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不可思議少女は今日も可視する  作者: 幻想桃瑠
◆第三章◆【鳥居香姫は不可思議な景山澄恋との出会いを楽観視する】
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第五話 古代魔法学の野外授業*

 翌日からは、アンディ・ビートン先生の古代魔法学の授業だった。ビートン先生は、ジェントルマンで優しくて生徒に人気のある先生だ。

 野外授業で古代魔法の遺跡を見学するため、一時間かけて近くの山の洞窟まで来ていた。


「一緒に回りましょ!」

「うん!」


 イザベラという仲の良い女友達ができたことで、私の心は弾んでいた。私は、運動音痴な方だが、山登りも苦ではなくなっている。ちょっとした観光気分で、異世界の山の風景を楽しんでいた。天気も良いし、木々の隙間から吹いてくるそよ風も澄んでいる。時折、聞こえてくる虫の鳴き声が、耳に心地良い。


 私は、イザベラの面白可笑しい話を聞いて、笑い合っていた。イザベラは笑いのセンスが抜群で、ちょっとした漫才を聞いている気分だ。


「なんか、リリーシャとハモンド仲良くなってるね」

「楽しそうだから、放っておこう」


 二人の会話には、ジュリアスもクェンティンも入って来れないでいる。特にジュリアスはイザベラを振ったものだから、罪悪感があるらしい。何と言って、割り込めばいいのか分からないようだった。


 そして、『ファルコン組』一行は洞窟に到着した。洞窟の前にも、ギリシャ神殿の名残のような朽ちた柱が、木々に紛れて横倒しになっている。遺跡の雰囲気が醸し出されているので、私はいっそう興奮した。


「この遺跡は、巫女たちが導きの女神『フォーネ』に神託を聞くために設けられた場所と言われています。洞窟には各部屋があります。けれども、巫女たちの知っている道から外れてしまうと罠が作動して二度と戻れません。くれぐれも私からはぐれないように!」


 生徒たちは『はーい』と返事した。そして、ビートン先生の後ろをついて行く。はぐれると二度と戻れないと聞いて警戒したが、すぐに遺跡の素晴らしさに心を奪われた。


「壁に書かれているのが古代魔法の呪文だと言われていますが、朽ちていて読めませんね。読めたら、フォーネが召喚されるかもしれませんよ」


 ビートン先生の解説を聞いて、アリヴィナはガーサイドを突っついた。


「こんなこともあろうかと思って、古代文字の辞書持って来てんのよね!」


 アリヴィナ・ロイドはデータキューブでない辞書を持って来ていた。


「紙でできてんの! だからこんなに重いのよ!」

「へぇ、珍しいもん持ってんだな」


 レヴィー・ブレイクまでやってきた。しゃがんでページを捲っているアリヴィナの後ろからそれを眺めている。紙で出来ていることがそんなにすごいことなんだろうか。アリヴィナたちはそのことに興奮しながら、あーだこーだ言いながら読んでいる。

 ただ、ガーサイドだけは呆れていた。


「んな重いもん持って来てどうすんだよ」

「帰りはアミアンが持ってね!」

「ふっざけんな!」


 アリヴィナとガーサイドは相変わらずにぎやかだ。


 一方、ジュリアスとクェンティンは何故か共に見て回っていた。ここだけ、お通夜みたいな重苦しい空気だった。


「何が悲しくて、ノースブルッグと一緒に見学しなくちゃならないんだ?」

「フフフ……その言葉そっくりそのままシェイファーに返すよ……」


 いつもは、私が一緒にいるので三人一緒なのだが、私が抜けてしまったせいで何故か二人は一緒に回る羽目になっている。時折、険悪な空気をぶつけ合わせながら、ジュリアスとクェンティンは一緒にいた。


 そんなことを露ほども知らない私は、イザベラと一緒に遺跡の造りを楽しんでいた。

 ビートン先生の解説の通り、壁には古代文字が刻まれていた。しかし、それは朽ちて読めない。朽ちていなくても、私は古代文字を知らないので読めないだろうけれど。


「リリーシャさん、ここすごいわ!」


 振り返ると、イザベラが四つん這いになって、床を指差していた。私もしゃがんでそれを観察した。手で埃を払うと、丸い円と古代文字が浮かび上がった。


「あっ、本当! 魔法陣みたいな模様がある! すごい!」

「ここに書かれてあるのって何かしら? 読めないわ」

「えっ、あ、本当、何だろう……えーと?」


 疑問を持った私は、ごく自然に可視していたらしい。魔法陣を可視している私の前に、サッと何かが横ぎった。それを何気なく目で追う。

 すると、後ろの部屋の前に青白い女が立っていたのでギョッとした。ここしばらく、幽霊とは無縁の生活をしていたのに見てしまった。彼女はギリシャ神話の中に出てくるような服装をしているが足がない。


 彼女が手招きした。普通ならそんな手招きについて行くような私ではない。五歳児だって、怖がってついて行かないだろう。けれど、その時の私は『それ』を『可視』していたのだ。だから、それに魅せられてしまったのかもしれない。


 恍惚として幽霊の後ろを付いて行く私を、イザベラが見送っていた。口の片端に笑みを浮かべて。


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