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不可思議少女は今日も可視する  作者: 幻想桃瑠
◆第三章◆【鳥居香姫は不可思議な景山澄恋との出会いを楽観視する】
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第三話 夜の七時

 私は、医務室のベッドの上に座って落ち込んでいた。ガーサイドとクレア先生が、慰めてくれている。けれども、私の心は癒えない。

 日本にいた頃、幽霊が見えるということを打ち明けた私は、クラスで仲間外れにされたことがあった。その事を思い出して一人沈んでいた。


「リリーシャ!」


 ジュリアスに続いてアリヴィナも入ってくる。


「ジュリアス君……クェンティン君と何の話をしていたの?」


 不安になって尋ねると、ジュリアスはそれを払拭するように微笑んだ。


「僕とノースブルッグはリリーシャの事を相談していただけだよ」

「えっ、私の相談?」

「そう、君の相談!」

「悪口言うために二人して出て行ったんじゃないの?」

「そんなことするはずないだろ?」


 ジュリアスは安心させるように、微笑んだ。どうして私のことを相談するのかが分からない。私の事を話すなら、私の前で話せば良いことなのに。


「良かったね、リリーシャ。じゃあ、私等はもう寮に戻るわ」

「じゃあな」


 アリヴィナとガーサイドが去った後は、妙に辺りが静かになっている。

 静けさに安心したのか、お腹が切ない音を立てた。


「それにしても、お腹すいたなぁ……」


 私はお腹をさすった。辺りは暗くなって、魔法灯の光がいつの間にか点いている。医務室の掛け時計は、夜の七時になろうとしていた。


「早く食べに行かないと、食堂閉まっちゃうわよ? てっきり食べたのだと思っていたのに」


 クレア先生は、まだ夕食を食べていない私たちに驚いていた。暢気に構えてて、食事を摂ることを忘れていたのだ。


「ええっ、どうしよう!」

「早く行こう!」


 ベッドから下りて靴を履く。

 ジュリアスの手を取って駆け出そうとしたときだった。


「それには及ばないよ」

「クェンティン君!」


 クェンティンがドアを開けて入ってきた。彼が手をサッと滑らせると、ドアから食器が入ってきてテーブルの上に整列した。


 コーンのような甘い匂いがするクリームパスタと、ハーブとお酒の香りがする白身魚のソテー。しかも、オレンジのような柑橘系の付きのジュース付きだ。


 しかも、ちゃんと二人前ある。クェンティンは食堂から魔法を使って持ってきてくれたらしい。やっと魔法を解いて、一息入れる様にソファに腰かけた。


「ふぅ……ほら、リリーシャもシェイファーも食べて」

「わぁ! 美味しそう!」

「僕の分まで持ってきてくれたのか?」

「実は、食堂で待っていたんだけど、リリーシャやシェイファーが来ないうちに食堂が閉まってしまったからね」


 これには、ジュリアスも感動したようだ。私たちの間でクェンティンの株が上がった瞬間だった。


「クェンティン君ありがとう!」

「ノースブルッグ、サンキュ!」

「どういたしまして」


 私たちはクェンティンが見守る中で食事を開始した。そこに一人の少女が気分悪そうにしながら入ってきた。クラスメイトのイザベラ・ハモンドだ。


「クレア先生、お腹が痛くなったので、治癒の魔法をかけてくれませんか?」

「ああ、ハモンド、そこに座って?」


 ハモンドはクレア先生に治癒の魔法をお腹にかけてもらっている。当然ながら、ここは私専用の医務室でもなければ、私たちのたまり場でもない。普段通りに気分の悪い生徒たちが、クレア先生の治癒の魔法を頼りにやってくる。


「このパスタ、美味しい! クェンティン君、選ぶの上手だね!」


 クェンティンを褒めると、ジュリアスの片眉がぴくっと跳ね上がった。


「リリーシャ、知ってた? 夜遅く炭水化物を取ると太るんだよ」

「えっ!?」


 ジュリアスが意地悪そうな顔をして私の耳元でささやいたのだ。それを聞いたクェンティンは苦笑している。


「大丈夫だよ。リリーシャは太っても可愛いから」

「ありがと、クェンティン君!」


 しっかりと、ジュリアスの囁きは周りに聞こえていたようだ。私とクェンティンは仲良く微笑み合う。

 ジュリアスは面白くなさそうだったが、気を取り直して意地悪そうに笑った。


「確かに、ぷくぷくして可愛いよ、ぷくぷくしててね」


 そう言いながら、私の腕を軽くつまんだ。私は、ムカついて勢いよくジュリアスの手を振り払った。


「ジュリアス君は相変わらず意地悪だよね! モテないよ!」


 私が反撃すると、ジュリアスはフフンと笑って続けようとした。


「そんなことありません!」


 ジュリアスはセリフを奪われて、口をぱくつかせている。


「えっ……?」


 今のセリフは一体……? 一斉に声の方に視線をやると、イザベラ・ハモンドがそこに立っていた。お腹を壊して医務室にやってきた少女だ。先ほどまで、クレア先生に治療されていたようだけど……?

 彼女は、ジュリアスを見つめて、立っていた。

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