第四話 イザベラ・ハモンドの告白*
ハモンドは、腰より長いストレートの金髪を持ち、頭にはヘアバンドをしている。背の高さはリリーシャとあまり変わらない。品のある清楚な女の子だ。
ハモンドはジュリアスと目が合うと頬を染めて、震える手をもう片方の手で鎮めている。そして、意を決して身を乗り出した。
「ジュリアス様! お話があります!」
私は彼女を唖然として見上げていた。今まさに食べようとしていたフォークに巻きつけたパスタが、するりと解けて皿の上に落ちた。彼女がジュリアスを様付けで呼んだことに驚いたのだ。
ジュリアスはジュリアスで面倒臭そうだ。人を寄せ付けない空気を醸し出しながら、ソファに座ったままハモンドを見上げている。
そんな空気を出しているものだから、少女は臆したらしい。
「……何かな?」
「ここではちょっと……」
ハモンドの声は尻すぼみになった。そして、彼女はとうとう俯いた。ジュリアスは、嘆息すると立ち上がる。
「良いよ、廊下で話そう」
「はい!」
そして、二人は医務室から退室した。
私は閉まったドアの方を見ながら、クリームパスタを口の中いっぱいに詰め込んだ。
ジュリアスが不機嫌なのは、食事を邪魔されたからかもしれない。私なら食事の最中に席を立つのは嫌だ。
「あの人ジュリアス君の事様付けしてたけど、ジュリアス君ってもしかして貴族なの?」
私が言ったことが笑いのツボを得ていたらしく、クェンティンとクレア先生は吹き出した。
「やーね、好きだから様付けするんじゃないの? つまり呼び出されたのは愛の告白をするからよ!」
「ええっ!? そうなんですか!?」
やっとそれで私は、ジュリアスが様付けされていた理由を知った。つまり、私が初恋の人を好きなのと同じ道理なのだ。好きな人を崇拝する気持ちは分からなくもないけど……。どうして、ハモンドはジュリアス君が好きなのだろう。彼は、あんなに無愛想で意地悪なのに。無言で白身魚を頬張る私を、クェンティンが複雑そうな顔で見ていた。
「リリーシャは気になるの?」
「……別に?」
私には、日本に好きな人がいるので、ジュリアスの恋愛に干渉するつもりはない。でも、何となく面白くないのは何故だろう。そんな私を、クェンティンが複雑そうな顔で見ている。
そうこうしているうちに、ジュリアスが戻ってきた。
「シェイファー、もう話は済んだの? 早いね?」
「ああ」
「……ジュリアス君、告白されたの?」
「そういうことだね。ところで、どこの誰がモテないって?」
ジュリアスは得意げだった。あんなに、彼女の話を聞くのを嫌がっていたのに調子がいい。
「ああ、ハモンドが、リリーシャのことを呼んでたよ」
「ええっ? 私に何の用だろ……」
恐る恐る廊下の外に出る。ハモンドは、魔法灯の明かりから少し外れた廊下の隅に立っている。
「えーと、ハモンドさん?」
「……リリーシャさん、私とお友達になってくれません?」
「えっ、お友達?」
いきなりイザベラに手を握られて、私は焦った。
お友達になりたいと言ったのか。
「ええ、ジュリアス様と仲の良いリリーシャさんにお近づきになりたいのですわ」
「良いけど……私でいいのかな?」
「ええ、勿論よ! 後、私の事はイザベラと呼んで?」
「うん! イザベラさん、よろしく!」
私は友達ができたことを喜んでいた。イザベラが何を考えているのかも、その時は全く考えていなかったのだ。
それから、私は寮の自室に帰った。
私は、クェンティンのパスワードを言い当てたことを思い出していた。
またリリーシャの手を可視すれば、彼女が殺された時の事を見つけることができるかもしれない。
思い切って、リリーシャの手を可視してみた。
リリーシャの身体には、強い想いが残るらしく、クェンティンの事が大半を占めている。それでも、しつこく可視していると、いきなり、頭に衝撃が走った。リリーシャは誰かに殴られたらしい。強い痛みに、私は倒れた。ついに犯人の顔を見ることはできなかった。
気が付くと朝になっていた。痛みは消えて、何事もなかったかのように元気だ。やはり、私は残留思念を感じただけなのだ。強く感じたために、私は気絶してしまっただけだったのだ。