじゃねぇの?」
他の妖魔……? 蟻地獄のデュランじゃないのか。それを聞いても、クェンティンの怒りは収まることを知らない。
「妖魔なら、誰だって一緒だ! 僕たちが取っ捕まえて、軍警に突き出してやる!」
「ふーん、できるもんならやってみな! そんなことより、また俺と一緒にゲームをしようぜ?」
「ゲームですって?」
蟻地獄のデュランはイザベラの顔でニヤリと笑った。また、クェンティンが乗っ取られた時のように、デュランに踊らされそうな嫌な予感がする。
「名付けて、『アリヴィナとイザベラを元に戻そうゲーム』! 可視編成!」
デュランが右足をダンと踏みしめると、そこから見る見るうちに景色が変わっていく。それは、コンクリートの床から始まり、壁を変え、天井に至った。見覚えのある外観だ。遺跡の洞窟のような装いに私は既視感を感じた。
「これって!?」
「じゃーん、フォーネの遺跡と景色を入れ替えました~。雰囲気出るだろ~?」
やはり、フォーネの遺跡だったのか。それにこの内部は、ビートン先生の野外授業で迷った時に見た、あの部屋そのままだった。
「それでこれだ! 可視編成!」
風が巻き起こり、アリヴィナが姿を現した。
「アリヴィナさん!」
「待って、様子が変だ!」
駆け寄ろうとした私を、ジュリアスが止めた。
アリヴィナは、カッと目を見開いた。そして、四つん這いになって、地面に爪を立てた。そして、唸り声と共に、よだれを垂らす。これはどう考えても、アリヴィナの中身ではない。
「ど、どうなってるの!?」
「実は、アリヴィナの魂とウォーグの魂を入れ替えてみたんだな、これが」
「ウォーグ……?」
「ウォーグってまさか!」
クェンティンは驚愕している。ジュリアスも、神妙に頷いた。
「ああ、別名、魔狼と呼ばれる魔獣だ」
「グルルルル……!」
アリヴィナの姿をしたウォーグは、私たちに襲い掛かるべく間合いを計っているようだ。
「お前たちが勝ったら全員解放してやる。でもな、お前たちが負けたらイザベラとアリヴィナ、そしてお前らの魂を食べさせてもらう。言っておくが、拒否はお前らの負けだ。魂は例によって、キーホルダーの中だ。ほら!」
デュランは、私たちにアリヴィナとイザベラの魂の入った、小さなデータキューブのキーホルダーを投げて寄越した。
私は、一つを何とか受け止めることに成功した。もう一つは、ジュリアスが受け取ってくれた。
「ロイドとハモンドが言いそうなパスワードを何とか考えよう!」
「うん!」
クェンティンの言葉に、デュランはチチチと指を振った。
「違うんだなぁ、今回のパスワードは俺が決めたんだ~」
「なんですって!?」
そんなこと到底分かるはずがない。だが、デュランは容赦ない。
「文句は言わせねえ! さあ、ゲームスタートだ!」
デュランが合図すると、アリヴィナが飛び掛かってきた。




